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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『[アルファの伝説]音楽家 村井邦彦の時代』ほか

今週の新刊

◆『[アルファの伝説]音楽家 村井邦彦の時代』松木直也・著(河出書房新社/税抜き2500円)

 ザ・タイガース「廃墟の鳩」、トワ・エ・モア「或る日突然」、辺見マリ「経験」など、多くの名曲を世に送った作曲家の村井邦彦は、アルファミュージックを率い、音楽プロデューサーとしても新しい音楽を創り出した。

 松木直也『[アルファの伝説]音楽家 村井邦彦の時代』を読むと、その革新性と独創性がわかる。アマチュアでプロ入りをしぶる赤い鳥に「日本の音楽を一緒に変えよう」と説得し、いきなりロンドンレコーディングを敢行した。

 その後もガロ、荒井由実、YMOと、まだ30代の村井により、才能が開花していったのである。青白い芸術家ではない。雑誌広告やCM、音楽番組とのタイアップなど、売ることを重視した。ユーミンのアルバム「ひこうき雲」誕生秘話など、読んでいてゾクゾクする。まさに「村井マジック」。

 「人生すべてプロモーションだよ」の言葉通り、1970年代以降の日本の音楽の流れを大きく変えた男と、その時代の物語。

◆『漂うままに島に着き』内澤旬子・著(朝日新聞出版/税抜き1500円)

 自ら豚を飼い、解体し、喰(く)らう。その体験をつづった『飼い喰い』ほか、さまざまなジャンルをイラストつきで体験型リポートする、注目の作家が内澤旬子。

 長らく東京在住だったが、乳がん、離婚、高い家賃の狭い部屋に嫌気がさし、「やっぱり東京を出よう」と決意。香川県の小豆島へ移住した。『漂うままに島に着き』は、決意から家探し、引っ越しに至るまでのドタバタと、島暮らしの日々を報告する。

 周囲の友人や編集者に「内澤さんが地方で暮らせるわけがない」と呪いの言葉をかけられながら、東京と小豆島を行き来し、2014年6月、家賃4万円の古い一軒家を手に入れた。便所は汲(く)み取り、風呂は五右衛門風呂。しかし、目の前にいつも海が……。

 本書を読んで驚いたのは、いま都会を離れ、島へ移住する独身女性の多いこと。斡旋(あつせん)する自治体、離島専門の引っ越し業者まである。しがらみさえなければ、人生は容易に軌道修正できるのだ。

◆『駆逐艦「不知火」の軌跡』福田靖・著(北辰堂出版/税抜き1600円)

 日本連合艦隊といえば「武蔵」「大和」など巨大戦艦を想起するが、レイテ沖海戦で、もっとも活躍したのは、小型駆逐艦36隻であった。福田靖(きよし)『駆逐艦「不知火」の軌跡』は、その最後を資料と取材で見届ける、迫真のノンフィクション。軍艦の護衛をしながら、機敏に魚雷を撃ち、最前線で肉薄する駆逐艦の真実は、本書で初めて知った。「お前たちがいま生きているのは明日死ぬためである」と上官に言われ、散った若者たち。著者の兄はその一員、「不知火」機関兵であった。

◆『呑めば、都』マイク・モラスキー/著(ちくま文庫/税抜き900円)

 『呑めば、都』の著者マイク・モラスキーは、日本のジャズ喫茶と居酒屋をこよなく愛す、昔でいえば「変なガイジン」。東京中のあちこちに夜な夜な出没し、一方で酔いつつ、一方で街と人々を観察する。平和島で初競艇をし、大井町駅前の立ち飲み「肉のまえかわ」へ。「長年の常連が集まるゆえに、いわば『肩の凝らない活気』」が生まれると、この店の特徴を見抜く。ほか、洲崎、赤羽、立石、西荻窪と、外国人観光客は行かない酒の聖地を巡礼。そこから見える「東京」とは?

◆『ゴジラとエヴァンゲリオン』長山靖生・著(新潮新書/税抜き720円)

 公開4日間で興行収入10億円を超え大ヒット進撃中の映画「シン・ゴジラ」。監督は、アニメ「エヴァンゲリオン」で若き世代の圧倒的興奮を誘った庵野秀明。日本SF大賞受賞『日本SF精神史』の著者・長山靖生は、『ゴジラとエヴァンゲリオン』で、日本を壊滅させる二つの異形の怪物を、庵野を媒介に直列させる。「核への潜在的な恐怖」を体現したゴジラ、「閉塞感と無力感に苛まれていた時代」に生まれた1995年初放送の「エヴァ」。その企みと謎がここに明らかになる。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年10月2日号より>

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