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<記者の目>世界考古学会議京都大会=佐々木泰造(大阪学芸部)

さよならパーティーで記念撮影するアクラム・イジュラさん(左端)、ファトメ・ダラワドさん(中央、ヒジャブ着用)ら=京都市で2016年9月2日、佐々木泰造撮影

立場超えて社会問う

 80カ国・地域から1564人が参加し、世界考古学会議(WAC)の第8回世界大会が今月2日まで6日間、京都市で開かれた。世界大会は原則として4年に1度。東アジアでの開催は初めてだ。政治や宗教を巡って世界でさまざまな対立が深刻化する中、考古学を通じてよりよい未来を生み出そうと議論する姿に、人が立場を超えてつながることの大切さを思った。

     WACは1986年、アフリカの人種隔離政策に考古学者はどう対処すべきかという議論から生まれた。学術会議でタブーとされがちな政治、社会問題を扱うことは、WACの存在理由そのものだ。

     京都大会には考古学者ら日本人481人が参加した。このうち実行委員25人、学生ボランティア180人を除いても、前回(ヨルダン)の10倍近くになる。他に、今回特別に設けられた1日券を延べ167人が利用した。

    開発と先住民、どう関わるか

     約160の分科会のうち、「鉱山開発と先住民」は、人類学者、尾本恵市さん(東京大名誉教授)の提言から生まれた。尾本さんは、かつて遺伝学的調査に協力してくれたフィリピンの先住民ママヌワが、鉱山開発によって狩猟採集生活の場を奪われたことに心を痛め、先住民から恩恵を受けた人類学者として何かできないかと昨年1月、本紙の「発言」欄に寄稿した。

     海外にも訴えたいという尾本さんに、私はWACへの参加を勧めた。WACは考古学者だけでなく、「過去」に関心を持つすべての人に開かれ、性、年齢、民族の別なく平等に発言の機会を与えている。先住民考古学を専攻する前会長のクレア・スミスさん(オーストラリア・フリンダース大教授)、先住民文化を調べている羽生淳子さん(米カリフォルニア大教授)も主催者に加わった分科会で、呼びかけに応じた考古学者たちが、オーストラリアの鉱山、米国の石油運搬、ブラジルの貝塚からの石灰採取、グアテマラ、北海道のダム建設の問題点について報告した。

     考古学者は、先住民の伝統文化や遺跡の価値を知らせ、保護することにも貢献できるが、お抱え学者として開発の先棒を担ぐこともできる。南アフリカの考古学者も加わって意見が交わされ、全体会で、考古学者が開発者とどう関わるかについての合意事項を定めるよう求める大会決議が採択された。

    福島原発事故と文化財の保護

     「災害」のテーマでも日本発の分科会が開かれた。「福島からの声」の分科会では、福島第1原発事故で被災した文化財の現状と保護について自治体の担当者らが報告した。米国の研究者は、核実験が行われたマーシャル諸島の環境破壊と住民の生活について報告し、チェルノブイリ原発事故で立ち入り禁止となった区域を現代の遺跡として調査するオーストラリアの研究者らと意見交換した。

     低所得国や先住民の参加を促すため、1200万円の予算で29カ国・地域、88人の渡航が助成されたが、アフリカなど遠い地域からの参加が少なかったのは残念だった。

     前回多かったパレスチナ自治区からの参加はなかったが、パレスチナ自治区出身のアクラム・イジュラさん(スウェーデン・ウプサラ大准教授)がWACに初参加した。2014年までガザ地区に住み、パレスチナ考古文化遺産局長だった。イスラエルのガザ侵攻の戦闘で封鎖が解けた一瞬に脱出したが、両親、兄弟は逃れられず、電気も水もない中で亡くなった。

     ノルウェーから参加したガタス・サエジュさん(自治体学芸員)もパレスチナ自治区出身だ。2人は同い年で、80年代にヨルダン川西岸地区のビルゼイト大で共に学んだ。京都大会での再会は27年ぶりだった。2人は、考古学の政治利用を研究しているイスラエルのケミ・シフさん(大学院生)や、会長の溝口孝司さん(九州大教授)らとともに、パレスチナ自治区でのイスラエルの不法発掘や遺跡破壊に反対し、双方の考古学者が研究交流するよう求める大会決議を共同で起草した。

     ヨルダンからは、大学生だった前回、私と知り合ったファトメ・ダラワドさんら2人が参加した。彼女は今、公益社団法人「日本国際民間協力会(NICCO)」(本部・京都市)の現地スタッフとしてヨルダンの難民キャンプで働き、シリアの子どもたちの傷ついた心のケアをしている。考古学研究も続け、先月、修士の学位を取得した。国際ボランティアの一員として会議の運営を助けながら、「シリア」「パレスチナ」「学生討論」などの分科会に参加した。

     世界には経済格差や政治対立などの壁がある。人がつながることで壁を壊そうとするWACの挑戦が、世界を変える力になると信じたい。

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