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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 佐藤究 『QJKJQ』

騙し絵のようなこの世界の“リアリティー”を描いた怪作

◆『QJKJQ』佐藤究・著(講談社/税抜き1500円)

 もしも「殺人遺伝子」なるものがあったら。それを持つ者は躊躇(ちゆうちよ)なく人を殺し、郊外の住宅地にひっそり住み、普段は殺したことさえ忘れている。そんな一家にまさかの殺人事件が起きる。犯人は身内か、それとも−。

 「この話をどこから発想したのかは、地球の誕生が46億年前であるというのと同じで、深すぎてわからないんですけど」と、振り返る佐藤さん。ついこの間まで郵便局員として深夜の仕分け作業に従事していた。「慣れると仕分けしながら筋を考えられる」そうで、休憩中に食堂でノートを見返したりしながらこつこつ書いた小説が、2度目の挑戦で江戸川乱歩賞を射止めた。

「1度目でやめたら『何だその程度のもんか』ということになる。これは次も出せということだと勝手に思いました」

 「完成度が低かった」という1作目を反省し、2作目で核としたのは「殺人とは何か」「探偵小説とは何か」を突き詰めること。奇(く)しくも地元を同じくする夢野久作の作品を研究するうち、私たちは“騙(だま)し絵”の世界に生きていると気づいた。小説はフィクション、政治は現実−ではない。伊勢神宮で参拝する日本の首脳陣もフィクションではないか。であれば、現実と虚構がひっくり返る世界が小説の中にあったとしても、極めてリアリティーのある怪作となる。

「普段見ている世界が、角度を少し変えるだけで違った物に見えてくる。イメージは、ミステリーというよりマジシャンのテーブル手品です。元々ミステリー専門でもなかったし、ベテランがひしめきあっているジャンルで職人芸を目指しても上手(うま)くいかないだろうと思って」

 デリュージョン(惑い・妄想)を物語化し、これまでの乱歩賞にない作品と評判を呼んだ。

「ここまで来られたのは追い詰められていたからかもしれません。20代の終わりに『何か書いたら群像に送るといいよ』と好きな先輩にぽろっと言われて投稿してみたのが、そもそもの始まりです。当時は健康食品会社に勤めていましたが、受賞して拾っていただいたからには後戻りできないと、腹を括(くく)りました」

 上京し、夜勤の傍ら原稿を書く生活に入る。酔いどれ作家のブコウスキーが、売れる前は郵便局員だったという逸話に憧れた。ちなみにS・キングは元図書館員。クビになりにくい公の仕事はやさぐれたちを癒やし、引き寄せる力があるらしい。バイト仲間には、元格闘技チャンピオンなど、成功体験を忘れられずにいる人がひしめいていた。

「そういう人が深夜の休憩所でウィトゲンシュタインを読んでいるんです。同級生は家を建てたり社長になっていたりしますが、僕は引き返せないところまでとことん行くつもりです」

 再び腹を括りなおした今、次作も「登場人物に責任を持ちたい」という。小説は作者が「勝手に」終わりにできるが、人物にはその先がある。17歳で殺人一家の宿痾(しゆくあ)を背負った本作主人公・亜李亜にもたらされる最後の「救い」は、その後の彼女の人生を支えてくれるだろう。それがまた読者の救いにもなっており、実に清々(すがすが)しい読後感をもたらす。

(構成・柴崎あづさ/撮影・中村琢磨)

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佐藤究(さとう・きわむ)

 1977年、福岡県生まれ。2004年、佐藤憲胤名義で書いた『サージウスの死神』が群像新人文学賞優秀作となりデビュー。本作で第62回江戸川乱歩賞を受賞。筆名・佐藤究は、乱歩賞審査員の今野敏氏発案による

<サンデー毎日 2016年10月16日号より>

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