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毎日メディアカフェ×毎日女性会議:詳報:外国人ジャーナリストから見た日本

毎日女性会議の様子

毎日メディアカフェ×毎日女性会議

詳報:外国人ジャーナリストから見た日本

 動画などによる情報発信を学ぶ連続講座「毎日女性会議」では、各界で活躍する著名人をゲスト講師として招き、発信者としての心構えや動画編集のスキルなどを学んでいます。2016年6月26日に行われた第5期3回目の講座には、香港フェニックステレビの李ミャオさんとシリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュさんにおいでいただき、外国人記者から見た日本の報道の現状や市民メディアの可能性などについて、講師の皆さんと語り合いました。そのやり取りを詳報します。【まとめ・松崎進】

    香港フェニックステレビの李ミャオさん

     李さん 香港フェニックステレビは中国で唯一の民間テレビです。開局は1996年で今年で20周年になりました。メインの視聴者は中国在住者ですが、北米、ヨーロッパ、東南アジアなど180カ国で放送され、2億人以上の方に見ていただいています。日本ではスカパーで視聴できます。こちらから

     2001年のアメリカ同時多発テロは、生放送で報じました。当時、中国では他局は放送していなかったので、多くの人に見られて話題になりました。女性キャスターもメークもせずに急いでリポートを始めました。これがフェニックステレビの原点だと思っています。07年には日本支局ができました。私は日本で起きている一番ホットな情報を、中国の視聴者に伝えています。フェニックステレビの放送は北京語で行っていますが、中国国内では海外メディア扱い。当局から特に報道についてダメ出しされることもありません。日本からは伝えたいことを伝えています。

    シリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュさん

     エルカシュさん 18年前から報道に関わっているフリーのジャーナリストです。主にアラビア語圏に向けてニュースを伝えています。皆さん、アラビア語圏ってどの地域か知っていますか? アラビア語圏はサウジアラビアなどのアラビア半島、私の出身であるシリアやヨルダン、レバノン。ナイル川流域のエジプト、スーダンです。それから北アフリカのリビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、モーリタニアなどのあたりもアラビア語圏です。日本のみなさんは、トルコとかイランもアラビア語圏と思われているみたいですが、トルコはトルコ語で、イランはペルシャ語です。

    アラビア語圏に向け、ニュースを伝えているエルカシュさん(右)

     トルコやイランは、料理や音楽ではつながりが強いんですが、メディアというくくりで考えると、言葉が通じることがとても大切なんです。だから、アラブメディアの話をするときは「トルコもイランもいらん」……。あ、オヤジギャグです。また、アラブメディアを考える上で大切なのは、石油があって、お金がたくさんあるアラビア半島にたくさん集まるということです。私はアラビア半島のサウジアラビア、ドバイ、クウェートにむけてニュースを送ることが多いです。

     ここで私の故郷のシリアの話をさせてください。シリアはずっと独裁政権です。実は昨日までシリアの隣国、レバノンにいて家族に会っていました。私は反政府を標榜(ひょうぼう)していますので、今はシリアに入国できません。家族もレバノンに住んでいます。今日はみなさんに首都のダマスカスのおやつを持ってきました。皆さん、どうぞ。

     レバノンは、比較的自由な民主主義の国です。シリアとレバノンはもともと同じ国でした。シリアとレバノンの関係は中国と香港の関係と少し似ていると思います。シリアで言えないこともレバノンでは新聞で伝えることもできます。中国人も香港に行けば……ということですよね。

    ダマスカスのおやつを持ってきたナジーブ・エルカシュさん

     そういう意味で見ると、日本は悲しいと思います。中国やシリアは言葉が通じる大陸のつながりがあります。自国でダメでも外の国に行けば、法律の範囲外で母国語で自由に発信できます。メディアとしての余裕が生まれます。でも日本は島国で、外に出れば外国語です。市民メディアも法律が適用される日本国内でやらなければいけません。これは重要なポイントだと思います。例えば、日系アメリカ人とかなら日本の法律を避けて発言することができますが、なかなかそういう機運がありません。私はシリア人だから外から伝えるという発想になります。これからの日本では本当に自由に発言できるか心配しています。

     日本のメディアは、良く言われていることですが、政府に従いすぎていると感じています。右と左で考えれば、右はそもそも政府に近すぎるし、左はあまりにたたかれていると感じます。

    シリア在住の市民記者が空爆で昨日、死亡……

     日本でのシリアに関する報道について、不満を感じています。過激派組織「イスラム国」(IS)の報道がたくさんあります。私も日本のメディアと一緒に仕事をしていたんですが(フリージャーナリストの)後藤健二さんの件とか、ショッキングなこと、絵になることは頻繁に報道されますね。実際にはほとんどがシリア人がシリア人を殺しているというのが現状なんです。アサド政権が軍をつかって、反政府の人たちを殺しているんですよね。でもこのことは、日本でほとんど報道されていません。シリア人はシリア政府からの空爆で困っているんです。反政府の人たちが住んでいる地域を軍が包囲して、餓死させているのもそのひとつ。でも、シリア国内は国営放送では政府の言うことしか報道しません。だから、シリアの市民記者は、国外から政府軍がやっている事実を伝えています。その役割がとても大切なんです。

     シリア側のニュースキャスターは、軍と一緒にくっついて報道しています。この写真はショッキングですが、市民の遺体をバックに自撮りしています。こんな非道徳的なことをしているんです。一方で、この方はシリアの市民ジャーナリストですが、政府軍からの空爆で昨日亡くなりました。政府の言いなりにやっていると大変なことになるんです。それは日本の人たちにも知っておいてほしいと思います。

    シリアを表した風刺画の説明をするエルカシュさん

     これは、シリアの国営テレビを批判している風刺漫画です。シリア人は風刺が好きです。政府軍がシリアを空爆しているのに、国営テレビはバラとハトしか描かないというもの。これも面白い。軍事政権の下でもちゃんと生活できているじゃないかという発言に対して、この風刺画では普通に生活できていても、政府の履いた靴の下で生きているということを表現したものですよね。

     シリアでは、市民記者のトレーニングが必要です。なぜならカメラの使い方を知らなかったり、インターネットがそれほど普及していないので、パソコンの使い方を知らなかったりする人が多いのです。でも、誰に習うのかが問題になります。市民記者のトレーニングを支援するNGO団体がありますが、そこの支援団体の背景が問題になるのです。それは、お金を出した団体が属する国の利益がかかっているので全面的に信頼しにくいんです。でも、シリア人は、ひどい独裁政権と戦いたいと思っているので、そういう背景があってもトレーニングを受けています。今では民主化のデモに参加しながら、スマホで情報発信をやっている人もいます。

    日本のメディアの課題

     堀潤さん 日本人は日本と関わらない海外情勢について感度が低いのではないかという意見があります。日本での取材や国内メディアの課題などを教えてください。

    東日本大震災発生当時、李さんはフェニックステレビで日本の情報を中国語で伝えていた

     李さん 日本の取材で一番印象に残っているのは東日本大震災の取材です。震災直後に福島の状況が全く分かっていない中で、原発事故で騒いでいても、官邸の中ではマスクを着ける記者などいなくて、みんな冷静に行動していたのが印象的でした。私はその時も一人で放送をしていました。原子力安全・保安院(当時)の中から中継していましたが、その時、保安院は何百枚も資料を出してくるんですけど、内容をすべて理解できる記者は一人もいなかったと思います。東京電力の対応も悪かったですね。何度も電話したのですが、聞くたびに言うことがころころ変わっていました。

     震災の様子を伝えるリポートの途中で私が泣きそうになった時があったんですけど、それが中国版ツイッターの「微博」で話題になりました。日本の災害に中国人が同情すべきかということです。気持ちが分かるという意見がある一方で、何で日本に同情する必要があるんだという意見もありました。

     日本のメディアの特徴として「海外メディアの対応を気にする」ということがあると思います。たとえば、安倍(晋三)首相が靖国神社を参拝したというニュースを神社前で中継したのですが、リポートしている私の様子を日本のメディアが囲んで撮影していました。注目していただけるのはすごくうれしいことですが……。また、この時、日本のメディアの方が「なぜ、日本の総理大臣が靖国を参拝してはいけないのか」と話しかけてきたのです。私も議論が好きですので話したいのですが、中継しなくてはいけなくて……。私は首相が靖国を参拝すべきかどうかは視聴者が考えるべきだと思っていますので、フラットに放送するよう心がけています。批判するだけではなくて、日本国内で「首相が靖国を参拝すべきだ」という意見が多くあるその背景はなんなのかを考えなくてはいけません。反対と賛成のバランスを取ることが基本だと思います。

     下村健一さん そういうスタンスに対して「なんで反対しないんだ!」という意見はでてこないんですか?

     李さん はい、あります。微博のなかでそういった反応もすぐわかります。フェニックステレビの場合は、微博で意見をどんどん書いて、影響力を高めたいと思っています。会社からもテレビで言えなかったことを微博に書いてほしいと言われています。

    中国版ツイッター「微博」の李さんのアカウント。日本のニュースや自身が体験したことなどを中国語で投稿している

     堀さん 「これは微博に書いてはいけない」と、会社から指示されませんか?

     李さん 少なくとも、私はありません。ただ、日本のことはデリケートな問題も多くて、批判も来ますよ。

     堀さん 批判はどこから?

     李さん 華人です。中国語を話す人たちという意味ですね。中国の人もですが、台湾や日本に住んでいる中国語を話す人たちもです。先日、ある日本のテレビ局で、日本に来た中国人観光客の態度が悪いという放送があって、中国ではすごく不評だったんです。「抗議をすべきだ」って微博で騒いでいて。でも私はこのことについて微博に投稿はしなかったんです。そうしたら「なぜここで黙っているんだ」とか「わざと沈黙をしているのか」とかそういう書き込みがありますね。微博は、中国で初めてできたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で匿名で本当に言いたい放題。「売国奴だ」とかそれ以上のもっと汚いののしる言葉とかがあります。批判の内容は、みなさんが想像しているよりひどいと思います。それも日常茶飯事です。

     堀さん 微博のなかでは、中国共産党の執行部に関しての批判はないんですか?

     李さん あると思います。

     下村さん 日本の会社組織のメディアは「お前のところに来る批判は、組織の批判だ。だからやめてくれ」と来る。フェニックステレビの場合は、批判は会社が引き受けるからってことなんですか?

     李さん その面では非常に寛容的だと思います。東日本大震災の時、微博では「日本の地震は喜ばしい、歓迎します」というコメントがありました。そこで私は「08年の四川大地震のときに日本の人たちがどれだけ援助して、寄付してくれたのか」と書き込んだら1万4000のコメントがつきました。微博では、こうしたテレビで伝えられない、伝えきれない情報も伝えていきたいと思ってやっています。

     堀さん 李さんは、日本で中国が批判的に報じられている時、どう報道しているのですか? 例えば、尖閣の問題などは?

     李さん もちろん報道します。政府のオリジナルの声を使い、中国語のテロップをいれてそのまま放送します。これは他の中国の放送局はやらないことだと思います。例えば、フェニックステレビで伝えた鳩山由紀夫元首相の独占インタビューも、日本語をそのまま放送して、中国語のテロップを入れました。このインタビューで鳩山元首相が「『尖閣諸島は日本が奪った』と言われても仕方ない」と発言し、日本で大きな話題になりました。昨年は安倍首相のインタビューも行いました。日本の首相が中国のメディアのインタビューに応じるのは約7年ぶりということで話題になり、動画は約300万回も再生されました。

     下村さん 首相のインタビューはどういう交渉で実現したのですか?

     李さん とても難しい交渉でした。でも、日本側にもフェニックステレビが中国国内で影響があることを分かっていただいています。実際にこのインタビューは中国国内の他のメディアでも使われました。フェニックステレビのインタビューは、基本的に編集せず、そのまま放送するので、公平性が担保され、信頼していただいていると思っています。

     下村さん 中国からの情報発信は「統制されている。自由がない」と思っていましたが、そうではないんですか?

     李さん 国営メディアの場合はコントロールがあると思いますが、私たちは海外メディア扱い。なるべく中立的に伝え、エリート層に届くように心がけています。圧力は、少なくとも私のところには来ていません。

     下村さん 取材先で国営メディアの人と一緒になったら、どんな話をしますか? 「いろんなこと言えていいよな」みたいなことは言われませんか?

     李さん ライバルですので、あまりそんなことは話さないですね。でも、国営メディアでもいろいろ言いたい人がいるから、フェニックステレビに転職してくるんでしょうね。

    いまのシリアの状況は?

     エルカシュさん アラブのテレビでは「アルジャジーラ」が「フェニックステレビ」と引き合いに出されます。カタールが作ったテレビ局で、さまざまな意見が放送され、激しい対立を呼ぶこともあります。

    【上】緑の旗を振り、民主化を支持している人たちが集まってデモをしている【中】集団の外から、黒い旗を持ったイスラム原理主義の人たちのバイクが集まってくる【下】民主化のデモに入り、イスラム原理主義者のデモにしてしまう

     いわゆる「アラブの春」の問題は、宗教に関係なく民主主義を実現したいという人たちと、イスラム原理主義の人たちとの対立だと考えています。エジプトでは独裁政権が倒れると、選挙でイスラム原理主義の人たちが急進したということがありました。本当の民主主義国家を樹立したいという声と、その民主化の波に乗じて新しいイスラム原理主義の国を作りたいという勢力があるんです。この映像を見てください。緑の旗は民主化を支持している人たちの集まりですね。その集まりの外でバイクで走っている黒い旗を持っている人たちがイスラム原理主義の人たちです。黒い旗の人たちが民主化のデモの中に入ってきて、イスラム原理主義者のデモにしてしまいました。武力で市民の意思に反したデモにしてしまったんです。

     その点、チュニジアの民主化はうまくいったと思います。民主化が起こった後の選挙で、民主化活動に参加していなかったイスラム原理主義が選挙で勝ちました。そこに対立が生まれましたが、チュニジアでは話し合って、民主化の活動家と宗教団体が政権をシェアすることになってうまくいった。この人たちは15年のノーベル平和賞を受賞しました。

     堀さん アルジャジーラはどういう立場なんですか?

     エルカシュさん アルジャジーラは、ISはダメだけど、アルカイダ系のシリア征服戦線(旧ヌスラ戦線)は支持しているようです。宗教的な背景がアラブのメディアとしてはとても大切です。でも私はアルジャジーラには裏切られている感じがしています。アルジャジーラは選挙で勝った政府を支援しているんです。選挙で勝ったんだから仕方ないじゃんって。私は違和感を持っています。

     私はフェニックステレビだって、政府などのうまい道具になりかねないと思っています。資本や権力はメディアを縛る力が予想以上に大きいのです。その点、市民メディアは視聴率とか資本を気にせず発信できる。大きい利点だと思います。

     シリア中央政府は軍を持っています。イラン、ロシアのサポートがあり、市民とは比べられないほどの力を持っています。一方、民主化の活動家はお金も武器もありません。

    ビジュアルがないとニュースにならない

     エルカシュさん 大手メディアの問題についても話したいと思います。私は東日本大震災の時、宮城県気仙沼市に行って、津波で被害を受けている様子を取材しました。これはアラビア語圏で放送されましたが、激しいビジュアルがあったからシリアでもニュースになりました。しかし、その後もさまざまな問題があるのになかなかニュースとして放送されません。「ビジュアルがあるからニュースになる」というのは違和感があります。

     また、東北から子どもの服をシリアの難民に送るというプロジェクトに参加した時、「シリアで何が起こっているか知っていますか」と聞きました。すると、シリアには難民がいるということだけは知っていましたが、他は知らないんです。「かわいそうだから、とりあえず服を送っておこう」みたいな感じです。

     逆にシリアでは、広島は何が起こった場所なのかを多くの人が知らないんです。オバマ米大統領の広島訪問も「オバマがやって来たこと」だけがニュースなんです。私は広島平和記念公園についてリポートで伝えようとすると「ニュースバリューがない」と言われました。「いらない」とのことでしたが、私は放送されるまで頑張りました。今、シリアは空爆の被害が続いており、放送すれば必ず見てもらえると思うんですが、日本の放送局ではなかなか使ってくれません。市民メディアなら伝えたいことが伝えられます。

     イギリスの欧州連合(EU)離脱の問題を考えてみてください。経済的な面で見るとイギリスは英国に残った方が良かったと思います。でも離脱に投票した人は、移民問題、難民問題が怖いと言っていました。移民問題は日本では人ごとのようですが、円高基調になった根底にはこの問題があります。そしてなぜ移民がこんなに増えているのかという背景には、独裁者が空爆しているからなんです。そのつながりを分かってほしいと思います。地球はつながっているんです。

     市民と個人の関係についても言いたい。市民は一人ではありません。イギリスのEU離脱の問題では、「EUを出たい」というのは年配の方が多かったようですが、若者はEUに残りたかったと思っていたようです。でも、若者は仕事で忙しかったり疲れていたりして投票に行かなかったのです。イギリスの若い人が「老人が憎い」というツイートをして話題になりました。実は日本でも似たようなことがありました。大阪都構想の問題です。年配の方が大阪都になってほしくない。若者は大阪都になってほしいと投票したという傾向がデータでありました。

     では、何が市民で、何が個人なのか? 都市か地方か、若者か老人か……。そんなときだからこそ、個人の発信の重要性を感じています。市民メディアだから市民を代表するのではなくて、自分を代表して話す。こういう視点を大切にすべきだと思います。

     堀さん 毎日新聞では記者の発信をどういうふうに考えていますか?

    記者がSNSを使う必要性について話す小川一さん(右)と李さん(中)、エルカシュさん(左)

     小川一さん 私は記者個人でどんどん発信すべきだと思っています。でもなかなかSNSに慣れていないということや、組織の論理でどこまで整合性がとれるのかというところで問題を感じている人もいます。「全会一致」とはいきませんが、徐々に進んでいます。中国との関係のなかで、李さんは「微博」を活用して影響力を広げていますし、エルカシュさんは母国が滅びるかという時に、個人での発信を強めようとしています。毎日新聞も記者一人一人が発信していけば、全く違う組織になると思っています。

     堀さん 日本のメディアの課題は?

     小川さん 息苦しさというのはある気がします。新聞よりもテレビの方があるんではないでしょうか? 政権から具体的に何かというのはないんですけど、空気的にある気がします。また、日本のメディアはSNSを敵に回している感じもあって、炎上するのが怖いのではないでしょうか? でも、李さんなんかは、中国国内でもバッシングされて、日本でもバッシングされて。これはもう炎上どころではないですよね。今日は本当に勇気をもらいました。

    外国メディアに難しい警察取材

    日本の記者クラブの問題点を指摘する李さん(右)と話を聞くエルカシュさん(中)と下村健一さん(左)

     李さん 日本で9年取材してきて、海外メディアが日本で取材するのは、大変だと感じています。特に記者クラブ制度は本当に悪い。この制度はEUからも抗議を受けています。記者クラブに入らないと取材ができないんですよ。腹が立って仕方がありません。一番最初に東京支局を設立した時、ある記者クラブにあいさつに行き、代表カメラを使わせてくださいって言ったら「日本の総理官邸をなんと思っているのですか? 簡単に使えると考えていること自体がおかしい」と笑われました。これは本当に忘れられません。外務省と総理官邸には、最近になってようやくフェニックステレビが入れるようになりました。

     警察は取材が難しいですよね。最近では北海道の小学生を森に置き去りにした事件で警察に電話で取材をしたのですが、ファクスはダメなんですけど、電話で読み上げなら可能ですと言われました。会社名と外国記者章の番号と事務所の電話番号を聞かれました。電話はもちろんケータイはダメで、後で確認の電話がきます。実在するかを確認するためです。でもこれはいいほうで、台湾人とか中国人が関わっている案件は取材ができません。警察への電話は広報につながって「ファクスで質問を送ってください。何日か後に答えます」という対応です。ほかにもいろいろひどい目にあいました。日本の記者クラブは今後どうなっていくのでしょうか。

     小川さん 私は警視庁記者クラブに5年ほど所属していましたが、私たちへの情報も、李さんと同じく読み上げでした。さらに日本国内でも週刊誌の記者が来ても中に入れません。発表ということに関しては、「捜査の秘密」というところで壁を作っちゃう習慣が警察には残っていると思います。警察は、基本なにもしゃべってくれません。身内意識が邪魔をしているというところもあるかもしれません。記者クラブ内で、NHKと新聞社、テレビと新聞(ペン)でもめることもありました。テレビは会見を全部とりたいけど、新聞(ペン)は会見でそんなにしゃべるわけないじゃんと思って、テレビの会見は冒頭3分だけ頭撮りで、後はペンだと主張するんです。そこで記者クラブ内で議論になります。じゃあ10分にしようかとか。そういったやりとりはありますよね。

     エルカシュさん 私が東京スカイツリーのオープニングを取材しようと思い、問い合わせたところ「国土交通省の記者クラブのメンバーですか」と聞かれました。「なぜ国交省か」と言うと、「スカイツリーを運営しているのは東武電鉄だから国交省だ」と……。よく分からない。広報の人は、取材をしてほしいというよりも、取材を止めるのが仕事という感じですね。

     歌舞伎座のリニューアルの時も「たくさんのお客さんがくるので、表ではなくて、できたら反対側から撮ってください」と言われました。「反対側から撮るなら、許可はいらないんじゃないでしょうか?」という質問をしたら「そうですね」と言われました。日本は市民がメディアにもっとプレッシャーをかけなければならないと思う。「なんでこれを放送したんだ」という苦情は多いんだけど、「何でこれが放送されないんだ」という苦情は少ないんですよね。情報開示に関する市民の動きは鈍いですね。

     李さん 外国人記者は、「不審者扱い」ですよね。質問すらできない。欧米記者も少ないですよね。質問すると「えっ? 誰?」という雰囲気があります。外国人記者がしっかり質問することは必要なことだと思います。国内の記者だけだと、細かいところしか聞かないんですよね。でも私が質問すると、周りも記者も笑っているというのはすごく違和感があります。最近は私も知られるようになって、あんまりいじめられなくなりましたけれど。

     小川さん 本当にお恥ずかしいお話で、申し訳ありません。この間、フランスに行ったのですけど、ルーブルもオルセーもスマホで写真が撮れます。でも日本の美術館では難しいですよね。こういうところでカルチャーが違います。でも、日本国内でも若者はすぐにスマホで写真を撮ってSNSにアップするのが定着しています。時代は変わっていくものです。「ウィキリークス」が出てきて、信頼できるジャーナリストに暗号化したpdfでデータを送るという時代に、記者クラブのような空気感は通用しないのではないかとも思います。今後劇的に変わるだろうと思いますし、変わらなければならないと私は常々思っています。

     堀さん 記者クラブ制度を変えなくてはと思っている人は複数いるのでしょうか?

     小川さん 舛添前都知事の問題では、記者クラブ内には都知事担当の記者は100人いるのに、クラブに所属していない「週刊文春」にあれだけやられてしまった。これだけ人数がいて24時間見ていたのに、週末に湯河原に行っていたのを知らなかったのかよって、腹立たしく思うわけです。もちろん記者たちは恥ずかしいと思っていますが。記者クラブというこのシステムが疲弊していることを示しているとも言えるのではないでしょうか。

     下村さん 外国人記者と日本人記者という枠組みじゃなくて、実は記者クラブ内と外の人の問題ということだと思います。その外の人の一番外側にいるのが外国人記者ということですよね。内部から考えると、記者クラブ内の調整が大切なんですよ。内閣広報室で広報をやっていた時、市民記者を記者クラブに入れるのは本当に大変でした。官邸よりも記者クラブ内での調整がものすごく大変なんです。ある週刊誌が首相の単独インタビューをしたことがあったのですが、これもすごく大変でした。記者クラブ内で「(系列の)週刊誌にもうそんなことをさせません」という念書を書いて、記者クラブからの「破門」を免れた社もありました。市民メディアは、こういったしがらみがないところを最大限、生かすべきだと思いますね。

    一人一人の発信が社会を変える

     エルカシュさん 日本の会社制度を考えると、企業の広報の方はあくまでもサラリーマンで、実績じゃなくて失敗せずにいれば時間とともに出世できるシステムですよね。それが邪魔していると思います。また、日本ではプライバシーが尊重されているかというとそうではないと思います。芸能人のプライバシー侵害なんて批判されていませんよね。市民メディアは企業の発表やゴシップではなく、紹介されていない日本のいいところを発信してほしいですね。

     李さん 日本は自由で民主主義の国なので、個人の発信力で社会を変えていけると思います。SNSも積極的に情報発信に生かしてほしい、日本のメディアも活用していくべきです。また、外国人記者にはもっと寛容的で、取材できる環境を作ってもらいたい。

     下村さん 市民記者が活躍するようになると、海外メディアに優しくなるようになると思う。エルカシュさんの言葉で「広報の仕事は、報道を止めるのが仕事だ」とありましたが本当にそうだと思う。取材の時「明日の見出しを作るのが、広報の仕事でしょ?」って言ったら驚かれて「見出しにならないようにするのが広報の仕事だよ」と言われました。市民メディアは自分で見出しを作れます。どんどん出しちゃえばいいと思います。

     小川さん 世の中変わりつつあります。典型的なことは、宮内庁記者クラブは天皇陛下の写真を1社が独占します。でも陛下がラグビーを観戦された時、陛下の写真がツイッターにどんどんツイートされているんです。しかも宮内庁はオーケーを出していると聞いています。驚きですよね。その流れは止まりません。そういった流れの中で、市民メディアや海外メディアの方を応援していきたいと思います。

     堀さん 本日はありがとうございました。