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佐治博士のへえ〜そうなんだ!?

/107 言葉に秘められた意味 /愛知

音素の融合体「日本語」

 古池や蛙(かわず)飛び込む水の音(芭蕉)

     俳句といえば真っ先に思い浮かぶほど有名な句ですが、みなさんはどういう情景を思い浮かべますか? こけむした古い池の中に1匹の蛙が飛び込み、かすかな音をたてる。波紋が広がり、その音はしだいに静寂の中にのみこまれ……と、こんな感じではないでしょうか。つまり静けさです。でも不思議なことに、この句に「静けさ」という単語は一つも入っていません。

     最近になって、金子みすヾに代表される童謡詩人たちの作品や、神道で奏上される大祓祝詞(おほはらへのことば)などを音読する度に、日本語には外国語にはない独特の響きがあることに改めて気づくようになりました。言葉をつくる一つ一つの発音の中にも秘められた意味を持つ音があり、それらが単語としての意味に深みを与えているという事実です。

     英語を例にとれば、b、o、yという文字そのものには意味がなく、それらをまとめてboyといえば、初めて「少年」という意味になります。その一方で、日本語の「みどり」を例にとれば、“み”は「御」(すなわち神さま)、“ど”は「伝わる」、“り”は「来る」という意味ですから、神さまの御心(みこころ)が伝わってくる、という意味になり、自然との共生という意味を含む表現になります。英語のGreenにはない特質です。

     考えてみれば、大陸は地続きですから、互いの国同士の縄張り争いでいつも対立関係にありました。Greenという言葉には、それを見る人間と無機物としての色という対立関係を感じます。しかし島国の日本では、もめ事はあっても互いに力を合わせ、自然とも共生しない限り生き延びられなかったために、言葉の構造にもそれぞれ意味をもつ音素の融合体という特徴が生まれたのでしょう。

     ところで、人間とチンパンジーの遺伝子を構成するゲノムの違いは1%にも満たないといわれています。にもかかわらず、1万年前のチンパンジーと今のそれとはほとんど変わらないと推測される一方で、1万年の人間の進化には目覚ましいものがあります。四足歩行から二足歩行に進化したことから人間の脳が巨大化し、通常の動物の脳で起こっている軸索突起(じくさくとっき)を流れる電流による情報伝達に加え、細胞と細胞の間を埋める無数のグリア細胞があるために、情報伝達速度が速まり、新しい思考回路を獲得したためだと思われます。その一つが、外部からの情報を伝達表現する手段としての言葉の発明でした。

     私たち人間は動物も含め五感によって外部の情報をキャッチします。その中でも一番、直接的に脳とつながる情報は皮膚感覚だといわれています。脳も皮膚も同じ外胚葉性(がいはいようせい)のものだからです。その皮膚感覚は、母親からの授乳による一体感ともなり、胎内で聞く母親の鼓動という音感覚とも結びつきます。このように、音が優先される日本の大和言葉は、人間の原初的な感覚に最も近い稀有(けう)な言語だともいえるような気がします。=次回は11月7日掲載


     ■人物略歴

    佐治晴夫(さじ・はるお)

     1935年東京生まれ。理学博士。東京大物性研究所、玉川大、宮城大教授、鈴鹿短大学長などを経て、現在、同短大名誉学長、大阪音楽大客員教授。宇宙創生に関わる「ゆらぎ理論」で知られる。JAXA宇宙連詩編纂(へんさん)委員会委員長。

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