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SUNDAY LIBRARY 岡崎 武志・評『町の未来をこの手でつくる』『「フランスかぶれ」の誕生』ほか

今週の新刊

◆『町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト』猪谷千香・著(幻冬舎/税抜き1400円)

 岩手県紫波町(しわちょう)は人口3万人の小さな町。加速する少子高齢化で未来に暗雲が。しかも中心となる紫波中央駅前の広大な空き地は、10年も塩漬けにされていた。

 そんな町が、若い力で生まれ変わる。補助金に頼らず、公民連携による、全く新しい発想による開発と町づくり。その核が「稼ぐインフラ」、図書館と地域交流施設を持つ駅前複合施設「オガールプラザ」だ。「おがる」とは、地域の言葉で「成長する」の意。

 猪谷千香『町の未来をこの手でつくる』は、自由な発想で、わが町を再生したプロジェクトの全貌を報告する。すべて前例がない。決まったら即実行、走りながら修正するという姿勢で、100年後を視野に入れた「循環型まちづくり」を軌道に乗せる。

 いま、紫波町は視察の依頼が殺到する町として、年間90万人が訪れるという。やればできる。まさに「町の未来をこの手でつくる」だ。著者の粘り強く、丁寧な取材もまた、感動的だ。

◆『「フランスかぶれ」の誕生  (「明星」の時代 1900-1927)』山田登世子・著(藤原書店/税抜き2400円)

 「おそ松くん」のイヤミは、「おフランス」と言った。国名に尊称がつくほど、日本はあの国に憧れ続けた。山田登世子『「フランスかぶれ」の誕生』で、日本近代文学における「かぶれ」っぷりをつぶさに見て取る。

 その原動力になった与謝野鉄幹主宰の『明星』は、短歌雑誌と思われているが、じつは翻訳にページを割き、上田敏「海潮音」を掲載した。例の「秋の日の/ヴィオロンの」(ヴェルレーヌ「落葉」)は、まだ見ぬ「おフランス」かぶれを助長した。

 明治42年には『スバル』創刊。中心となった同人による「パンの会」は、隅田川をセーヌに見立て、「かぶれ」に酔った。また、『白樺』が印象派を紹介、この時代、文学と美術両面で「美しい青春の響宴」が繰り広げられたことを、本書は明らかにする。

 文語から口語への移行などの変化にも、夢見る都市であるフランスが大きく関わっている。「かぶれ」もまた、あなどれない。

◆『文明開化がやって来た』林丈二・著(柏書房/税抜き1800円)

 明治時代の新聞の図版は、写真ではなく挿絵。林丈二『文明開化がやって来た』は、図像に描かれた明治を、「チョビ助」(知ったかぶりのこと)をお供に、リアルな時間旅行を試みる。明治の新聞は日露戦争前までが面白い。明治といいつつ、まだ江戸式の日本人の振る舞いや生活が色濃く残っていたことが、豊富な図版から読み取れる。あるいは、初期の挿絵は「芝居がかっている」という考察も著者ならでは。そこに「我々日本人の基ともいうべき人たち」がいることを知るのだ。

◆『世界の名作を読む』工藤庸子、池内紀、柴田元幸、沼野充義・著(角川ソフィア文庫/税抜き1000円)

 工藤庸子、池内紀、柴田元幸、沼野充義と、当代最高のメンバーによる海外文学講義が、文庫で読める。『世界の名作を読む』は、放送大学のラジオ科目のテキストが基となる。『ドン・キホーテ』の時代は「読み聞かせ」が一般的で、同作品も「耳で聴いて愉(たの)しむ文体になっている」と工藤。ドストエフスキー『罪と罰』の背後には、「当時世間を騒がせた実際の事件」があったと沼野。カフカ『変身』は3度書き直されていると教えるのは池内。いずれも世界文学が身近になる名講義。

◆『近代はやり唄集』倉田喜弘・著(岩波文庫/税抜き640円)

 レコードやラジオのない時代にも、庶民の口に上る歌はあった。倉田喜弘編『近代はやり唄集』は、明治・大正期に広く愛唱された民衆の歌を、「街角」「寄席」「座敷」「書生」「映画」などテーマ別に編集、収録する。「カチューシャの唄」「コロッケの唄」「金色夜叉」と、今に伝わる歌もあるのに驚く。そこに言葉遊び、音の面白さ、くりかえし、隠語の使用、ユーモアと風刺など、今日の民衆の歌が失った「エネルギー」があることも同時に知るのだ。23ページの解説は労作。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年11月6日号より>

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