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<「独り勝ち」週刊文春>スクープ獲得へ 地味に足で稼ぐ

20年間の週刊文春記者時代に数々のスクープを飛ばした中村竜太郎さん

 甘利明・前経済財政担当相の金銭授受疑惑や舛添要一・前東京都知事の公用車を使った頻繁な別荘通いをはじめとする特報を今年立て続けに放ってきた週刊文春。週刊誌が軒並み部数減に苦しむ中、独り勝ちの状況だ。一昨年まで20年間在籍し、「エース記者」と言われた中村竜太郎さん(52)に聞いてみると、スクープは意外なほど地味に足で稼ぐ取材の積み重ねの末に生み出されていた。【加藤隆寛、写真も】

    特定の担当設けず

     2001年、東京都世田谷区の東急田園都市線三軒茶屋駅ホームで男性暴行死事件が起きた。犯人が逃走する中、警察署に待機する大勢の報道陣を尻目に中村さんと同僚の女性記者は駅に向かった。「暴行事件を見た人はいませんか」。改札を通るすべての客に終電まで声を掛け続け、翌日以降も渋谷から1駅ずつ終点まで全駅で聞き込みを続けた。ついに「あ、その日、僕いましたよ」と答える20歳の男性にたどり着いた。

     地をはう取材だった。「頭のいい人はやらないでしょうね。僕は他に能力がない。人一倍努力しないと結果が残せないので、とりあえず聞き込みだと」。中村さんは説明する。

     先月出版された著書「スクープ!」(文芸春秋刊)では、03年世界水泳で優勝した北島康介さんの父に独占取材した経緯も明かされている。父の経営する精肉店に報道陣が群がったが、かたくなな取材拒否に1社、また1社と引き揚げていった。中村さんは閉店後も一人残った。すると「あんた最後まで粘るねえ」と父から声が掛かった。「全部取材を受けると仕事に差し障るから」が拒否の理由で、実は喜びを記者に語りたくてたまらなかったのだ。

     中村さんはアパレルメーカーを経て28歳の時、女性自身(光文社)編集部で記者人生をスタートし、30歳で週刊文春の契約記者になった。「人脈も何もない。自分は遅れているという悲壮感だけだった」。取材の材料を1人5本持ち寄るのがノルマの毎週木曜日の会議が何より憂鬱だった。取材テーマごとに班が編成され、翌週月曜日の締め切りに向け仕上げる。同誌編集部は芸能や政治など特定の担当を設けないことが特徴だ。甘利氏の疑惑を担当した記者はかつて、中村さんと風俗関係の事件を追い掛けていたという。

     「人間、つらい状況に立たされると頭が回転する。浮かんでくるアイデアをダメ元でどんどん実践した」。誰に教わるわけでもなく、地道な取材手法が身に着いた。「靴底を減らして汗をかいている感じが好き。歩留まりが悪いからこそ、核心の証言に当たった時の喜びがある」

     中村さんは20年間在籍し、「シャブ&飛鳥」の強烈な見出しで芸能人の薬物汚染を特報するなどの活躍を残して、2年前にフリーになった。「現場でコツコツやっていることは変わらない」と後輩の活躍を喜びながら「あまり持ち上げられてその気になってしまうのが一番まずい。週刊文春が“権威”になってしまえば新たな危機だ」と少し心配している。

    裏付け取材を徹底

     今年注目を集めた週刊文春だが、新谷学編集長(52)は04年に転換点があったと考えている。デスクとして中村さんと組んで、NHKプロデューサーの番組制作費詐取事件を特報した時だ。

     「レク(チャーを)してくれ」。警視庁捜査員に加え、それまでは取材の対象だった全国紙記者が列をなして情報を求めてきた。「劇的な変化だった。自分たちで土俵を作れば現場で主導権を握れる。あれで“勝ち方”を覚えた」。同じ手法の典型例が甘利氏の疑惑だという。

     12年の編集長就任以来、裏付け取材を徹底させ、記事になるまでのハードルを上げたこともスクープ連発の背景にあるとみる。原点は自身の訴訟体験だ。

     記事を巡っては、書かれた側が名誉毀損(きそん)などを主張して訴訟を起こすことも少なくない。記者時代に経験した証人尋問では、どういう順で誰に何を聞いたか詳細に問いただされ「取材が解剖されるような感覚」を味わった。

     記者が取材を尽くしているように思えても、さらに「その人は証言台に立ってくれるか」「実名で陳述書を書いてくれるか」と記者に問いかけ内容を詰めさせている。

     「週刊文春という看板を磨き上げ、『書いてあることは本当だ』『リスクをとってきちんと取材する』と信頼されれば情報提供が増える」。特報が目立ち始めた今年1月以降、専用サイトを通じた情報提供が飛躍的に増加しており、好循環になってきた手応えがある。

     同誌にコラムを連載している飯島勲・元首相秘書官はかつて記事を巡って文春を訴えたことがある。記事を書いて関係が切れた相手と復縁することはよくあるといい、「『敵ながらあっぱれ』と思われるくらいまで追及すると、その人が別の人のネタを持ってきてくれたりする」と明かす。

     編集長の最も大切な仕事は記事や広告の見出しを考えることと班編成だという。特集班の記者三十数人を毎週、追い掛けるテーマごとに組み替える。提案者を書き手にしてサポート役を数人付ける。若手の下に中堅やベテランを付けることもあり「今、誰が伸びているか」「相性がいいのは誰と誰か」など記者の状態把握を怠らない。「みんなうちの最大の武器がスクープだと分かっているので、常にかかとが浮いている。だから、最初の一歩が出る」

    「売れる」最優先

    人気タレントや国会議員らのスキャンダルを立て続けに暴いた誌面は、「文春砲」という流行語も生み出した

     「おもしろいもの。読者の反応のよいものを取り上げている」。週刊文春の記者・関係者は口をそろえる。「出版ニュース」代表の清田義昭さんは「売れるなら何でもよいという姿勢で、それ以外の何ものでもない」と言い切る。

     植田康夫・上智大名誉教授(出版論)は「当事者を紙面に登場させて告発させる生の迫力が週刊文春の報道の特徴だ。10月27日号の山本有二農相の事務所の問題でも、告発した元秘書にそのまま言い分を言わせている。それが世の中に受けている」とみる。ただし、「倫理的に見て正しいかどうかを問うことをしていない。世の中に受けることが報道として正しいわけではないと思う」と話す。

     「テレビが遠慮する芸能に土足で踏み込むのも持ち味だ」。ライバル週刊誌の60代の元編集長はジャニーズ事務所のメリー喜多川副社長を取り上げるなど芸能情報の豊富さに注目する。一方で「文春にも書けないことはある。近い立場の作家や文化人のスキャンダルは書かない。タテマエはある」と指摘する。【青島顕】

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