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SUNDAY LIBRARY 岡崎 武志・評『犯罪小説集』『台湾少女、洋裁に出会う』ほか

今週の新刊

◆『犯罪小説集』吉田修一・著(角川書店/税抜き1500円)

 吉田修一は多く犯罪で人間を描く。罪を犯す時、その人が隠し持った内面が露(あら)わになるからだ。映画化された『悪人』『さよなら渓谷』、そして李相日監督の新作『怒り』もそうだ。

 5編を収録した『犯罪小説集』は、著者が求め、描き続けたテーマの集大成と言える。「曼珠姫午睡」は、50歳前の主婦が、「痴情のもつれからの保険金殺人」の犯人として、中学時代の友人の名を聞くのが発端。平凡だが空虚な彼女は、愛欲で転落する女の物語に引きずり込まれていく。

 10年前の夏祭りの夜、Y字路で消えた少女に、町の人々がみな罪悪感を抱えて生きる「青田Y字路」。著者は「この町に暮らす男たちの誰もが、愛華を連れ去ったかもしれない容疑者だった」と書く。犯罪という火が、日常に眠る不穏をあぶり出すのだ。

 犯罪者と一般人は両極ではなく、薄い膜一枚で背中合わせになっていることを読者に突きつける。どす黒いカバーは鮮烈だ。

◆『台湾少女、洋裁に出会う』鄭鴻生・著(紀伊國屋書店/税抜き1700円)

 日本統治下にある1930年代台湾。10代の少女が、日本の婦人雑誌で「洋服」に魅せられ、見よう見まねで作り始めた。

 鄭鴻生(天野健太郎訳)『台湾少女、洋裁に出会う』は、著者自身の母の近代史。洋裁店の見習いとなり、日本で最先端の技術と服飾文化を学んだ母・施伝月(1918年生まれ)は、戦後、中華民国に復帰した故国で洋裁学校を開く。50~70年代、農村の少女たちが各地から母の元に集まる。

 昼夜2コースで、洋裁学校は発展していった。それは台湾の近代化とも重なる。「洋裁は台湾人女性たちの自立と社会進出を果たす『武器』であった」。彼女たちは故郷に帰り、洋裁の花を咲かせた。これは、朝の連ドラ「カーネーション」で描かれたコシノジュンコらの母・綾子の人生とも重なる。

 しかし、80年代に転換と変革の時代を迎え、母は針と糸を置く。ミシンに向かい続けた60年を、感傷的にならずに、最後まで見届けた著者の筆がすばらしい。

◆『純情ヨーロッパ』たかのてるこ・著(ダイヤモンド社/税抜き1280円)

 たかのてるこは、大手映画会社でプロデューサーを務めたのち独立、「世界中の人と仲良くなれる!」の信念を持つ旅人となった。テレビドラマ化された『ガンジス河でバタフライ』は、ベストセラーに。『純情ヨーロッパ』は、21カ国をめぐる鉄道旅を、軽快な文章でつづる。スペインのフラメンコバーでは店内で大合唱、あるいはヌーディスト・ビーチの聖地では、真っ裸になった。これは「西欧&北欧編」。「中欧&東欧編」を収めた『人情ヨーロッパ』も同時発売。

◆『日米開戦と人造石油』岩間敏・著(朝日新書/税抜き780円)

 岩間敏『日米開戦と人造石油』は、驚愕(きょうがく)の太平洋戦争裏面史。日米開戦により米国は「石油禁輸」を発動し、エネルギー危機が日本を襲った。航空、輸送船ともに、石油がなければ戦争はできない。それでも開戦に踏み切った裏に、「人造石油」の生産による需給の見通しがあったという。石炭から石油を作る。同盟国のヒットラー・ドイツは、先にこの技術に成功していた。国家予算の4分の1を費やす、日本での巨大「人造石油」プロジェクトを追う歴史ノンフィクション。

◆『ぽんこつ』阿川弘之・著(ちくま文庫/税抜き900円)

 『カレーライスの唄』に続く、阿川弘之長編ユーモア小説の文庫化第2弾。タイトル『ぽんこつ』とは、自動車解体業者のこと。昭和30年代東京、自動車需要の増加とともに交通事故も増え「ぽんこつ」も……。兄を自動車事故で亡くした女子大生の和子は、卒論のテーマとして「交通問題」に取り組む。そこで出会ったのが、墨田区両国近くの解体業者の青年・熊田勝利だった。皇太子(今の天皇陛下)と同じ誕生日という純朴な青年と、チャーミングでお転婆(てんば)の女子大生。その恋の行方は?

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年11月13日号より>

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