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Listening

<記者の目>日弁連の死刑廃止宣言=伊藤一郎(さいたま支局)

死刑廃止宣言の意義を説明する木村保夫・日本弁護士連合会副会長=福井市で10月7日、荒木涼子撮影

被害者支援が先決

 日本弁護士連合会が10月7日、「2020年までに死刑制度の廃止を目指し、終身刑の導入を検討する」とする宣言を採択し、死刑廃止に向けて活動していく方針を初めて明確に打ち出した。木村保夫副会長は採択後の記者会見で「国民の理解が得られるように犯罪被害者の支援を拡充する」と発言したが、その言葉通り、まずは被害者支援の拡充に力を尽くしてほしい。その前提がなければ、刑罰のあり方を巡る国民的な議論は進まないはずだ。

     私は過去に2度、犯罪被害者支援に関する「記者の目」を書いた。1度目は中部本社報道センターに在籍中の03年11月。前の月に犯罪被害者遺族らが大津市で開催した「生命のメッセージ展」を取材したことがきっかけだった。

     会場には、犯罪によって命を奪われた故人の靴が108足並んでいた。小さな子供の靴、運動靴、婦人靴、革靴。汚れがついていたり、擦り減っていたり。生前、その靴を履いていた人が、もうそこにいないという事実を、かえって雄弁に語りかけてくるようだった。なぜ、私は殺されなければならなかったのですか。そう問いかけられている気がした。

    基本法成立後も足りぬ経済支援

     この1回目の「記者の目」では、同じ月に開かれた「全国被害者支援ネットワーク」の大会で出会った被害者遺族らの声を紹介し、国による支援の充実を求めた。

     その後、「全国犯罪被害者の会(あすの会)」などの活動が結実し、04年に犯罪被害者等基本法が成立し、07年には刑事裁判の被害者参加制度が実現した。それでも、私は支援が十分ではないと感じ、東京本社社会部に在籍していた11年に、2回目の「記者の目」を書き、経済的支援の必要性を訴えた。

     被害者支援の取材を続ける一方で、死刑制度にも関心を抱いていた。きっかけは、愛知県警担当だった当時、県警幹部から聞いた話だった。「覚醒剤を密輸していた日本人が中国で捕まり、死刑判決が出たらしい」。日本では覚醒剤の密輸で死刑になることはありえない。東京本社外信部の記者と協力して事実関係を確認し、04年2月に「覚醒剤密輸の日本人に中国で初の死刑判決」と記事化した。この取材で国によって死刑制度が違うことを実感した。

     東京社会部で法務省を担当していた12年6月には、死刑執行手続きを記した文書を情報公開請求で入手し、これを基に記事を書いた。「秘密主義」と批判される手続きを明らかにして、重要事件で裁判員を務める人に、死刑に関する情報を少しでも伝えたいという思いがあった。

    上級審で減刑、遺族納得できず

     13年には、裁判員裁判で出された1審の死刑判決を、裁判官だけで審理する2審が無期懲役に減刑するケースが2件続いた。裁判員制度は「刑事裁判に市民感覚を反映させる」ために導入されたはずだった。裁判員の苦渋の判断を覆した2審判決を「納得できない」と批判する被害者遺族の声を聞いた。

     2件はいずれも、殺害された被害者が1人で、計画的とはいえないと認定された強盗殺人事件だった。検察側は上告したが、最高裁はこうしたケースを無期懲役としてきた「過去の量刑」との公平性を重視し、2審判決を支持した。この判断について、ある裁判官は「裁判員制度の趣旨からして市民の判断を尊重するのは当然だが、人の命を奪うことになる死刑だけは慎重にならざるを得ない」と説明した。死刑という究極の刑罰が、裁判員制度に矛盾をはらませている。

     死刑廃止を求める人たちは「裁判に誤りがありうる以上、死刑はなくすべきだ」と主張する。確かに、無実の人が国家によって命を奪われるという究極の不正義は決して許されない。死刑が確定しながら、再審開始決定が出て釈放された袴田巌元被告のようなケースが今もあることを、重く考える必要がある。

     日弁連も「冤罪(えんざい)で死刑が執行されれば取り返しがつかない」として、今回の宣言に踏み切った。内部の賛否が割れる中で、死刑廃止が進む海外の動向も踏まえた思い切った決断だった。

     他方で、国が4月に採択した「第3次犯罪被害者等基本計画」に挙げられているように、加害者の損害賠償責任が果たされず、被害者が十分な賠償を受けられない現状が依然としてある。事件で仕事ができなくなった被害者の雇用先の確保など、被害者の生活に関わる課題は山積している。

     決意を持って宣言を採択した以上、日弁連にはこうした課題に率先して取り組む責務がある。

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