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<その163> 世界150カ国を旅した夫婦=城島徹

丸太小屋に暮らす中川さん夫妻

 小春日和の長野・菅平高原に世界の旅に人生の多くを費やしてきた夫婦を訪ねた。「人々との交流や美しい自然に感動した私たちのような旅はもはや難しいのでしょうね。良い時代に地球を駆け回ってきました」。丸太小屋に暮らす旧知の二人は穏やかに振り返った。

     「旅に命をかけよう」。中川隆さん(74)は妻佳子さん(72)と結婚2年目の1974年、神戸で経営していた建設重機会社をたたみ、夫婦でリュックサックを背に世界一周に出発した。アルバイトで旅費を稼ぎながら90年まで16年間に南北米大陸、アフリカ、中東など五大陸112カ国を回った。このうち3年半かけて39カ国を四輪駆動車で走破したアフリカではマラリアやゲリラの襲撃など生命の危機に幾度も遭遇。サハラ砂漠に接するマリで車ごと水没し、カメラなどを失った。イラン・イラク戦争まっただ中のイランでは警察に連行された。

     「何物にも代えられない旅先での感動」を表現した写真で中川さんは帰国後に作品集を作り、個展を開いた。その間も仕事探しのため職業安定所に行き、履歴書に「世界一周」と書いて担当者を戸惑わせたが、そんな二人を見込んでの仕事が舞い込むこともあった。

     97年から3年かけて中東など39カ国を回った時点でその距離は地球13周に相当する約53万キロに達した。そんな旅を通して深まる夫婦の絆を描いた放浪記「夫婦で30年間 地球冒険13周半の旅」(講談社)も出している。

     2009年から1年間、アジア、南太平洋の島々を回り、南米最南端からロサンゼルスまで旅したが、人と関わりながら進む地球の旅にピリオドを打つことにした。「旅のスタイルが一変していて驚いた。若い人も飛行機の格安チケットをパソコンで探して点と点を結ぶだけ。点を線で結ぶ私たちのような旅人はもうどこにもいなかった」

     20代のころに購入し、60本のカラマツを切り倒した場所に自力で10年以上かけて丸太小屋を建てた。「図面も書かず、作り始めると構想がどんどん広がった」。予定のない旅の精神を宿したついの棲家(すみか)の敷地には苦楽を共にした四輪駆動車がたたずむ。

     10年前に訪ねた時にはなかった風呂を備えた別棟があった。「まきでたくのでぬくもりますよ」。夜は旅の写真の整理をして過ごす。「肩や首が凝って、昔のようには体が動かないね。今は150カ国を旅した記録の集大成を作る準備を始めていますよ。自然の中でゆっくりとね」。朗らかに笑う夫の横で妻があいづちを打った。【城島徹】

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