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<その164> 富弘美術館=城島徹

富弘美術館周囲の自然と作品を印刷した絵はがき

 晩秋の東北に出張した夜だった。「体力づくり」に熱心という山間部の中学校をともに訪ねた元体育教師と地酒を酌み交わしていると、不意に「星野富弘という人物を知りませんか?」と問われた。「たしか障害を持ちながら絵を描く人でしたね……」。記憶の底から春の日差しのような光が浮かび上がってきた。

     星野富弘さん(70)は群馬県高崎市内の中学に体育教師となって2カ月後の1970年6月、クラブ活動を指導中に誤って首の骨を折り頸椎(けいつい)を損傷し、手足の自由が奪われたが、闘病生活9年間の後、口にくわえた絵筆で詩画集の創作を続ける詩人だ。

     「実は星野と私は群馬大学の体育専攻で4年間一緒に過ごした仲間で……」。千葉県内の元校長で、体育指導者として一目を置かれる渡辺護さん(70)は語り始めた。清らかな作品で人々に感動を与える旧友への思いなのか、遠くを見つめるようなまなざしになった。

     「大変な事故にあったと聞いたけど、私は1年間見舞いに行けなかった。彼の姿を見るのが怖かった。初めて病室に入ると、顔はまったく以前と変わらなかったが、かつて『ヘラクレス』と形容された頑強な体が信じられないほど細くなっていた」

     激しく動揺する駆けだしの体育教師に向け、星野さんは突然、「本日は晴天なり」と言った。その声を聞いた瞬間、渡辺さんはあふれる涙を止めることができなかったという。それから長く旧友の支援活動を続けており、「彼の生まれ故郷の群馬県みどり市の富弘美術館に彼の原画が展示されています。ぜひ訪ねてください」と言葉に力を込めた。

     その翌週、私は群馬県東部のわたらせ渓谷に富弘美術館を訪ねた。91年にオープンした美術館は不慮の事故にあった星野さんを癒やした豊かな自然に包まれた山峡にたたずむ。ちょうど新刊「あの時から空がかわった」の発行を記念する原画展が開かれていた。

     野の花など透明感のある水彩画はハンディを感じさせない精密な筆致で、素朴な詩が添えられている。そうした作品は全国のファンが「花の詩画展」を企画して待ち受ける。

     「星野さんの情熱を一人でも多くの人々に伝えたい」。そう語る神奈川県茅ケ崎市の書店の長谷川静子店長も熱烈なファンの一人だ。開店した92年から毎秋開く「星野富弘詩画集&カレンダー展」は今年25回目を迎えた。

     「本を開くたびに心が洗われる」という長谷川さんと同じように、体育教師として情熱を注いできた渡辺さんも、星野さんの奮闘に支えられてきたのだろう。【城島徹】

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