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SUNDAY LIBRARY 岡崎 武志・評『リーチ先生』『映画の声 戦後日本映画と私たち』ほか

今週の新刊

◆『リーチ先生』原田マハ・著(集英社/税抜き1800円)

 バーナード・リーチは英国の陶芸家であり、画家、デザイナーでもあった。来年は生誕130年にあたり、滋賀県立近代美術館で大きな展覧会も開かれた。じつは、日本と大きな関わりがある。

 原田マハ『リーチ先生』は、この陶芸家が初来日(1909年)してから、友人と日本の美意識と出会い、陶芸に邁進(まいしん)していく姿を描く。時は大正、白樺派が西洋美術を紹介し、柳宗悦が民藝運動に目覚める。リーチが彼らと切磋琢磨(せっさたくま)したことは、陶芸にとっても日本にとっても幸福だった。

 アートをテーマに著作活動を続ける原田は、あくまで史実をもとに創出した健気(けなげ)な弟子・亀乃介を通して、西洋と東洋の美がいかに結合したかを見つめる。亀乃介の息子がのちにリーチと出会う、2代にわたる感動を用意して……。

 日本に憧れ「日本とイギリスの架け橋」になろうとしたリーチ。それを2代で支えた日本人。ろくろの回る音が、読後も耳から離れない長編小説だ。

◆『映画の声 戦後日本映画と私たち』御園生涼子・著(みすず書房/税抜き3800円)

 蓮實重彦、山田宏一、四方田犬彦など、映画評論家が華々しい活躍を見せたのは1980年代か。世紀が改まり、映画を論じる言説が衰弱していったように見えた。

 しかし、ここに息をのむような優れた映画論考集が刊行された。御園生(みそのう)涼子『映画の声 戦後日本映画と私たち』だ。大島渚で政治と国家を扱い、木下恵介ほかメロドラマに隠された母性、あるいはジェンダーを透視する。高倉健まで登場! 視野が幅広く、読み込みが深いのが著者の特徴だ。

 70年代半ばに始まった「角川映画」ブームを大作主義と斬るのではなく、「少女」の発見と、プログラムピクチャーを生成した野心においての成果とする。

 対象に対する態度はあくまで硬派でありながら、繊細に見届ける。将来を嘱望される、新しく正統的な映画評論家が現れたと喜んだら、「編者あとがき」で、著者の御園生涼子はもうこの世にいないと知る。2015年6月に逝去。享年は40。残念だ。

◆『死後の恋』夢野久作・著(新潮文庫/税抜き630円)

 夢野久作は『新青年』などを中心に、昭和初期に活躍した作家。長編『ドグラ・マグラ』は有名だが、ここに短編全10作を収める傑作選『死後の恋』が編まれた。表題作は、大正7年のウラジオストクのレストランで、旧式のボロ礼服を着た男が一人語りする驚くべき話。一夜にして白髪になったという男による、ロマノフ王家の末路がもたらした宝石と、わが「死後の恋」にまつわる不可解きわまる物語。ほか無人島に漂着した兄妹の悪夢を描く「瓶詰地獄」など、戦慄(せんりつ)が待ち受ける。

◆『猟師になりたい!』北尾トロ・著(角川文庫/税抜き640円)

 ネット古書店のパイオニア、裁判傍聴マニア、山田うどん礼賛と、手を替え品を替え新しいことに挑戦する北尾トロ。今度は『猟師になりたい!』という。一家で長野県松本市へ移住したことで、猟師への取材を思い立つが、結局、自分でやってしまうことに。狩猟免許の取得までの戸惑い、初めて持つ銃の重さ、そしてついに一発ぶっ放す。アウトドアにも縁のない50過ぎの男が、いかにして猟師になったか。その1年の奮闘ぶりを伝えながら、害獣駆除や自然と人間のあり方にも思いを馳(は)せる。

◆『全国 ローカル路線バス』ブルーガイド編集部(じっぴコンパクト新書/税抜き850円)

 バス好きにとって究極の夢は『全国 ローカル路線バス』の旅ではあるまいか。ブルーガイド編集部編による本書は、北は宗谷岬、南は西表島まで、知られざる路線を徹底して紹介する。これはけっこう有名だが、路線バスとして最長距離を走るのが奈良交通「八木新宮線」だ。紀伊半島約167キロを6時間半かけて縦断し、かかる料金は5000円強。保有台数たった3台の鬼ケ島バス、倒産から復活した奇跡の岡山~広島の県境越えバスなど、わくわくしてくる。面白トリビアのバスネタもあり。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2016年12月11日増大号より>

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