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余録

「この数行はいらないんじゃないかな」と言えば…

 「この数行はいらないんじゃないかな」と言えばすぐそこに乱暴にバッテンが入れられた。「才にまかせて会話を多くすると、品格が下がってしまう」と言おうものなら「下品だとおっしゃるんでしょう。じゃ、この小説、捨てましょう」▲ご推察通り編集者と作家の会話だが、作家は東大生時代の三島由紀夫(みしまゆきお)、相手は昭和の名文芸編集者、木村徳三(きむらとくぞう)だ。こんなやり取りの後、木村の鼻を明かしてやるとばかりに書き直された三島の原稿は舌を巻く見事な描写に変わっていた(「文芸編集者 その跫音(あしおと)」)▲だが編集者は「筋」を通して作家にうらまれることもある。木村に使えぬ原稿を突き返された林(はやし)房雄(ふさお)の場合、以後の小説の悪党の名はみな「木村」となった。中国人の悪役の時は「陳徳三(ちんとくさん)」だったというから徹底していた▲さてネットの時代には執筆者に盗用を促す“編集者”までまかり通るのか。IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)は医療や旅行など九つの情報サイトを休止した。他サイトの文言の転用を推奨したともとれる指示やマニュアルにもとづく編集がなされていたのだ▲この騒ぎではまず医療情報サイトの誤情報が次々に指摘され、外部ライターが専門家のチェックなしに記事を書いていたのが問題化した。サイトではグーグルなどの検索で上位に表示されることが最優先され、編集部は手間のかからぬ記事を大量に求めていたようだ▲米大統領選では偽ニュースサイトが影響したと聞けば、「悪貨が良貨を駆逐する」のが心配なネットメディアである。まずはその編集において通すべき「筋」をしっかりうち立てるのが先決だろう。

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