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<読みトク!経済>サラリーマン1年生・なるほドリーマン君 原発事故で増える費用、どう負担

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賠償「新電力」にも 福島第1廃炉は東電

 なるほドリーマン君 東京電力福島第(とうきょうでんりょくふくしまだい)1原発事故(げんぱつじこ)の処理費用が膨らんでいるんだって?

 記者 従来想定の11兆円から20兆円超に増える見込みです。被災者(ひさいしゃ)への賠償費は5・4兆円から8兆円に、被災地の放射線(ほうしゃせん)の量を減らす除染(じょせん)も2・5兆円から4兆~5兆円程度に膨らみます。廃炉費用も、東電が準備する2兆円を大幅に超える見通しです。このほか、福島第1原発以外にも、予定より早く廃炉になる原発が現れ、原発事業者が廃炉費用を十分に確保できないという課題が浮上しました。そのため政府は、事故対応▽福島第1原発廃炉▽その他の原発の廃炉--の三つの財源をどう確保するか検討しています。

 Q まず、賠償費はどう工面するの?

 A 既に、東電と原発を持つ大手電力会社が負担する仕組みが作られ、電気料金に上乗せされています。しかし、これだけでは足りなくなるため、経済産業省は、自由化で電力小売り事業に参入した「新電力」と呼ばれる事業者にも負担してもらう案を示しました。そもそも事故費用の財源が足りないのは、原発事故への備えが不十分だったため。経産省は「新電力利用者も過去には大手の電力を使い、原発の恩恵を受けていた。新電力に切り替えることで原発の負担から逃れられれば不公平だ」と主張し、過去に負担すべきだった費用の分担を求めています。

 Q 新電力はどうやって負担するの?

 A 新電力は自社で送電設備を持たないため、大手の設備を借りて顧客に電気を送ります。経産省は、その際に支払う送電料(託送料(たくそうりょう))に賠償費を上乗せする方針です。大手電力も、2020年から小売会社と送電会社が分離するため、小売会社が送電会社に送電料を払う点では同じです。

 Q なぜ送電料を活用するの?

 A 送電料は国が決められるためです。電気料金は、電力自由化のもとで値下げ競争が予想され、そこから確実に賠償費用を確保することは難しくなります。これに対し、送電事業は地域ごとに大手が独占する仕組みが残り、送電料も国が必要なコストを織り込んで認可します。法改正も必要なく、政府にとって都合の良い「道具」と言えます。送電料は電気料金に転嫁されそうで、賠償費が3兆円増えると、標準的な家庭(3人家族で月間消費電力は約300キロワット時)で、月30円程度負担が増えます。

 Q 新電力の負担はそれだけ?

 A 福島第1原発以外にも、廃炉を前倒しした原発の廃炉費用の一部を負担する方向です。原発の廃炉費用は、電気料金をもとに事前に積み立てておく決まりですが、福島事故後の安全規制の厳格化などで、当初計画より前倒しで廃炉にするケースが出ています。そうなると積み立て不足が生じかねないため、新電力にも負担をお願いしようというわけです。

 Q 新電力が大手の尻ぬぐいをするなんて、利用者は納得するのかな。

 A 「事業者を増やして電力市場を活性化させる」という自由化の趣旨に反するという批判があります。新電力は原発を持っていませんし、「原発以外の電源からの電気」が売り文句の事業者もあります。経産省は、大手電力に対し、原子力や水力などの安い電力を電力の卸売市場に供給するよう義務付け、新電力が安い電力を調達しやくする「アメとムチ」で臨む方針です。

 Q 福島第1原発の廃炉は?

 A これも送電料上乗せが検討されましたが、反発も強く、東電が自力で費用をまかなうことで決着しそうです。東電が経営努力で捻出した資金を積み立てる方針です。具体的には、東電グループの送電会社が経営努力でコストを削減しても、送電料は下げず、廃炉費用に回す方向になりました。送電会社は、コスト削減などで一定の利益を上げた場合、送電料を下げるルールがありますが、東電は例外扱いにします。値下げの恩恵を受けられないという点で、利用者の負担と言えます。

 Q 除染は?

 A 国が除染費用を立て替え、実質的に保有している東電株を売却して回収する仕組みですが、除染費用が膨らみ、今の株価を大幅に上回らないと回収は難しい状況です。経産省は東電などから回収する方法を検討していますが、具体策は明らかになっていません。


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