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余録

「賭事(かけごと)への情熱は…

 「賭事(かけごと)への情熱は休みなく何年もの間、ほとんど40年間もわたしを虜(とりこ)にした。しかしなんら益もなく、どれだけ家庭に迷惑をかけたことか。骰子(さいころ)遊びのため長い間わたしの生活は窮々としていた」▲自伝にこう記したのは、ルネサンス期のイタリアの医師、数学者、哲学者だったカルダーノである。腸チフスを発見し、3次方程式の解法を発表し、自在継ぎ手を考案するなど万能の天才を示した彼だが、その回想の通りならばギャンブル依存症といっていいだろう▲「さいころ遊びの書」とは、その天才にしてギャンブル依存症の彼がさいころの目の出方を研究して著した確率論の先駆的業績という。だが数学史の偉業も賭けの勝ちはもたらせず、天才は結論を下す。「ギャンブルの最大の利益はそれをやらないことで得られる」▲だというのにあれよあれよという間に成立したカジノ法だった。536万人とはこの国で病的ギャンブラー(依存症)と推定される人の数である。成人全体に占める割合の高さは諸外国に数倍する。だがその対策はこれから具体案を作る政府に丸投げされてしまった▲対策が軽視されるのは、ギャンブルは自己責任との考えが根強いからに違いない。依存症が意志や性格の問題ではなく、心の病気だとわが立法府は本当に理解していたのか。社会の健全を守る方策についての国民的な議論はむしろこれから始めねばならないのだろう▲「わたしは勝負事が好きだったのではなく、引きずり込まれたのだ」と賭博にのめり込んだ心境を語ったのもカルダーノだ。万能の天才も引きずり込む魔をこれ以上社会に巣くわせてはなるまい。

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