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<記者の目>介護保険 軽度者除外=有田浩子(医療福祉部)

安心できる介護保険制度を求めて、市民団体が国会内で開いた集会=11月、有田浩子撮影

高齢者自身も行動を

 2018年度に向けた介護保険制度の見直し作業が終わった。小幅な改正に見えるが、背後には15年度の前回改正が自治体に突きつけた大きな課題が残っている。介護度の軽い高齢者の生活を支える掃除や調理といった介護サービスを、誰が担うかということだ。これは単にサービス提供体制の問題ではない。介護保険制度の根幹を変えるものであり、超高齢社会をどう組み立てるかという視点から挑むべき課題だと考える。

     団塊の世代が75歳以上になる25年、介護人材は37万人以上不足するとみられている。今ですら人手が足りず、特別養護老人ホームがオープンしても一部のサービスが提供できなかったり、介護度の軽い人は訪問介護サービスの提供を断られたりする現実がある。国は介護ロボットの活用や外国人技能実習生の受け入れなどに取り組むが、それでは不足分を到底補えない。

    体制なき自治体 格差拡大は必至

     00年の介護保険制度の創設当初から、介護保険で提供されるサービスだけで地域の高齢者を支えるのは難しいといわれてきた。調理や掃除、買い物など訪問介護サービスの生活援助で賄えるものもあるが、時間や日数は限られ、外出や見守りなど生活するのに必要な支援は多岐にわたるからだ。にもかかわらず、多くの自治体は制度ができたのを機に、サービスは事業者に任せ、もっぱら保険料の徴収や支払いのチェックなどの業務を担い、保健・福祉的な事業から手を引いてきた。

     そうした中、国は前回改正で、特養ホーム入所は原則要介護3以上▽介護度の軽い要支援1、2の人の訪問介護、通所介護サービスは全国一律の保険給付から外し、自治体が報酬や基準を決める地域支援事業に移行--を決めた。背景には、医療費抑制のためベッド数を減らすのに伴い、25年には自宅や介護施設で療養する人が今より約30万人増えることもある。

     要介護認定を受ければ自らサービスを選択し、1割の自己負担で利用できるという「自己決定」を理念に据えた介護保険制度は大きく転換した。介護保険は中重度の人しか使えなくなり、軽い人は保険から外され、ボランティア(市民)らが担っていくという方向性が示されたのだ。しかし、国は当初の制度設計の変更に対する反省の弁もなく、自治体に実施を求めただけだった。

     18年度改正の議論では、その方向をさらに進めるため、要介護1、2の分まで自治体の地域支援事業に移行することが検討された。今回は見送られたが、現状でも要支援者向け訪問介護サービスの報酬を2~3割下げたために事業者の参入がなかったり、担い手確保のため市民向け研修を実施しても人が集まらなかったりと、自治体の移行作業は難航している。来年4月が移行の期限だが、6割の自治体は移行さえ済んでいない。

     自治体にとってみれば、国の事情で今さら地域で支え合いの体制を作るように言われても、ノウハウがあるわけもない。無理難題を押しつけられていると感じているところが大半だろう。そうでなくても医療と介護の連携や、認知症支援事業など、国から実施を求められている事業は山積している。地域支援事業の成否については、関係者の間でも悲観的な見方が多く、5年後、10年後には住んでいる自治体によってサービスの格差が広がるのは間違いない。

    居場所作りへ 当事者意識必要

     私自身、この事業とどう向き合うべきか迷ってきた。視界を開いてくれたのは日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会専務理事の田中羊子さん(54)の次の言葉だ。

     「介護保険制度は『介護の社会化』といいながら、そのために必要な『地域作り』が全く仕組みの中に入っていなかった。高齢者自身が元気な時から地域のために働く場に参加し、サービスを受ける顧客としてだけではなく、主権者(当事者)として発言していかなければならない」

     田中さんは、東日本大震災の復興支援事業を手がけている。被災地で仮設住宅に住む高齢者が通えるサロンや、高齢者が生産したものを売る直売所を設立。要支援の高齢者も元気な高齢者も互いに力を出して支え合う「被災地モデル」を作り、風穴を開けたいと意気込んでいる。

     保険料や利用料を払えば老後は安心、と思っていた高齢者にとってお金だけでなく、当事者として知恵もエネルギーも出さなければならないのは約束違反であり、損したような気分にもなろう。しかし財政も人手もますます限られる超高齢社会を展望すれば、誰かがしてくれるのを待つより、自分にできることを考えた方が実現可能性は高い。高齢者自ら居場所と役割のある地域作りを担う覚悟が求められている。

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