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社説

日露首脳会談 領土交渉の出口見えず

 首脳同士が話し合いを重ねれば、北方領土問題が動くのではないか。そんな期待を打ち砕く、厳しい現実が突きつけられた。

     安倍晋三首相の招きでロシアのプーチン大統領が訪日し、首相の地元である山口県長門市と東京で2日間にわたって会談した。通算16回目の会談は首脳同士では異例の回数だ。

     しかし、領土交渉は前進しなかった。今年5月のソチ、9月のウラジオストクでの首脳会談を通じ、安倍首相は領土問題打開への「手応え」を強調し、12月が歴史的な会談になるという期待感を高めていた。それだけに落差は大きい。

    外れた安倍首相の思惑

     今回両首脳が合意したのは、北方領土(歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島)で日露が共同経済活動に取り組むための「特別な制度」に関する交渉開始にとどまる。

     安倍首相はこれを「平和条約に向けた重要な一歩」と位置づけた。

     だが、これはいわば入り口の環境整備だ。安倍首相が5月に提示した8項目の経済協力と併せ、平和条約交渉を推進するための条件作りと位置づけられる。領土問題の解決に向けたプロセスに新たなハードルが出現したように見える。

     「特別な制度」とは、「北方四島は日本固有の領土」という日本の法的立場を侵さないよう、日本人がロシアの法制度にとらわれずに活動できる取り決めを指す。

     参考例はある。北方領土の周辺水域で日本漁船が操業することを可能にした1998年の枠組み協定だ。水域の管轄権問題を事実上棚上げし、双方の「法的立場を害さない」という前提で今も運用されている。

     これを陸上にも応用できれば、新たな日露協力の可能性を切り開き、北方四島での日本の存在感を高めることにつながるかもしれない。

     だが、トラブルが起きた場合の警察権や裁判権、企業への徴税権など、双方の主権を侵害しない制度設計は容易ではない。

     北方領土での共同経済活動は、ロシア側が90年代に提案して以来、何度も検討されてきたが、結局は主権の問題が障害になって進まなかった。新たに始まる協議が停滞すれば、領土交渉そのものの進展を阻むことにもなりかねない。

     日露の領土交渉の歴史を振り返れば、冷戦終結後に交渉が再開されてから、解決へのチャンスが2回あったと言われる。いずれも首脳間の信頼関係が大きなてこになった。

     1回目は、橋本龍太郎首相とエリツィン大統領の時代だ。2人は97年にロシアのクラスノヤルスクで、翌98年に静岡県伊東市の川奈温泉で会談し、意気投合した。日本側は川奈で、択捉島の北に国境線を画定したうえで当面はロシアの施政権を認める提案をしたとされるが、ロシア側は受け入れず、エリツィン氏は健康が悪化して間もなく引退した。

     2回目の機会は2000年から01年にかけて訪れた。大統領に就任した直後のプーチン氏が、「平和条約締結後、歯舞、色丹を日本に引き渡す」とした56年の日ソ共同宣言の有効性を公式に認め、森喜朗首相は2島の返還と残る国後、択捉の扱いを並行して協議することを提案した。しかし、2島での決着を警戒する日本国内の反対が強く、森首相も間もなく退陣した。

    外交戦略の立て直しを

     安倍首相は、プーチン氏との個人的な信頼関係を築いて「3度目の機会」をつかもうとしたのだろう。しかも過去の2回と違って、日露首脳の国内での政権基盤は盤石だった。首脳同士では異例の頻度で会談を重ね、領土問題を解決しようとしてきた安倍首相の努力は評価したい。

     だが、むしろ領土交渉の土台は、1回目の「4島」から、2回目は「2島」へ、そして今回は事実上「0島」からの出発へと大きく後退してしまった印象を受ける。

     安倍政権が領土交渉に積極的なことに乗じて、ロシアが日本外交への注文を増やしていることにも注意を払う必要があるだろう。

     首脳会談後の記者会見でプーチン氏は、平和条約の交渉にあたり、日米安全保障条約を絡ませる意向を示唆した。仮に領土を引き渡すとしても、安保条約の適用外にしたい考えとみられる。そうなれば日本は、米国との交渉をしなければならなくなり、領土交渉はさらに複雑化する恐れがある。

     またプーチン氏は訪日直前の日本メディアとの会見で、ウクライナ問題で対露制裁に加わっている日本との関係は、強い信頼関係にある中露の水準には及んでいないことを指摘した。ロシアとの関係を強化して中国をけん制しようとする安倍首相の戦略を見透かして、制裁からの離脱を迫っているようにも取れる。

     米国は、対露制裁を主導したオバマ政権から、対露協調を訴えるトランプ次期政権への移行期にある。ロシアと関係の深いティラーソン氏が次期国務長官に指名されたことも、ロシアには追い風だ。

     ロシアが米国の政権交代を見据えて、対日政策を見直し始めた可能性もある。領土交渉をどう進めるか。安倍政権の外交戦略は大幅な立て直しを迫られている。

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