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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 綿矢りさ 『手のひらの京』

ずっと書きたくても書けず、ようやく書けた心のふるさと

◆『手のひらの京』綿矢りさ・著(新潮社/税抜き1400円)

 最近はどの街でも通用しそうな、固有名詞のない無難な小説が多い。けれど、本書『手のひらの京』は京都が舞台。嵐山、鴨川、宵山と、誰もが知っている名所や年中行事が登場する。

「京都はずっと書きたいと思ってました。でも、どう書いていいかわからなかったんです」

 京都在住の高校時代に『インストール』でデビュー、早稲田大学在学中に『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞した。「あんなに若くてもあの席に座れるんだ」と、朝井リョウら後続の若い作家たちに影響を与えた。日常の濃(こま)やかな描写を積み重ね、中盤から爆発したように展開するドラスチックな作風は、十代の閉塞(へいそく)感を代弁して評判を呼んだ。それから15年。順調に作品を発表しながら、私生活では家族を得た。そんなとき、ずっと「書けなかった京都」がふっと降りてきた。

「20代から30代は女の人が転機を迎えるとき。就職、引っ越し、結婚と、どれも大変なことで、始まったときは忙しいばかりやけど、少し経(た)つと、これからどうなるんだろう、といろいろな思いが胸をよぎる。そんな時間にいる三人の女性をふるさとの風景の中に置いてみたら、三人姉妹の暮らす、生活感のある京都が浮かんできました」

 恋愛に臆病な31歳の長女綾香、同僚の「いけず」ないじめに悩む羽依、ひそかに「ある計画」をもくろむ大学生の凜。美人姉妹と古都はよく似合う。綿矢さん自身は弟が一人。京都に育ちながら、「京都の姉妹」は憧れでもあった。

「綾香は妹の紹介で彼と出会います。さすがにお見合いは少なくなったけれども、京都では、合コンで誰が来るかわからないような、東京みたいな衝撃的な出会いはない(笑)。東京よりずっとおだやかに時間が流れていて、お店も、家族と行ったところが今もずっとある。たまに一軒なくなったりして『えっ、あそこなくなったんや』と、友達と地味に驚く程度です。川端康成の『古都』に出てくる名店や北山杉の丸太磨きの行程もあのままで、めっちゃ素敵(すてき)です」

 よそものをそうそうは入れない。だから変わらない。変わろうとしたら、自分が外へ出ていくしかない。歴史と個人の葛藤がぶつかりあいながら前進する。綿矢さん自身、早稲田大学進学を決めたときは「京都にもいっぱい大学あるやん。なんで東京。意味わかんない」と、反対を通り越して不思議がられたという。なぜ“手のひらの京”を飛び出したのか。末娘の凜に、綿矢さんの思いが溶かし込まれている。

 宵山は予約して行く観光行事ではなく、暑い京都の夏祭りだ。夕飯を食べ、お風呂に入ってから友達と待ち合わせして行く。デートスポットの鴨川は、夜になると人をのみ込みそうな勢いで真っ黒に流れる。寺と坂と川に彩られた千年の都。「たとえ将来変わったとしても、私の中では大切なふるさとであり続ける」という綿矢さん。京都出身ではなかった川端康成や谷崎潤一郎も書きえなかった「生活感のある京都」を、綿矢作品でぜひ。

(構成・柴崎あづさ)

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綿矢りさ(わたや・りさ)

 1984年、京都府生まれ。高校在学中に当時最年少の17歳で文藝賞を受賞し、デビュー。2004年、19歳で芥川賞を受賞し話題を呼ぶ。早稲田大学卒業後は専業作家として活動。12年、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞

<サンデー毎日 2017年1月8-15日新春合併号より>

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