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社説

歴史の転機 人工知能 人類の将来を見据えて

 年末から年始にかけ、ネット上で謎の囲碁ソフトが日中韓のトップ棋士らに60連勝し、「神的な強さだ」と話題になった。正体は米グーグル傘下の人工知能(AI)「アルファ碁」の改良版だった。

     昨年3月に韓国の李世〓(イセドル)九段を破って世間を驚かせた時の能力をはるかに超え、「もう勝てる人間はいない」とまでささやかれる。AIの進化の、恐るべきスピードを実感させられる出来事だ。

     AIとインターネットなど情報通信技術やロボット技術とを組み合わせた技術革新の波は、第4次産業革命とも称され、私たちの生活や社会を大きく変えようとしている。

    自動運転は普及段階に

     AIの能力が向上し続ければ、人間を支配するようになるのではないか。AIを使いこなせる人とそうでない人との間で新たな格差問題が生じるのではないか。そんな懸念も語られるようになった。

     AIを活用した技術で普及段階に入りつつあるのが車の自動運転だ。

     アクセル、ブレーキ、ハンドルの三つの操作のうち、二つを自動化した車は既に市販されている。ドライバーを必要としない完全自動運転車も開発競争が続く。目立つのはホンダとグーグルなど国境を超えたメーカーとIT関連企業との連携だ。

     自宅でスマホを操作すれば、自動運転タクシーがやってきて、目的地に運んでくれる。そんな時代も夢ではない。ドライバーのミスによる事故や渋滞が減り、高齢化社会のニーズにも合致する。社会への恩恵は計り知れないだろう。

     問題は、事故時の責任の所在だ。人身事故が起きた場合、現行法では基本的にドライバー側の損害賠償責任が問われるが、完全自動運転車にドライバーはいないからだ。

     日本損害保険協会は昨年、「法令などを抜本的に見直す必要がある」との報告書をまとめた。従来よりも被害者やメーカーの責任が問われるケースが増えるかもしれない。

     日本機械学会は昨年、法律上の課題を検討しようと模擬裁判を2度開いた。企画者の一人で東大生産技術研究所の中野公彦准教授は「メーカー責任ばかりが厳しく問われれば技術開発は遅れる。だからといって被害者の救済がないがしろにされてはならない」と語る。

     こうした問題を広く議論して社会的合意を形成し、法制度を整備していく。自動運転技術に限らず、AIの導入全般に関わる課題だ。

     医療の分野でもAIの利用は遠い将来の話ではない。東大医科学研究所の宮野悟教授らのグループは、IBM社が開発したAI「ワトソン」を導入し、がんの診断や治療薬選択に利用する研究を進める。

     昨年、抗がん剤の効果は出たものの副作用で回復が遅れた白血病患者の遺伝子データを「ワトソン」に入力したところ、10分ほどで特徴的な変異を見抜いた。これを基に治療薬を変えたところ回復したという。

     ワトソンの強みは、2000万件を超える文献情報や1500万件を超える薬の特許情報、がんの遺伝子変異情報など膨大な情報を学習していることだ。

    倫理や法制度の課題も

     大量の情報を医師1人でカバーするには限界がある。だからこそ、AIは医師の有能な「助手」になり得るが、職種によってはAIと人間が競合するケースも出てくるだろう。

     「やがてホワイトカラーの仕事の多くがAIに奪われる」。早くからそう警告してきたのは、国立情報学研究所の数学者、新井紀子さんだ。

     東大入試に挑戦するAI「東(とう)ロボくん」の開発を進める中で、改めてわかったのは「AIの弱点は本質的に『意味』を理解せず、今は読解力に限界があること」だ。

     裏を返せば、意味がわからなくてもできる仕事は早晩AIに取って代わられる。だから人間はAIにない能力を身につけることが大切だと訴える。

     研究開発や利用時の倫理面、法制度の課題などを検討してきた内閣府の有識者懇談会は昨秋の論点整理で、AIとの協働を「人間能力の拡張」と位置づけ、新しい価値観の基盤となる可能性を指摘した。

     AIには何ができて何ができないかを研究し、人間にしかできない能力を育成する重要性も強調した。取り組むべき目の前の課題だろう。

     科学者の中にはAIの可能性をさらに先に見る人たちもいる。AIの働きが人間の脳の働き方と同等のレベルに達した時には、「AIも人間のように理解し、心も持ち得る」という考え方だ。

     今は思考実験の域を出ないとしても、自動運転車やワトソンの先には、「人間とは何か」を根本的に問わざるを得ないAIの出現があるかもしれない。

     今でも、AIの問題を考えることは人間とは何かを考えることにつながっている。人類の将来を見据え、真剣に向き合うべき時が来ている。

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