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社説

オバマ政権8年 「チェンジ」の決算 理念の実現に苦しんだ

 バラク・オバマ大統領は米国史においてどう位置づけられるか。世界に何を残したのか--。この問いに答えるのは容易ではない。

 理念の人ではあった。8年前、打ち続く戦争と不況にあえぐ米国で変革(チェンジ)を訴えて就任し、プラハで「核兵器のない世界」構想を唱えてノーベル平和賞を受賞した。

 アフガニスタンとイラクでの戦争終結に努め、「イスラムとの和解」演説でアラブ・イスラム圏との融和姿勢を見せた。戦場の硝煙のにおいが忍び込む米国に、「イエス・ウィ・キャン(私たちには可能だ)」の楽観的な掛け声が、さわやかな風のように駆け抜けた。

勇気を見せた広島訪問

 確かに米国は変わった。ブッシュ前政権は、米国の力で世界を変えようとするネオコン(新保守主義派)の影響を受け、対テロ戦争では各国に「米国の敵か味方か」と踏み絵を迫る息苦しさがあった。

 オバマ氏はそんな傲慢さとは無縁だった。同氏が敬愛する政治学者ラインホールド・ニーバー(1892~1971年)は、第二次大戦後に最強国家になった米国に対し、強国は憎しみやうぬぼれゆえに目が見えなくなって進路を誤ると警告した(「米国史のアイロニー」)。

 オバマ政権が新たな紛争への介入を極度に嫌ったのは、無い袖は振れぬ台所事情とは別に、超大国が腕力を使う際の、思わぬ落とし穴を警戒したのだろう。謙虚さでは史上まれな大統領だったのは間違いない。

 リーマン危機を乗り切り、イラク撤兵を実現したのは政権1期目の成果である。お別れ演説でオバマ氏は2期目のキューバとの国交回復やイラン核問題での合意などを外交成果に挙げた。

 「民主主義は、それが当然と思った時に危機に直面する」として民主的な社会を大切にするよう訴え、8年前の変革の精神に基づいて「『イエス・ウィ・キャン』を信じてほしい」と締めくくった。

 外交成果では昨年5月の被爆地・広島訪問も特筆したい。核軍縮は進まず、北朝鮮は挑発するように核実験を繰り返す。「核なき世界」のために切れるカードは米国のタブーを越えた被爆地訪問しかない。たとえそうだったにせよ、意義深く勇気ある訪問だった。

 その一方で、「理念の人」は理想と現実の落差や実行力不足に苦しみ、打開に向けて悩み続けた。

 代表的な例がシリアだ。お別れ演説でオバマ氏は、同時多発テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者の殺害や8年間のテロ対策を誇りつつ、シリアには全く言及しなかった。

 2013年、シリアのアサド政権による化学兵器使用が確実になった時、オバマ政権はシリア空爆を予告しながら、プーチン露大統領のとりなしもあって空爆を事実上中止した。その際、オバマ氏は「米国は世界の警察官ではない」と明言した。

 だが、91年の湾岸戦争以降、中東に強い影響力を持つ米国が腰くだけになれば、シリアのアサド政権軍や過激派組織「イスラム国」(IS)が勢いづくのは目に見えている。化学兵器使用を「レッドライン」としていたオバマ政権の朝令暮改的な方針転換は重大だった。

自画像が小さすぎた

 未曽有の人道危機を生んだシリア内戦の収拾に、米国は全力を尽くしたか。オバマ氏の政治責任を問う声は、今後も尾を引くだろう。

 しかもオバマ氏がシリア空爆を中止した翌年、ロシアはクリミア半島を奪いISは独立国樹立を宣言し、南シナ海での中国の埋め立ても本格化した。アジア重視の「リバランス」とは裏腹にオバマ政権は中露や北朝鮮から甘く見られた感がある。

 オバマ氏は初の黒人大統領でもあり、米国の新たな自画像を描きたかったのだろう。米国だけが「警察官」ではなく、各国が応分の負担をする。大国は威張らず、小国も大国の顔色をうかがう必要のない、平等な国際社会をめざす。そんな考え方が間違っているとは思わない。

 だが、理想の社会の建設には時間がかかる。オバマ氏は米国の役割を軽く見て自画像を小さく描きすぎた。逆に次期大統領のトランプ氏は米国の像をことさら大きく描いた印象があり、今の世界では米国の像が二重に見えている。

 8年間、スキャンダルと無縁だったオバマ氏は、冷静で理知的な大統領だった半面、自分のスタイルを崩さず難しい問題は遠ざける傾向が目立った。米議会の多数派・共和党がオバマ氏の手足を縛ったにせよ、大統領として局面を打開する力を欠いたことは否めない。

 00年に同じ民主党のクリントン大統領が中東和平の実現をめざし膝詰めで関係3首脳会談を続けたように、たとえ失敗しても、泥をかぶっても、世界のために身をていする覚悟を見せてほしかった。

 それでこそ可能な「チェンジ」もあったはずだ。

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