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サンデー毎日発

初対談 日比谷・武内彰校長vs.開成・柳沢幸雄校長 両校に「合格」したら、どちらを選ぶ?

会場からの質問に答える開成の柳沢校長(左)と日比谷の武内校長
たけうち・あきら 1961年生まれ。東京理科大理学専攻科修了後、物理教諭として都立高4校の教壇に立つ。西高副校長、都立翔陽高校長を経て2012年より現職
やなぎさわ・ゆきお 1947年生まれ。民間企業に勤務後、東大大学院修了。ハーバード大大学院准教授・併任教授、東大大学院教授などを経て2011年より開成中学・高等学校校長

 昨春東大に53人が合格し、合格者数ランキングの11位に躍進した東京都立日比谷高校の武内彰校長と、開成中学・高等学校の柳沢幸雄校長が初めて対談した。中高一貫校を脅かす存在となった日比谷と、35年連続1位を誇る開成、注目の「公私対決」の行方はいかに-。

     毎日新聞社(東京都千代田区)で開かれた「毎日小学生新聞創刊80周年特別座談会」(毎日新聞社・日経毎日会共催)は、いっぷう変わった趣向で始まった。子どもの進学問題に関心の高い保護者など、来場した約200人に緑色と黄色のカードが配られたのだ。

       ◇   ◇   ◇

     西村隆・毎日小学生新聞編集長(司会) お子さんが両校に合格したら、どちらを選びますか。日比谷なら緑色、開成なら黄色を上げてください。……半々くらいですね。今、日比谷高校には開成の合格を蹴って入学した生徒が、3年に12人、2年に15人、1年に17人いるそうです。

     柳沢 受験生はそれぞれの評価基準で進学する学校を選びます。米ハーバード大は1学年の定員約1600人に対し、2100人程度に合格を出します。辞退者が10人程度の東大は例外ですが、これが世界の常識です。

     西村 武内先生、いつかは開成を東大合格者数で上回りたいですか。

     武内 それは厳しいと思います。東大(合格)は本校の多くの生徒が希望していて、今はその過半数の希望もかなえられていません。希望に沿うようにしていきたいと思っています。

     西村 会場の保護者からこんな質問があります。小学生が塾で1日何時間も勉強して中学入試を突破することを、どう思いますか。

     武内 お子さんと保護者の選択ですから、どちらが良い、悪いと言えるものではありません。希望の学校に入って人間的に成長していくことが一番大切です。私立が良い、公立が良いと固定的に考えるのもよくありません。」

     柳沢 イチローは小学校時代、1日8時間も自分から進んでバッティング練習をしていたそうです。同じように、毎日何時間も勉強しても悪いことは全くありません。ただし、本人がやりたいと思っていることが大切です。

     西村 開成は高校からの入学もあります。完全な中高一貫にする予定はありませんか。

     柳沢 全くありません。本校は高校から入学した「新高生」も、内部進学した「旧高生」と全く同じ経験を積めるようにしています。卒業時には、教員でも新高生か旧高生かを区別できなくなります。最初は新高生100人で2クラスを編成し、高1の間に勉強も部活も生活習慣も旧高生と同じようなレベルにしていきます。慣れるまでは、新高生にとってクラスは居心地のいい空間としてあります。3年間で中高6年分を経験できる生徒にとって非常にお得なコースですから、やめるつもりは全くありません。

     西村 私立と公立の違いの一つは授業料です。都立の年間授業料は高いといくらでしょう。

     武内 11万8000円くらいです。

     西村 私立はもっと高いですが、開成には奨学金制度がありますね。

     柳沢 2種類あります。一つは入学後、保護者の事故や離婚など家計状況が急変した場合に、OB会とPTAから「就学支援奨学金」が出ます。学校の「授業料特別免除」と合わせて、自己負担なく通学できます。原則2年。その間に自治体奨学金の受給申請をするなど自助努力をすると、継続支給されます。もう一つは、OB資金による高校入学生への「開成会 道灌山奨学金」です。保護者の給与所得が年間400万円以下の子どもが申し込めます。試験前に資格の有無を通知し、合格すれば都立校と同程度の納入金額で卒業することができます。落第しないことが条件です。

     西村 子どもの学力が家庭の所得格差に左右されている問題がありますから、広く知ってほしいですね。日比谷は米国のハーバード大やスタンフォード大を見学するプログラムもありますが、学校のプログラムをフルに楽しもうとすると、年間いくらかかりますか。

     武内 授業料以外に教科書・補助教材費が5万円程度かかります。海外に行く場合はSSH(文部科学省が指定するスーパーサイエンスハイスクール)への助成があり、57万円かかるところを41万~42万円の個人負担となっています。

    「勉強だけ」の生活は子どもを伸ばさない

     西村 私立の良さの一つに、教師陣の勤続年数の長さがあります。

     柳沢 定年は68歳で、勤続20年、30年の教師はたくさんいます。卒業後に立ち寄っても習った先生がいるため、学校が身近なままでOBのつながりもできます。

     西村 逆に都立校で教師が異動するメリットは何でしょう。

     武内 都立は原則6年で異動しますから、人材育成にかなりの労力を注いでいます。全教員の授業を年2回見て、良い点や工夫が必要な点を話しています。学校経営計画を進めるために年3回、教員と面談もします。

     西村 会場に聞きます。中高一貫がいい人は黄色、3年制の高校がいい人は緑色を上げてください。……圧倒的に黄色が多いですね。

     柳沢 中高一貫のメリットは、やんちゃな子どもから大人への成長プロセスを経験できることです。中1、中2はやんちゃな時がありますが、高校生になると部活で後輩を指導するようになります。人は指導する立場になると、途端に大人になるものです。

     武内 私も黄色を上げました。6年間かけて大きく育てる方が有利だと思っています。ただ、都は中高一貫校をこれ以上増やさない方針ですし、私も中高一貫校を目指したいとは思いません。教育力のある学校でしか3年間で仕上げられないことを、逆にアピールしていきたいです。3年間は非常に忙しいですが、タイムマネジメントして志の高い仲間と過ごす中で、自分では到達できないところまで伸びていきます。突き進むだけ。中だるみはありません。

     西村 (会場に向けて)男女別学がいい人は黄色、共学がいい人は緑色を上げてください。……緑色が少し多いですね。

     柳沢 男女共同参画の時代ですが、子どもの成長速度には男女差があります。中等教育(中学~高校)の時期は自主的活動で女性がリーダーシップを取り、男性が補助的になりやすい。ですから中等教育段階では男性がリーダーシップを経験するには別学の方がいいです。

     武内 共学は社会の縮図です。本校で体育大会は男性がリーダーシップを取ることが多いですが、合唱祭は女性のことが多い。ごく自然に役割分担をしていますし、良い関係を自然に築いています。

     西村 塾にはどの程度の人が通っていますか。

     武内 基本的に学校で完結できるようにしていますが、3年生は1~2科目選んで通っている生徒が多いです。通塾している割合は3年79%、2年45%、1年25%です。

     柳沢 塾は弱点の補強に利用できますが、最初から勉強の仕方を学ぶと良い結果を招きません。自分に適した勉強の仕方を見つけ出す努力が必要です。つまずいて、起き上がる経験が大切です。つまずいた子どもが手を挙げた時は先輩や先生が教えますし、OBの家庭教師を紹介することもあります。

     武内 勉強だけの生活は、生徒たちを人として伸ばしてはくれません。難関大に進む生徒ほど部活や学校行事にしっかり取り組んでいます。9月の星陵祭(文化祭)に一生懸命取り組んだ生徒たちは、最難関大に合格しています。

     柳沢 1年間かけて準備する5月の運動会を縮小して高3を参加させないようにすれば、東大合格者は増えます。東日本大震災のあった2011年、本校は3月いっぱい学校を閉めました。例年、運動会準備に夢中な時期ですが、その間に新3年生が勉強したため、翌春の東大合格者は200人を超えました。でも、高3が運動会に不参加ということは考えられません。運動会、文化祭は人格形成に欠くことのできない教育装置だからです。

     西村 両校にいわゆる落ちこぼれはいますか。

     柳沢 中1は5月に中間試験があります。小学校でトップレベルだった生徒がいきなりクラス最下位になっても、学校が楽しいと思えるのが本校です。成績は一つの価値で、人と違う力を持っていることが非常に尊敬される文化があるからです。開成で400番だったとしても、自分の得意な分野では全国では1万番、同一年齢の上位1%に入るかもしれない。社会で上位1%の人材は大きく活躍することでしょう。

     武内 落ちこぼれと認識している生徒はいませんが、赴任した時、学力階層は二極化しているふたこぶラクダでした。進路実現は団体戦。学年の学力を伸ばすには上位層だけを引き上げてもだめです。補習や担任との年4回の面談などで、学力下位層のこぶを潰しました。結果が出るまで生徒と向き合っています。

     西村 では最後にもう一度、冒頭と同じ質問です。もし両校に合格したら、どちらを選びますか。開成は黄色、日比谷は緑色--。

       ◇   ◇   ◇

     この“カラーカード対決”の結果は読者の想像にお任せしたい。「良い学校」が人によって違うことは、この対談で分かってもらえたはずだ。一生続く「学び」の道をどう歩み始めるか、親子で考えるきっかけにしてほしい。【構成/毎日小学生新聞・山根真紀】

    都立日比谷高等学校

    東京都千代田区永田町2-16-1▼創立1878年▼共学校▼生徒数976人

     文武両道を貫き、全人教育をしていく「知の日比谷」は、将来のリーダーを育てることを目指しています。そのために大切なのは、教養の土台と、豊かな人間性を3年間で築くことです。質の高い授業、文武両道、高め合う集団づくりを教育の三つの柱としています。

     前後期の2学期制で、授業は1コマ45分、1日7時間あります。自分で考え、自分の言葉で表現することを重視。入試に関係ない科目もすべて学びます。文理分けは3年生からですが、文系、理系とも同じクラスです。夏季講習は毎日あり、土曜補習は基礎講座と発展講座を設けています。

     部活動の全校加入率は94%です。体育大会、合唱祭、星陵祭(文化祭)の3大行事は生徒が主体的に進めます。部活動は平日週4日まで、土日は原則どちらか。OB・OGが講師になる宿泊行事は臨海合宿、夏山キャンプ、スキー教室があります。

     文部科学省からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けて2期目です。1年生全員が自然科学分野の探究活動をして単位認定しています。東大と連携して十数回、本校で講演会をしているほか、在学中1度は東大安田講堂をお借りして、全校生徒で著名な方の講演を受けます。

     東京都教委がグローバル人材の育成を支援する「東京グローバル10」にも指定されています。米国で食料問題の地球規模の解決策を発表する機会や、米国のハーバード大、マサチューセッツ工科大などを訪問する機会もあります。また、2016年から1、2年生全員を対象にケンブリッジ英検を校内で実施しています。

     進路指導はかなりきめ細かいです。行事も部活もやりつつ、進路実現に向けて最後まで頑張る集団です。シラバス(授業計画)▽生徒による年2回の授業評価とデータ分析結果の周知▽固定業者による模試と結果を踏まえた指導--が支えです。(武内彰校長)

    開成中学校・高等学校

    東京都荒川区西日暮里4-2-4▼創立1871年▼男子校▼生徒数2109人

     本校は「ペンは剣よりも強し」「質実剛健」という理念のもと、生徒の「自主性・自律性」を育てることを目標としています。ゴールは「開物成務」。生徒の素質を花開かせて、人としての務めを成し、社会や世界に貢献する人材を送り出したいと考えています。

     自主性・自律性は先の読めない未来を乗り越えるのに必要な生命力・生活力です。そうした力をつけるには、学校に居場所があり、充実した課外活動があり、将来を見通すためにOBの経験談を豊富に得る機会があることが欠かせません。

     学校生活が楽しければ、生徒は自分自身で考え、いろいろなことに取り組みます。一方で、ごく少数のつまずいている生徒には、1人に対して多くの教員が対応するなどします。

     入学直後からボートレースの応援、運動会、学年旅行などの行事を通して同期生や先輩と縦横のつながりができます。個人の課外活動は今年優勝したアプリ甲子園、数学や生物学のオリンピックなど、多彩な活動に参加しています。

     本校には「○○になりたい」を実現する仕掛けがあります。OBを招いた講演会はその一つ。また、OB寄付による「ペン剣基金」は研究提案をして研究費を獲得する助成制度で、中1から参加できます。国際交流活動は希望者がアドバイスを受けながら、書類準備からすべてを行います。

     生徒の選択は文系、理系、芸術系など多様です。奨学金を得て海外の大学へ進学する生徒も多くいます。(柳沢幸雄校長)

    *週刊「サンデー毎日」2017年1月29日号より転載

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