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第4回 復讐のバレンタイン=室井佑月

 バレンタインデー。

     女性が好意の証しとして、男性にチョコレートを渡す。たくさんもらう男性もいれば、まったくもらえない男性もいる。

     あたしは仕事関係者など、毎年30~40個くらい配る。もはや、お歳暮やお中元の類いに近い。

     渡すとき、わざとみんながいる前で、

    「愛してます!」とか、

    「ウィズ・ラブ!」とか、

     一言いって渡すのも恒例だ。

     お金のかかったイタズラみたいなもん。たいていはゲラゲラ笑われ、気の利いた男性なら、

    「ヤッホー、両想(おも)いだね!」とか、

    「佑月(いつもは室井さんだが)、俺も愛してる」とか、

     面白おかしく答えてくれる。

     ま、そういう男性は、女性陣から好かれている。あたしのほかにも方々からチョコレートをもらっているんだろう、バッグがチョコの箱でパンパンで、紙袋をもう一つ、みたいな感じだ。

     バレンタインでチョコをたくさんもらってくる男性は、それだけ顔が広く、周囲と上手(うま)くやっているってことだ。

     逆に、一つもチョコをもらえないのであったら、それだけ閉じこもった生活をしている。

     しかし、とくべつに閉じこもった生活などしていないのに、バレンタインデーに女性から無視される男性もいるにはいる。

     もし、自分や、自分の夫や息子などがそうであったら、なぜそうなのか考えたほうがいい。

     べつに、その日その場で目に入らなかったわけじゃない。わざと無視された可能性もある。周囲の女性は、無視しようと決めて無視した。いじめに近い。

     チョコなんて何千円もするわけじゃない(お高いやつもありますが)。もらう側の男性だって、チョコが好きでたまらないわけでもない。

     バレンタインという市民権を得た儀式というか、祭りみたいなもんがあって、女性は挨拶(あいさつ)程度に顔馴染(なじ)みの男性にチョコを渡す。男性も挨拶(あいさつ)程度にチョコを受け取る。その程度のもん。

     が、どうしてその程度のことに乗れないのか?

     バレンタインデーを外した364日間の間、女性から嫌われてしまうようなことをしでかしていないか?

     いつも威張っていたり、人前で恥をかかせていたり、失敗したのに謝らなかったり、失敗を人のせいにしたり、異常にケチだったり。なにか理由はないか?

     たいていの女性は、仲間に愚痴や不満を話すことで、ストレスを発散させる。つまり、しでかしてしまったことは、周りの女性たちに拡散される。

     しかも、拡散されるうちに、話は意味不明になっていったりもする。

    「主任って、不必要に肩とか触ってくるよね」がはじめの話だったりすると、その次は「主任、◯◯ちゃんにいやらしいことしたみたい」となり、その次の次は「あのハゲ、スケベでやばいらしいね」となり、その次の次の次は「エロハゲ、今日もエロそうだな。キモッ!」となる。

     もしかすると、はじめの話も肩に触れられたことが嫌だったわけじゃなく、みんなの前で叱られて、その腹いせでちょっと気になったことをわざわざ見つけ、みんなに報告した可能性もある。話を振られた仲間たちも、たとえば部の飲み会で上司のくせに10円単位で割り勘にした、若い女性にあからさまな贔屓(ひいき)をする、などといった不満を普段から抱いていて、これを機会にこの男の悪口解禁となったのかもしれない。そして、最後はなにもしていないのに、酷(ひど)いことをいわれるのだ。

     こういう話をすると、世の男性は女が怖いと思うかしら?

     書いていて素直に思う。女は怖いと。

     執念深いから、バレンタイン、みんなにチョコを渡し、一人だけ渡さないという陰湿な復讐(ふくしゅう)をしたりする。その際、味方を集い、女子全員でそうしたりする。

     しかし、執念深いぶん、どこまでも情け深いのも女。普段から優しく接していれば、まさかというとき、助けてもらえたりもする。

     またその手が男には考えつかないことだったりして。さりげなくライバルの悪口を拡散し、蹴落としてあげたり?

     やっぱ、女は怖い?

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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