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第5回 ややこしくない人付き合いについて=室井佑月

 人付き合いにおいて、大事なことは距離感だと思う。節度といってもいいかもしれない。

     相手が異性であっても同性であっても、はじめは「この人、好ましい」と思い合って仲良くなるはずだ。

     しかし、お付き合いするとき、自分も相手も、すべてを見せているわけじゃない。初対面の相手に、自分のややこしい部分を見せる人なんているのかな?

     自分のややこしい部分というのは、それまで生きてきた中でいつの間にか定着している人には理解しがたい『マイ・ルール』であったり、良い時はそれが魅力で悪い時はそれが欠点と人から指摘される性格の個性だったり。

    『マイ・ルール』は厄介だ。なぜなら、本人がそれは自分だけのものである、と気づいていないことが多いから。

     あたしは以前、ママ友とそれぞれの息子たちを連れてご飯を食べに行ったとき、息子たちのくだらない下ネタにゲラゲラ笑って少しだけ参加した。そうしたら、「あの人は子どもの前で変な話をする非常識な人。常識知らず」――そう方々に悪口をいわれていたことが発覚して、驚いたことがある。

     あたしのまわりではくだらない下ネタは、誰も傷つかない鉄板の盛り上がる会話であった。家庭内においても、息子と歴史年表の語呂合わせを下ネタで作り合ったり、一緒にテレビを観ていてエロいシーンが出てくると、恥ずかしいから「早くやれ!」なんてわざと掛け声をかけたりしていたのだった。それが不味(まず)いこととはわからなかった。

     その場で「そういうことは私は嫌い。やめて」と注意されたなら、なんとも思わなかったかもしれないし、ママ友としての付き合いもつづいていたように思う。だが、方々に一方的に悪口をいわれたことで、あたしも彼女自身の問題点について気になりだしてしまった。

     彼女は周囲の情報収集能力に長(た)けていた。あたしたちはママ友であったため、学校の情報を主に教えてもらっていた。あの教師は教え方が悪いとか、あの子は度が過ぎたやんちゃで学校で問題を起こしたとか、あの子は成績が良いとか悪いとか、あの家庭はなにをしていて家族関係はどうだとか、他人の批判が多かった。

     仲が良いときは、あたしも彼女の情報を頼もしく思うことがあった。しかし、自分がいわれてしまう立場になれば、彼女のそういうところにムカムカと腹が立ち、付き合いをやめた。

     けれども、今ならば思う。彼女の『マイ・ルール』は、子どもの前で下ネタは言わないというものだっただろうし、仲が良い人であってもほかと平等に批判するという姿勢だったのかもしれない。あたしとは真逆の『マイ・ルール』だったわけ。

     仲が良くなる際に、お互いにお互いの細かいルールまでは話し合わないから、そのとき、気まずい感じになってからでないとわからない。

     性格についてもおなじことがいえる。

     たとえば、サービス精神旺盛で、ウワサ話に長けて、人を楽しませるのが好き、という人がいたとしよう。あの人がいると座が盛り上がる、みたいな人だ。

     良い時は楽しい人だけど、悪い時はおしゃべりで軽い人となってしまう。

     逆に、いつも穏やかで、控えめで、人の悪口などは一切いわない人がいたとしたよう。良い時は信用できる人で、悪い時は退屈な人となってしまう。

     人間、みな良いところと悪いところがあるんだけどね。

     はじめは相手の良いところしか見ていないし、良いと思った人に対しては過剰に期待をしてしまうのがいけない。

     といいつつ、あたしもこんな簡単なことが、若い頃はわからなかった。なので、愛した男には過剰に期待をしたし、裏切られるようなことがあれば過剰に憎んだ。

     あたしが誰かを愛することも、憎むことも、広い世の中からすれば全く意味のないことだと気づいたのは最近か。

     だって、そうでしょう? すべてあたしの心の中の話。相手は関係なく、自分だけの話。くだらない。どうでもいい、そんなこと。

     自分も相手も完璧ではないという前提で、近づきすぎ鬱陶しくなる前に距離を置き、離れて疎遠になりそうだったら近づいて、人付き合いにはそういうバランスが必要なんだと思う。

     その際、自分の足できちんと立っていることが大事。そうすれば、誰かに依存することもない。バランスも上手(うま)くとれる。

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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