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岡崎 武志・評『バスを待つ男』『昭和声優列伝』ほか

今週の新刊

◆『バスを待つ男』西村健・著(実業之日本社/税抜き1500円)

 西村京太郎はじめ、旅情をかりたてる鉄道ミステリーは数々あれど、西村健『バスを待つ男』が扱うのは都内のバス路線。おもしろいところに目をつけた。

 10年前に警視庁を定年退職した元刑事の「私」は無趣味。暇を持て余し、妻のすすめにより、都バスであちこち足を延ばすようになった。目的を持って乗車する人々の日常に、部外者として「私」が乗り込む。「刑事時代と相通じる」ことに気付いた。

 表題作では、錦糸町駅発大塚駅行きバスの途中の停留所で、いつも何かを待つ男がいる。彼はバスに乗らず、何を待つのか。刑事らしく推理を働かすが、謎を解いたのは妻だった。殺伐とした事件ではなく、心温まる結末が最後に用意されている。

 赤羽、池袋、北品川、青梅と、バスならではの出会いと発見が、「私」を新しい世界へ導く。「次はどのバス路線に乗りに行こう。そしてそこには、どんな謎が待っていてくれるだろう」

◆『昭和声優列伝(お茶の水博士の声優 勝田久が贈る)』勝田久・著(駒草出版/税抜き2200円)

 アニメ番組の声、洋画の吹き替えと、顔が出ない「声」だけで大衆を魅了した「声優」たち。その技術は恐らく世界一。勝田久『昭和声優列伝』は、そんな「声でささえた名優たち」を紹介する。

 著者自身がNHK専属ナレーターから転身した声優だった。「鉄腕アトム」のお茶の水博士ほか、多くの出演作を持つ。第一部「そして声優が始まった」は、自叙伝であり、人はいかにして声優になるかも教えてくれる。

 第二部「列伝」では、「宇宙戦艦ヤマト」古代進の富山敬、「巨人の星」花形満の井上真樹夫、初代「ドラえもん」の大山のぶ代など錚々(そうそう)たる顔触れが登場。野沢雅子は「ど根性ガエル」ひろし他、バイタリティーあふれる少年役をこなす。それは自身が持つ「少年性」が発揮されたのだと著者は見る。

 アラン・ドロンの吹き替えで有名な野沢那智は、本人が人気者となるも、食えずにアルバイトを続けていたという。苦闘が生み出した声の「華」だったのだ。

◆『音の記憶』小川理子・著(文藝春秋/税抜き1350円)

 『音の記憶』の著者・小川理子(みちこ)は、パナソニック役員にして、メジャーデビューを果たしたジャズピアニスト。1986年入社、音響研究所に配属。お腹(なか)の中で聞いた母の子守歌、そんな「音の記憶」を呼び起こす音響機器開発を目指して成果を上げるが、仕事から引き離された。そして再び、高級オーディオブランド「テクニクス」復活プロジェクトが双肩にかかることに。「音の記憶」という感情が、音響技術で喚起できる日が……。働く女性による日本企業での挑戦の日々を描く。

◆『ウスバかげろう日記』遠藤周作・著(河出文庫/税抜き800円)

 スコセッシ監督の映画化により、遠藤周作原作の『沈黙』が話題に。新潮文庫は累計200万部を突破したという。魂の作家は、軽妙なエッセイストでもあった。『ウスバかげろう日記』は、ごぞんじ狐狸庵(こりあん)先生が、50代半ばにして、ダンス、英会話に励み、旅やいたずらに精出す生活がつづられる。盟友・阿川弘之が、令嬢の結婚式に、海軍大尉の軍服でお色直しするのが夢だと語る一節がある。「令嬢」とは阿川佐和子。ついに叶(かな)わなかったことを、約40年後の我々読者は知るのである。

◆『慶應三田会の人脈と実力』田中幾太郎・著(宝島社新書/税抜き700円)

 あまたある大学同窓会のうち、慶應三田会は特別。トヨタの豊田章男社長、サントリーの佐治信忠会長などなど、上場企業トップの10人に1人が慶應の出身者で、東大や早稲田を大きく引き離す。田中幾太郎『慶應三田会の人脈と実力』は、企業内にとどまらず、横断しながら多大な影響力を持つこの組織をつぶさに取材、日本の「スカル&ボーンズ」と呼ばれるパワーに迫る。政界では凋落(ちょうらく)の兆しがある一方、経済界で存在感を増す慶應三田会の動向が、大きな変化を迎える日本の今後を左右する。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年3月26日号増大号より>

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