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Promises 2020への約束:加藤凌平×藤井快 東京五輪への共通点

体操の加藤凌平選手(右)とスポーツクライミングの藤井快選手=丸山博撮影

Promises 2020への約束

加藤凌平×藤井快 東京五輪への共通点

 競技の枠を超えて選手たちがそれぞれの思いを語り合う「Promises 2020への約束」は昨年のリオデジャネイロ五輪の体操男子団体総合金メダルの加藤凌平(コナミスポーツ、23)と、20年東京五輪の追加競技として初採用されたスポーツクライミングの藤井快(こころ、24)=東京都連盟=が初めて会った。加藤の練習拠点であるコナミスポーツ体操競技部体育館(埼玉県草加市)を藤井が訪ね、体操器具を使って体を動かすと、すぐに互いの身体能力の高さを実感。器具と向き合うアスリートとしての共通点も多かった。【構成・田原和宏】

    藤井、体操に挑戦

    体操の加藤凌平(左)からつり輪を教わるスポーツクライミングの藤井快=丸山博撮影
    体操の加藤凌平(左)から平行棒を教わるスポーツクライミングの藤井快=丸山博撮影
    藤井(右)にあん馬の練習方法を披露する加藤=丸山博撮影

     加藤 今日はよろしくお願いします。まずは器具の説明から。これがつり輪。

     藤井 やったことあります。クライミングのジムにトレーニング用があって。

     加藤 本当ですか。支持とかできますか。

     藤井 いやあ、どうかな。

     加藤 やったことがない人は、これ(=両手支持からの屈身姿勢)も難しい。できますか。

     藤井 (両手で支持しながら屈身姿勢に持ち込む)

     加藤 おー。そこから逆上がりができればA難度。僕は(子どもの頃)これができるようになるのに1年ぐらいかかりました。

     藤井 (挑戦するも失敗)いや難しいですね。

     加藤 最初ので十分だと思いますよ。次は平行棒。支持できるのならば、そのままこれ(=両腕で支持したまま両脚をスイング)できますか。

     藤井 (バランスを崩して失敗)

     加藤 では手の幅を広げてみて(上腕で受ける腕支持に挑戦)。その状態でスイング。

     藤井 (何とかスイングに成功するも)めちゃくちゃ痛い(笑い)。

     加藤 最初は痛いが、慣れてくれば。

     藤井 体操の握り方って違いますね。クライミングはこう(第2関節を曲げて)なんですよね。指2本あれば、ぶら下がれる(と実演)。

     加藤 すごい(笑い)。

     ――最後に握力測定をお願いします。

     加藤 右が40.7キロです。左は43.2キロです。よし。(藤井選手は)どのぐらいいくんだろう。

     藤井 いきます。右54.6キロ。

     加藤 すごい。

     藤井 ウオーミングアップができたのかな。左いきます。54.5キロ。

     加藤 うわあ、強いわ。もう一回やっていいですか。(再挑戦も)さっきよりだめだ(笑い)。

    クライミングは対人競技と個人競技の中間

    スポーツクライミングの魅力を語る藤井=丸山博撮影
    2020年東京五輪に向けた目標を語る体操の加藤凌平=丸山博撮影

     ――一緒に体を動かしてみて。お互いの第一印象は。

     加藤 結構、細身に見えますし、身長も高いのに、2本の指で(体を)支えられるのがすごいなと思いました。

     藤井 僕はもともと(加藤選手のことを)知っていたので。

     加藤 あ、本当ですか。

     藤井 はい。だから実際に見てすごいなと思いましたね。実際に演技をやってもらって、全然ぶれないし、なんでできるんだろうという感じでした。体の使い方は近いような感じもしました。僕たち(クライマー)は全く型がない。これをやるというのがなくて、アドリブでその場でやるんです。体の使い方が全然違うので。ぜひ教わりたいな。

     加藤 実際の試合はどういうふうに。

     藤井 ボルダリングの場合は、(課題があらかじめ)何個か準備されており、初めて見る。予習ができない。(ルートセッターと呼ばれる)課題を作る人がいて、僕らが登る。

     加藤 (課題を)変えられるということですか。

     藤井 そうです。競技時間が5分なので、一つの課題に5分で攻略方法をその場でアドリブで考えなければいけない。対策を練ることができない。

     加藤 それは難しいな。

     藤井 セッターの得意技を推測して練習する感じです。

     加藤 (会場に)行ってみて分かる。試合はどういう流れなんですか。

     藤井 完全に隔離されるんですよ。(課題が)見えないように。競技順に表に出て行き、1課題5分、予選だと5本、準決勝、決勝だと4本。(1課題を)5分で登る。課題を登れたのかどうか、それから登るのに何回かかったのかで競う。

     加藤 トップ選手ならば(予選の)5個中5個とも登れますか。

     藤井 5課題中5本を1回で登れることはまれ。セッターが意図的に落とそうとしてくる。なかなか全部登るのは難しい。

     加藤 決勝で複数の選手が4本全部、登れたらどうなるんですか。

     藤井 登れた課題の本数、次に登るのにかかった本数で競います。課題を一回で登ることを「一撃」と言います。

     加藤 決勝でも4課題を全て「一撃」するのはまれですか。

     藤井 ゼロに近いですね。僕が競技会に出るようになっておそらく一回もない。男子だとほとんどないですね。

     加藤 一回だめだったら、どうやって登るのか戦略を練り直すということですか。

     藤井 そこで練り直して。もう一回トライして、登っている最中も考えるんですよ。こっちだと落ちるかなというふうに、感覚を頼りにして。

     加藤 それすごいですね。頭がパニックになったら終わりだ。

     藤井 よくなるんですよね(笑い)。前の人が登れて、自分が登れないと。その時点で優劣がついてしまうから。焦って次の課題に行くとまた焦ってしまう。負のスパイラル(連鎖)に入ってしまう。

     加藤 僕たち(体操選手)は対人(競技)ではなくて、(自分と戦うという意味の)個人競技。でもそうなると、(クライミングは)対人競技と個人競技の中間。

     藤井 まさにその通りです。人とも競わないといけないし、(自分の力で壁を)登れなくてもいけない。

     加藤 僕たちは(演技を)作り上げていく。例えば水泳、アーチェリーのように全部同じことを練習する。だから(対人競技でもあり、個人競技でもあるクライミングは)未知の世界。

     藤井 逆に僕からすると、試合の日に向けて練り上げて、作り上げてという場面が(あまりない)。僕たちはどういう課題が出てくるか分からないので、出たとこ勝負。どういう気持ちで(試合に)行くのですか。

     加藤 ルーティンがあるじゃないですか。どこで、何のウオーミングアップをしてという。それを試合会場で行い、後は(作り上げた演技を)本当に出すだけですかね。試合前の緊張感とか、興奮は(どちらの競技も)一緒だと思う。ただ、僕たちは作り上げたものを出せばいいだけなので、気持ちは(クライミングのように)見てパッとやるよりも楽だと思います。

     藤井 大会1週間前ぐらいになると、やってきたものが合っているのかが分からなくて。予選に落ちたらどうしようとすごいナーバスになる時期がある。(対策を練って)作り上げても、大会で対応できなかったら、その瞬間に落ちるので。けれども逆に、大会直前になると、やるしかない、出て行くしかないと割り切っちゃうんですけど。

     加藤 世界一の選手が次の年に予選落ちというようなことってありますか。

     藤井 ありますね。目の前で見ました。年間タイトルを前年に取ったのに、翌年の初戦で予選落ちしたり。何を信じていいのか分からなくなる。

    練習のスタイル

     ――どちらの競技も自分の体重で鍛えるという共通点がある。トレーニングで大切にしていることは。

     加藤 そうか。全部、自重トレーニングですもんね。

     藤井 人によってはおもりをつけて登ったりする人もいますが、僕はどちらかといえば自重で登って。

     加藤 ジムにあるような器具は一切使わないんですね。

     藤井 そうですね。ベンチプレスとか、そういうものはやらないですね。

     加藤 体操もそうで、結構動きのなかでトレーニングすることが多い。ただの腕立て伏せじゃなくて、スイングしながら腕立て伏せをしてみたり。体の使い方を意識しながらトレーニングを積むというのが多いです。

     藤井 僕らは(とにかく)登らないと。順応が大事なので。登りながら体の開いている向きとか、内に持ってくるのか、外に開くのか。膝を内側、外側に開くだけで全然違う。そうやってトレーニングをしている。

     加藤 すごい地味ですね。嫌にならないですか。

     藤井 でも本当に難しくて。

     加藤 腕立ての向きが順手だったり、逆手だったりみたいなものですもんね。

     藤井 あとは脇をしめる、開くとか。前まで内にひねっていたので、今度は外に開いてやってみようとか。

     加藤 繊細なんですね。見ている限り、(クライミングは)力というイメージだったので。遠いホールドも力で持ってくればいいというイメージだったので。

     藤井 そういう選手もいるんですが、クライミングはスタイルがあって。僕の場合は教科書通りというわけじゃないけど、感覚で登るとかでもなくて。クライミングは大会ごとに(課題の)傾向も変わるし、どういう課題が出てくるかも分からない。起こりうる可能性を一つずつつぶしていく。そうやってやっている。終わらないですね。

     加藤 それは同じですね。一つの技でも試合に行ったら、例えば(体が)反応しすぎたりとか、調子が悪いとか。1演技で10個の技が入っているんですが、それを一つ一つつぶしていく。終わらないですね。

     藤井 僕もここまで来るのに、ストレッチを3年くらいやったんですよ。つい最近、(トレーナーから)やっとトレーニングに移れるねと言われた。やっと土台ができた。

     加藤 (ストレッチは)大事なんですね。(クライミングは)そんなに可動域を広くしたりするもんなんですか。

     藤井 クライミングは下から(の動き)を上に伝えるので、足や蹴りで変わる。関節の硬い、柔らかいで力が逃げたりする。ダイレクトに力を伝えるために、ストレッチをしたり、筋肉を柔らかくしたり。

     加藤 めちゃめちゃ繊細なんですね。

    五輪という舞台

     ――どちらも「安定感がある」と言われる。大きな舞台で普段通りにできる理由は。

     加藤 僕は正直、体操が教科書通りでは全然ないんです。小さな頃から本当は基礎(練習)をやらないといけなかったのに、基礎(練習)はやっぱり地味なので、自分の好きなことしかやらなかった。だから技はいろいろできたんですが、(演技が)汚くて。段々ときれいにまとまってきましたが、土台をしっかりというのではなく、練習で自信を付けた。練習で(演技の)通しができる時の調子とか、興奮度合いとかを全部分かっておいて。それで試合でちょっと興奮しているなと思ったら、動作をゆっくりにしてみたり、調子が悪いなと思ったら休みの間隔を短くして練習で体を温めたりとか。そういう(試合を想定した)メンタル的な練習を重視しているからと自分では思っている。

     藤井 すごいですね。僕は結構緊張して、競技に出るまでは。(クライミングも)ルーティンはあるんですが、ある一定のレベルになると、絶対に落ちないというのがあるんですね。たとえミスしても、調整して登れる。本番になるとすごい集中力が増して、例えばこれで手を出したら落ちるなとか、これだとミスしてしまうというのが分かる。それを調整して登れるということがある。僕は指(の保持力)は弱いし、体も弱い。僕はここ一番の集中力が武器かな。

     加藤 それは同じですね。

     藤井 練習でうまくいかなくても、本番になったらできてしまう。

     加藤 そこはたぶん共通している。僕も本当に体が硬い、筋力が弱いとか。高校の先生には、体は「中の上」と言われたぐらい。集中力があるからいけると。本当に集中力ですね。通ずるところがある。

     ――集中したらどういう状態になりますか。

     藤井 僕たちは課題を見た時にパッとコースを頭で描くんですよ。僕は集中できている時は大概、イメージ通りに体が動いて、はたから見てて危ないと思われても、全く落ちる気がしない。そのまま登れるというのはある。

     加藤 僕も(集中力を極限まで高めた)ゾーンに入っている時は失敗する気がしない。(体操は)パッと考えるとかではないので、練習で(動きを)体に染みつかせておいて、試合では何も考えないというか、集中していれば体が勝手に動いてくれる。そこの違いはあるかもしれないですね。

     ――クライミングの選手にとって五輪は未知の世界。加藤選手は2回出場しているが、どんな場所ですか。

     藤井 ぜひ聞きたいですね。

     加藤 何だろう。初めての五輪の時は何も分からなかったので、先輩について行って、ただただ足を引っ張らないようにということだけを考えていたので、何かふわふわしている間に終わったというか、それこそ夢というか、現実味がなかった。2回目はいろいろな重圧もありましたが、海外に行くとテレビやニュースを見ないので、日本の盛り上がりも分からない。だから、個人的にはいつも通りの試合(という感覚)。海外でやる、ちょっと歓声の大きな大会。日本に帰ってきて表彰などが増えて、金メダルってすごかったんだなと(気づかされる)。夢のような試合という感じですかね。どんなイメージですか。

     藤井 今の段階で言えば、僕からすれば夢の舞台。僕はボルダリングで結果を出しているが、五輪(のクライミング)は3種目の複合。別の競技というようなスタンスで考えています。イメージとしては、海外のフェス(スポーツイベント)じゃないですが、フェスの中に一つのイベントとして大会がある感じ。歓声の感じもちょっと違う。

     加藤 違いますね。

     藤井 五輪の競技会はどういう場なんだろうと想像ができなくて、夢のようなというのはそうなんだろうなと思う。

     加藤 競技によって違いますね。体操は結構、演技中は「静かに」みたいな感じで。終わって歓声が大きくなる。(クライミングは)観客の歓声ってどんな感じなんですか。

     藤井 僕たちの場合、例えば前の選手たちができなかったことを次の選手ができたり、登り切ったりした時にすごく歓声が上がる。競技中も応援をします。

     加藤 日本も海外も変わらないですか。

     藤井 日本は結構シビアで、できると(歓声が)ドカーンだけど、できないとシーンとなるんですよ。海外はどちらかといったら、頑張れ、頑張れみたいな。できても、できなくても頑張っている姿に歓声が上がる。

     加藤 それ結構、体操と同じです。体操の日本選手権と世界選手権を見ておけば、結構(五輪の)イメージができると思います。

     ――最後に20年東京五輪に向けての抱負を。

     加藤 体操は代表になれば、団体のメダルを取れる強さなので、国内選考が大事。代表に入れたら、しっかりやれば金メダルは取れると思う。まずは代表に入ることが僕は目標です。

     藤井 (クライミングの出場選手数は)男女で40人。正直、枠に入ることすら厳しいのかなと思っている。国内もすごく強いので、代表に選ばれることが大事。毎年、ワールドカップが行われているが、そこで様子を見ながら。

     加藤 そこでランキング上位になれれば、権利がある?

     藤井 そこもまだ全然読めなくて。とりあえず20年までに世界ランキング1位になれば選ばれるだろうと。

     加藤 確かに間違いないですね(笑い)。

     藤井 だからいまは強くなることしか考えていない。

     加藤 同じです。そこは。

     ――対談を終えてお互いの印象は。

     加藤 僕は結構、似ているなと思いました。集中力の持っていき方、練習は結構適当なのでそこはどうかと思うけど、(練習で)できなくても(本番で)できるとか似ているなと思いました。

     藤井 僕もそうですね。思っていたよりも似ているのかなと思いました。