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<記者の目>GPS捜査 最高裁違法判決=島田信幸(東京社会部)

令状なしのGPS捜査を刑事訴訟法に違反すると判断した最高裁大法廷=15日、北山夏帆撮影

令状主義の重み、徹底を

 最高裁大法廷が15日、裁判所の令状を取らない全地球測位システム(GPS)捜査を刑事訴訟法違反と判断する判決を言い渡した。GPS捜査は事実上できなくなり、警察からは治安への影響を懸念する声が上がる。だが、今回の結果は、裁判所の令状がなければ強制的な捜査を認めない憲法の「令状主義」を軽んじた警察自身が招いたものだ。判決は、人権の保障と適正捜査の両立を図る憲法や刑事訴訟法の本旨に立ち返れというメッセージを送った。警察側は重く受け止めるべきだ。

     警察はGPS端末をひそかに捜査対象者の車に取り付け、スマートフォンなどで居場所を把握する捜査をしてきた。裁判でまず問われたのは、令状のないGPS捜査が許されるかどうかだ。

     判決は、GPS捜査が、公道や私的な場所の区別なく継続的な追跡をできる問題を重視。捜査は公権力による「私的領域に侵入されない権利」の侵害になると判断した。

     令状主義を定めた憲法35条は、令状なしの住居への侵入や所持品の押収を認めていない。最高裁が「私的領域に侵入されない権利」も同様に守られるべき対象になると示したのは初めてだ。科学技術の進展も見越して、新たなプライバシー侵害の形を明確にした意義は大きい。

    「現場知らぬ」 警察側から批判

     一方、GPS捜査を裁判所の令状の必要がない任意捜査としてきた警察側は、昨年9月に令状を取得した捜査も進めるように軌道修正していた。地裁や高裁で捜査を違法とする判断が出たためだ。実際に裁判官が捜査期間を10日と定め、令状を事後提示するなどの条件を付けて令状を発付した例もある。

     検察側は上告審で、令状を取得した捜査は問題ないと強調したものの、大法廷はこれも「刑訴法の趣旨に沿わない」と退けた。裁判官が条件を決めて令状を出すよりも、法律が定めた要件に従って審査する方が適切というスタンスで、司法、立法双方の役割を厳格に見つめた結果と言える。この考えに基づいてGPS捜査を続けるには「立法的な措置が望ましい」と異例の言及に踏み込んだ。

     一方、捜査関係者からは判決批判が相次いだ。GPS捜査の経験がある元警察官は「GPSを使えば点と点でしか把握できなかった容疑者の行動が線になる。認められなければ窃盗や薬物犯罪の検挙に影響する。最高裁は現場を分かっていない」と語る。

     元警察官は約10年前、連続窃盗事件でGPSを使った。GPSの情報だけでは捜査対象者の居場所は特定できず、付近を捜査員が捜し、立ち寄り先を確認。発見できれば写真に残した。「尾行で発見するのと変わらない考えだった」と、捜査自体に問題はなかったと振り返る。その一方、捜査書類にはGPSの文字や対象者を発見した経緯は書かなかった。「書けば裁判で問題になる可能性がある。犯罪者に手の内を知られるわけにはいかなかった」

     こうした運用は、警察庁が2006年にGPS捜査の運用を定めた通達で認めてきたものだ。通達はGPS捜査を任意捜査とし、内部決裁だけで使用可能にした。さらにGPSの存在を容疑者の取り調べで明かさず、捜査書類にも書かず、事件広報でもマスコミに隠すことを全国の警察に求めた。こうした秘密保持の徹底が何年も令状審査をないがしろにする原因になった。

    機能が向上し常時監視可能

     私は判決に先立ち、警察庁と人口の多い上位10都道府県の警察本部にGPS捜査の実施件数が分かる文書を情報公開請求したが、内容のある回答はなかった。警察庁の通達に従って、違法と認定された捜査が各地で実施された可能性があり、まずは警察庁が率先して実施された捜査の全容把握を進めるべきだろう。

     GPSは精度が向上し、スマホにも搭載されている。警視庁は、捜査で容疑者の居場所を定期的に自動検索したり、特定の場所に出入りすると連絡が届いたりする新しい機能も駆使していた。いわば「常時監視」ができる状態になっていたと言える。

     今後はGPS捜査の立法に議論が移る。一橋大の緑大輔准教授(刑事訴訟法)は「車にGPS端末を取り付けるのに立会人が必要か、監視期間の上限をどう定めるかなど、令状の要件は簡単にまとまらないだろう」と予測する。仮に立法作業を進めるならば、国民に納得してもらえる信頼性のある手続きが必要だ。

     警察側は、司法の最高機関が示した令状主義の重みを忘れてはならない。今後も技術革新に伴って行動を監視する能力が高まるほど、強制捜査と任意捜査の線引きが問題になる可能性がある。その時、今回と同じような運用をすればどうなるか。次は憲法違反の判断が出てもおかしくない。

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