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岡崎 武志・評『浜村淳の浜村映画史』『ぼくの死体をよろしくたのむ』ほか

今週の新刊

◆『浜村淳の浜村映画史』戸田学・著(青土社/税別2200円)

 関西へ帰省して、ラジオからこの人の声が流れると、ああ帰ってきたなあ、と思う。『浜村淳の浜村映画史』は、最良の聞き手・戸田学を得て、希代の語り部が、映画を中心に自分史を喋(しゃべ)り尽くす。

 生まれは京都・鷹峯(たかがみね)。時代劇の撮影が日常、という環境で、黄金期の洋画邦画を浴びるように見て育つ。その豊富な知識。加えて巧みな話術による、ラジオでの映画紹介が話題に。実際に聴取者が映画を見たら、浜村の解説ほど面白くなかったという伝説も生まれた。

 エノケン、小津、黒澤、溝口、ジョン・フォード、ヒッチコック……抜群の記憶力で、血肉化した映画体験が、次から次へと飛び出す。浜村がアカデミー賞授賞式に普通の服で出席し、タキシード姿の掃除人に「貸してくれ」と頼んだ、などの逸話も楽しい。

 水野晴郎のパロディーで、浜村がかつて「映画って、ホントにえいが!」と言っていたと戸田。「あんた、ようそんなしょーもないこと覚えてますね(笑)」

◆『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上弘美・著(小学館/税別1500円)

 じつに不思議な後味を残す短編集……というか、川上弘美の場合、いつもそうだが。『ぼくの死体をよろしくたのむ』は趣向の違う18の小品を集める。

 表題作は、父の小学校時代の同級生というミステリー作家(黒河内璃莉香(くろこうちりりか))を訪問し続けている「あたし」の話。父は心が弱く、自殺した。その父が黒河内に宛てた手紙に「ぼくの死体と晴美とさくらをよろしくたのむ」と書かれていた。

 ほとんど恋をしたことがない32歳の女性が、うしろ姿と筋肉でいきなり65歳の男性に恋をする「鍵」、予備用にと何でも二つずつ購入する「あたし」を描く「ずっと雨が降っていたような気がしたけれど」など、たいてい「2」という少数単位でことが進む。

 ここまで書いて、それのどこが面白いのと聞かれたら、困ってしまうような気がしてきた。無理想、無解決、特に落ちなし。しかし、ここには小説でしか味わえぬ小世界が確実に存在する。それで十分じゃないですか。

◆『ガン入院オロオロ日記』東海林さだお・著(文藝春秋/税別1350円)

 「ショージ君」といえば、小心でいつも悔しがっている中年男の漫画が目に浮かぶが、じつは東海林さだおも今年80歳。肝細胞がんと診断され、40日の入院初体験をした。『ガン入院オロオロ日記』は、その記録を中心に、粉もん、蕎麦(そば)、肉などの食リポート、そして二つの対談と一つの座談会を収める。深刻な闘病記も、著者にかかると朝の検温と血圧測定の場面が「看護師さんが若くて美しい場合は、事前に鏡を取り出して櫛で髪を整えておかなければならない」と漫画チックになる。

◆『新廃線紀行』嵐山光三郎・著(光文社文庫/税別800円)

 乗り鉄、撮り鉄と鉄道趣味は数々あれど、究極はこれか。嵐山光三郎『新廃線紀行』は、廃止された鉄道跡を訪ねる旅。「行く汽車の流れはたえずして、しかももとの鉄路はない。駅舎もレールも消えて鉄道遺跡だけが残る」。ときに朽ちはてた廃駅の待合室に泊まり、ときに地図片手に探検し、わずかに泉が湧くところに鉄道跡を発見。遭難覚悟の命がけの道中もあった。そんな酔狂の果てに一瞬、昔の姿が甦(よみがえ)る。夕張鉄道、草軽電鉄、鹿島鉄道、島原鉄道など、全国26路線を訪ね歩く。

◆『[改訂]桜は本当に美しいのか』水原紫苑・著(平凡社ライブラリー/税別1300円)

 また桜の季節がやってきた。その美しさを日本人は疑わず、愛(め)で、花の下で宴(うたげ)を開く。しかし、歌人の水原紫苑(しおん)は『[改訂]桜は本当に美しいのか』と疑問を呈する。そして記紀・万葉から平安文学、近現代に至るまで、どう取り上げられたかを検証し、桜が背負った正体を突き止める。古今集で確定した桜に対する美意識が、「千年の余も日本の人々を縛り、現在まで」生き続けている。歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」のお軽・勘平の道行きを飾る桜も、本文には存在しないという指摘などいずれも興味深い。

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岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』など

<サンデー毎日 2017年4月9日増大号より>

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