メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

【お知らせ】現在システム障害のため一部の機能・サービスがご利用になれません
記者の目

外国人労働者の子どもたち=大澤重人(大津支局)

日本語を一から学び、高校の受験勉強も行う「虹」教室の生徒たち=滋賀県草津市で昨年10月、大澤重人撮影

社会の一員、教育支援を

 日本で暮らす外国人が増えている。それなのに街で見かけたら無意識に目をそらしていないだろうか。「別世界の人だから」と。では、コンビニ弁当は主に誰が作っているのだろうか。人手が不足する職場を支えているのが彼らだ。その子どもたちの多くが言葉につまずいている。好きで日本へ来たのだからと、見て見ぬふりを続けていいのだろうか。

     私もかつて目をそらす一人だった。昨春、製造業の立地が多い滋賀県に転勤し、県内には60人に1人の割合で外国人が住むことを知った。

    学校への編入、日本語が壁に

     来日後間もない若者が日本語を学ぶ草津市の民間教室「虹」を訪ねたのは、昨年4月のことだ。アジアや南米出身で16~21歳の7人が通っていた。扉を開け、机に向かう真剣な表情に胸を打たれた。

     「え、を、か、く」。イラストを見せながら女性指導員が一音一音発音する。習ったばかりのひらがなを生徒たちが書き込んでいく。「えおかく」。中国人の黄子軒さん(19)はそう書いたが、慌てて「を」と直した。目標は翌年の高校受験だった。

     公立小中学校は外国籍でも無条件で通える。だが、「義務教育年齢を超えた子は受け皿がない」と、虹を運営する多文化共生支援センターの喜久川修所長(67)は語る。虹は県から委託事業費計400万円を受けて週5日開講し、日本語指導員3人が受験勉強まで教える。委託費は2人分で、残る1人は自前で雇う。

     外国人の割合が4%と県内最多の湖南市では、日本語の基礎を教える「さくら教室」を市教委が運営し、小中学校に入学・編入する前に原則3カ月間学んでもらう。

     「はる、なつ、あき、ふゆ、漢字書ける?」。望月幸夫室長(63)に指名された日系ブラジル人の小5女児は「秋」まで書いた後、「冬」の字の途中でペンが止まった。「テン、テン」というヒントで書き終える。「勉強は楽しいですか」。私は間もなく教室を「卒業」する女児に尋ねたが、通じなかった。

     日本語学習は日常会話なら1~2年、教科学習に必要な水準なら5~7年かかると言われる。望月室長は「3カ月では足りないが、それ以上長くなって、学校に通い始めるのが遅くなると、授業に追いつくのがさらに大変になる」と苦しい胸の内を明かす。

     夜間の定時制の県立大津清陵高馬場(ばんば)分校(大津市)は外国出身の生徒が32人と全校生徒の2割を占める。授業で日本語を学んでおり、取材日には小3の漢字プリントに苦戦していた。保護者の多くは母国語しか話せないが、ポルトガル語やスペイン語を話せる教員はいない。左近健一郎教諭(56)は「必要な連絡事項を保護者にどう伝えるかも課題です」と頭を悩ませる。

    増える「移民」日本経済支え

     全国の在留外国人は昨年末、238万人と過去最多を更新し、定住傾向も強まっている。多くが自動車などの製造工場で働き、日本経済を支える。別世界の人ではなく、日本社会の一員だ。日本語の指導が必要な公立学校の児童・生徒は2014年度時点で3万7095人(日本国籍取得者を含む)と、この10年で1・6倍に増えている。

     しかし、教育支援は変化に追いついていない。政府は「子どもの権利条約」などを踏まえ、外国籍の子にも「無償で日本人と同一の教育を受ける機会を保障」している。その一方、保護者が「希望する場合」との前提がある。本当は希望するのに、言葉の問題などが障害になって、学校に行かない子がいる。納税義務には外国人を含めながら、義務教育からは除外するのは筋が通らない。背景にあるのは、外国人労働者も家族がある生活者だという視点の欠如だ。実態は「移民」なのに、その言葉を嫌う政府。異文化の人が隣に住むのを避けたがる私たち。大事な役割を担わせながら、虫が良すぎないか。

     世界では移民排除の動きが進んでいる。しかし、高齢化が進む日本は、介護分野などで外国人労働者を積極的に受け入れる方向だ。「さくら教室」で取材したブラジル人女児は今年1月に小学校に通い始めたが、「日本語がしゃべれないから楽しくない」と家族にこぼしている。そんな外国籍の子が増えそうだ。教室で孤立する子はなくしたい。

     一方で外国籍の子は手がかかるだけの存在ではない。生徒の1割弱が外国籍の湖南市立日枝(ひえ)中2年の田中大輝(ひろき)さんは「外国人の子がいるのは普通」と話し、ペルー出身の友達にスペイン語であいさつする。安井清克教頭は「地域にいながら国際交流ができる」と胸を張る。

     冒頭の「虹」教室。今春の県立高入学・編入試験に挑み、わずか1年で8人全員が合格した。大津清陵高馬場分校に入るフィリピン出身のミレン・アルカさん(17)は「日本の大学に行ってシェフになりたい」と日本語で語る。

     外国籍の子どもたちが学ぶ姿を一度見てほしい。幼い手で丁寧にひらがなをつづる姿を。覚えたての日本語を使って友達と笑い合う姿を。「頑張れ」と励ます人が増えることが、真の多文化共生社会に近づく一歩になるはずだ。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 日産会長逮捕 ゴーン神話「数字の見栄え良くしただけ」
    2. 日産 ゴーン会長を解任へ 「会社資金を私的に流用」
    3. 日産会長逮捕 再建神話、地に落ち 社員に衝撃と動揺
    4. 暴行容疑 元レスラー長与千種さんの髪つかむ 男を逮捕
    5. 高校野球 練習試合で頭に死球、熊本西高の生徒が死亡

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです