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転勤、できますか?

/下 介護、育児に配慮 企業模索

合同企業説明会の開始を待つ学生たち。地元志向の強い学生が増え、転勤の多い企業を避ける傾向もあるという=千葉市美浜区の幕張メッセで1日、宮間俊樹撮影

 <くらしナビ・ライフスタイル>

     春の人事異動から落ち着きを取り戻した6月中旬。東京都内に本社を置く大手金融機関の人事担当者は、翌年4月の異動に向けて動き出す。

     支社長や部長クラスに異動の方向性について聞き取りを始め、10月には社員に希望調査。12月中旬には全体の方針を決定する。それでもこの春の異動では、本人に転勤を打診すると「介護がある」と退職をちらつかせて渋られた。「異動先の前任者や、異動後の後任予定の人事にも影響が及んでしまう」。人事担当者のため息は深い。

     ●猶予制や地域限定

     育児や介護をしながら働く人が増え、働き手の価値観も多様化する中、制度疲労があらわになってきた転勤システム。ダイバーシティー(多様な人材の活躍)推進を掲げる企業が今、社員の個別事情への配慮の必要性と人材育成などの転勤効果との板挟みに直面している。

     キリンは2013年、5年を上限に転勤猶予を認める「転勤回避措置」を導入した。転勤が原因で退職する社員が現れたからだ。ただし、この「切り札」を使えるのは1回限り。制度を使っても評価や給料は変わらない。今年度は約30人が取得した。

     毎年約300人に転居を伴う異動を発令するキリン。転勤に対する考え方は明確だ。「複数の職場での経験は人材育成の重要な機会。転勤経験者の方が成長しているという実績もある」と人事担当の田口俊主査。異動歴や評価、本人の希望を勘案して人事を組み立て、対象者一人一人について異動先と現職場の所属長と折衝する。5年間担当している田口さんは「八方よしの人事は難しい」と明かす。子育てや介護で簡単には動けない人が増えてきたからだ。

     朝日生命も15年に、全国転勤がある総合職と地域限定のエリア総合職の中間に、異動規模を限定した「総合職(首都圏型)」という区分を新設した。「全国転勤が不安」という志望学生が増えてきたためだ。

     ただし給料には差がある。鈴木潤人事室長は「地域によってマーケットの特性や規模は違う。人材育成の点からも、3~4年のローテーションでいろいろな仕事を経験させるシステムは継続したい。会社都合の転勤に対する許容度の差が、給料の差」と説明する。

     ●人材育成の側面も

     転勤は絶対必要なものだろうか。有識者の意見は分かれる。リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は「管理職以外は、地域限定の働き方を原則とすべきだ」と提案する。「日本的な雇用慣行は既に競争力を失っている。転勤の見直しは正社員改革の一つで、一気に廃止できなくても、今後の雇用のあり方を議論する好機だ」と語る。

     一方、大和総研の広川明子主任コンサルタントは「転勤でしか得られない人材育成効果はある」と指摘。「職種や役職が限られる地方と本社機能が備わった東京とでは、同じ地域限定社員でも得られる経験やポストに差がつく。収入格差も広がるだろう。私たちはそういう社会を受け入れられるでしょうか」

     ●安心感、採用に影響

     現実的な落としどころを模索する中、転勤を大幅に縮小する企業も出てきた。

     全社員に転勤の可能性がある「全国勤務型」の採用を進めてきた医薬品卸大手のメディセオは、16年4月2日以降は、原則として転勤のない「地域限定勤務型」に切り替えた。業界再編を経て、全国転勤できる社員が必要だった時代に一区切りつき、地域特性に合った活動を重視することにしたためだ。

     人材確保の狙いもある。新卒学生は、地域を問わず地元志向が強い。今春の入社予定者には「転勤なし」を志望理由に挙げた学生もいた。500人以上いる転勤中の社員の中には、家族との同居を望む単身赴任者もいる。執行役員の村上義孝人事部長は「仕事と私生活を両立できる環境で安心して仕事に打ち込んでほしい」と話している。

    負担と効果、見直す好機

     企業は社員ニーズに歩み寄りつつあるが、社員の都合が最優先されるわけではない。

     武石恵美子法政大学教授らの調査(正社員300人以上の企業370社と個人1525人が回答)によると、企業は、申し出により転勤を回避できる制度(41・6%)や自己申告の制度(50・3%)を設けている。だが、本人同意については、「希望や事情を聞くが会社の事情を優先して決める」が62・7%と最多で「希望や事情を優先して決める」は19・7%にとどまる。国内転勤の赴任期間は「上限も目安もない」企業が66・5%を占め、社員の生活設計のたてにくさがうかがえる。

     「経験の幅を広げる」という転勤の目的も、果たされているか微妙だ。転勤を経験した社員のうち、キャリア形成のための転勤がなかったと考える人が51・2%を占め、必ずしも社員の実感に結びついていない。

     武石教授は「家族の生活も変化する転勤は社会的影響が大きい。共働き世帯の増加や労働力不足は今後避けられず、企業は労働者の事情に一層配慮する必要に迫られるだろう。旅費や社宅といったコストもかかっており、企業は労使の負担に見合う効果があるのか検証したほうがよい」と提案する。

        ◇

     この企画は大和田香織、中村かさねが担当しました。

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