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<論点>国鉄民営化から30年

冨田哲郎氏=丸山博撮影

 戦後最大の行政改革とされる国鉄の「分割民営化」から4月で30年。赤字体質からの脱却を図るため「JR」と名前を変え、民営化されたことで旅客サービスは向上したとされる。その一方で、利益優先のかけ声の中で赤字路線は次々に消え、地方衰退の一因とも指摘される。そして始動したリニア新幹線構想。民営化30年がもたらしたものとは何だったのか。

    地域特性に合わせた交通を 冨田哲郎・JR東日本社長

     国鉄はかつて「不沈艦」と呼ばれた。しかし、最後は国民の支持や信頼は地に落ちた状態だった。赤字の垂れ流し、毎年の運賃値上げ、スト、サービス品質の低下、不毛な労使関係……。経営には自主性がなく責任も不明確だった。法律に基づき投資をするにも運輸相(当時)の許可がいった。国鉄総裁は鉄道の現場ではなく、国会に通うことが仕事。「親方・日の丸」のおごりがあったことも否定できない。時代の変化に対応できない組織は沈没するしかなかった。

     東海道線がすぐ脇を通る東京・蒲田で育った。九州への夜行列車を眺めているような少年だった。国鉄には分割民営化の13年前に入社し、最初に勤務したのは高松で、次が佐賀、札幌。後に「3島会社」に分割される四国、九州、北海道の現場を歩き、国鉄時代の全国一元運営の弊害を実感した。

     例えば東京の人にとって北海道のイメージカラーは白色だろう。しかし、北海道の人にとっては厳しい冬の雪を想起させる。だから分割民営化で誕生したJR北海道が選んだシンボルカラーは萌葱(もえぎ)色。待ち遠しい春の青葉だ。中央の視点でみてはいけない。地域の人にとって、鉄道は地域のもの。地域に密着し、その実情を反映した経営のため、地域ごとの分割は絶対に必要だった。

     JR東日本は幸運に恵まれた。スタートした最初の5年間はバブル景気で収入が25%ぐらい増えた。分割直後は実質6兆6000億円もの借金があり、平均金利は7%。それがバブル崩壊後は日本経済全体が引き締めに入り、今では平均金利2%余りに下がった。利子負担が軽減された効果は非常に大きかった。ただし、3島会社は苦しい。国が設けた経営安定基金を運用し営業上の損失を穴埋めするというスキームが崩れた。そのことを考慮し、JR北海道や四国の経営努力をみてあげてほしい。

     鉄道はある程度の輸送量があって成立する産業だ。ローカル線では沿線人口がどんどん減っている。民間企業なのだから、最終的な利益は必要だ。何が何でも鉄道だとされても、経営は厳しくなる。地域の特性に合わせ、交通モードを選択すべきだろう。BRT(バス高速輸送システム)への転換、第三セクターへの譲渡など。究極の目的は利便性の高い、有益な交通機関を残し、その地域の人たちが幸せに暮らしていけることだ。駅を中心としたマチづくりも鉄道会社の大きな役割になる。駅に魅力があればシャワー効果が生まれ、周りの商店街も潤う。

     この30年で社員の意識は大いに変わった。知識も能力もあるが、経験がない。鉄道システムはIT(情報技術)化、AI(人工知能)化が進んで管理が難しい部分がある。異常事態への対応能力が落ちている。シミュレーターによる模擬訓練などに加え、ベテラン社員を活用したい。国鉄時代に地方に勤務していたころ、自分の父親ぐらいの年齢の人が批判にさらされる中で地域の足を守ろうと必死に頑張っていた姿を鮮明に記憶している。あのような鉄道人の魂、誇りを伝えなければならない。それは時代が変わっても、変わらないことだろう。【聞き手・高橋昌紀】

    分割の弊害、サービス悪化 桜井寛・鉄道写真家

    桜井寛氏

     両親が国鉄職員だったこともあり、国鉄や鉄道は身近な存在だった。生まれ育った長野の小海線こそが原風景であり、国鉄のDNAはたっぷり受け継いでいる。

     子どものころなりたかったのがブルートレインの車掌。運転士は200キロで交代勤務となるが、寝台列車の車掌なら「さくら」や「はやぶさ」で九州まで行ける。とにかく「遠くに行ける仕事」が夢だった。高校も鉄道マン育成の学校に進んだが、すでに国鉄の赤字は膨大で新規採用がほとんどなかった。大学で写真を専攻したのも鉄道が撮りたかったから。しかし、状況はさらに悪化し、就職を前に「スト権スト」が横行。もはや、あこがれの職場などではなかった。結局、鉄道マンとは違う立場で鉄道と関わることになった。

     それだけに分割民営化は基本的には賛成だったし、新生JRに対する期待も高かった。6社それぞれがライバルになって、どういう競争が始まるのか。最初に応えてくれたのがJR九州。「ハイパーサルーン」と「ゆふいんの森」という異なるタイプの斬新な特急列車が登場した。その後、現在に至るまで九州は素晴らしい車両を開発するだけでなく、社員一丸となって乗客本位のサービス向上に励んでいるのが伝わってくる。昨年、上場したのもうなずける。

     一方で本州3社以外という似た状況ながら低迷著しいのがJR北海道だ。確かに自然条件の厳しさはあるだろうが、赤字削減、効率化ばかりが先行して、乗客の期待に応えていない。全国で廃止が続いた寝台列車こそ、広大な北海道で復活してはどうか。大地の財産をもっと活用してほしい。

     本州3社は堅実な運営をしているようだが、乗車券とサービスには提案したいことが多い。まずは分割により国鉄時代にはあった周遊券などの企画乗車券がなくなり、JR各社間の連絡サービスが悪くなった。新幹線では東海道新幹線と東北・上越・北陸新幹線との連絡が悪い。例えば仙台から大阪に向かうとしよう。直通する新幹線はない。東京駅で乗り換えとなるが、ホームも改札も別々なので荷物を抱え階段を上り下りしなければならない。「のぞみ」と「はやぶさ」が同一ホームに並べば1~2分で乗り換えできるのに。

     またビジネス客優先で個室がなくなったため、乳飲み子を抱えたお母さんが他の乗客に気兼ねなく過ごせる空間もない。欧州のファミリールームを「こだま」に導入してはどうだろう。近年、外国人観光客が急増しているが、その多くが購入してくる「ジャパン・レール・パス」は「のぞみ」に乗れない。車掌から下車を強いられスーツケースを抱えてホームでぼうぜんとしている外国人を何度も目にした。おもてなしの観光立国として救済措置はないものだろうか。

     民営化による効果は確かにあるだろうが、問題なのは何かにつけて運営会社の管理が強く、寡占状態になっていることだ。車内販売のお菓子や雑誌はいつも限られている。運営とインフラを別の会社が行う「上下分離方式」を取り入れるなどして、もっと真の意味での民営化推進を提案したい。【聞き手・森忠彦】

    高い公益性、国が責任持て 橋山礼治郎・米アラバマ大名誉教授

    橋山礼治郎氏

     日本の発展の中で鉄道の役割は極めて大きい。鉄道は国民生活を支える基盤で、その中心が国鉄だったが、最後は公共事業の悪い面が積み重なった。そこにメスを入れた国鉄解体は戦後最大の大改革の一つと言える。民営化でJRは奇跡的な再生を果たし、国民の利便性も飛躍的に向上した。分割民営化は基本的には最も成功したプロジェクトと評価していい。

     しかし、30年が過ぎる中でさまざまな課題も浮き彫りになった。核心はJRの性格があいまいなことである。準国営企業なのか、私鉄とは違う民間企業なのかが明確ではないため、国の責任がはっきりしない。特にドル箱路線である東海道新幹線を持つJR東海をはじめ東日本、西日本の本州3社と、九州、四国、北海道、貨物との格差が大きくなった。この間の経済低成長や人口減少など、社会情勢の変化に対応した公共交通運輸政策を総合的、長期的観点から再検討すべきだろう。民営といえども基盤は国鉄事業の延長にあるわけで、公益性は極めて高い。

     JR各社の中にある自社利益中心の経営感覚や共同体意識の崩壊が著しいことは、利用している国民なら誰もが感じている。地方では赤字路線廃止や駅の無人化などによって地域社会が崩壊しようとしている。一方で東海道新幹線は営業利益率が30%を超える状態なのに料金値下げがなされない。JR各社は地域独占が認められているだけに公益企業体として各社の利益をプールして地方へ配分するなどの再調整が行われるべきだ。各地の鉄道網が存続の危機を迎えているのに、政府は「民間」の名目で責任を回避している。

     安倍政権は昨年、リニアの名古屋-大阪間延伸を加速するために3兆円の財政投融資を決めたが、在来新幹線網とは整合性を欠きリスクも高いリニア計画は将来のわが国にとって大きな問題を招きかねない。こうした公共性が高い巨大プロジェクトを進める上では(1)採算性の確保(2)技術的信頼性の確立(3)環境への対応--の3点が不可欠なのだが、どの面から見てもクリアしているとは思えない。安全神話を過信した福島第1原発や超音速機・コンコルドのような失敗を繰り返してはならない。

     企業が新しいプロジェクトに取り組む意欲は理解するが、公共性が高いものは認可した国が責任を持ってチェック機能を果たすべきだ。着工したばかりの今ならまだ間に合う。将来のわが国に本当に必要な投資か、事業として成功するかを冷静に再検討する期間を設け、しばらく工事を中止すべきだろう。

     東京-大阪だけを結ぶリニアが完成したとして何が起こるか。結局は東京への一極集中が加速し、地方の過疎化が進むだけだ。国が進める「地方創生」にも逆行する。それよりも地域活性化の基軸として進める新幹線は在来線との併用が可能な「山形新幹線方式」を原則とし、主要都市間を連結させればいい。その方がはるかに建設費も安く、早期実現も可能だ。国鉄を継承した鉄道は誰のためにあるのか。JRのためではない。国民のためにある。国鉄改革の成果をさらに全国で発揮してもらいたい。【聞き手・森忠彦、写真も】


    4社が上場を果たす

     改革の基本は「民営化」とともに「分割」で、北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の旅客6社と貨物に分かれた。解体時の債務は37兆1000億円で、うち11兆6000億円を東日本、東海、西日本、貨物が負担。残りは清算事業団で処理を進めた。全国一律の運賃水準を維持するため、赤字が予測された北海道、四国、九州には経営安定基金が準備された。東日本、西日本、東海に続き昨秋には九州も上場し、完全民営化した。


     ご意見、ご感想をお寄せください。 〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係opinion@mainichi.co.jp


     ■人物略歴

    とみた・てつろう

     1951年東京都生まれ。東大法卒。74年に国鉄に入社し、分割民営化の87年はJR東日本東京圏運行本部人事課長。取締役総合企画本部経営管理部長、常務、副社長を経て2012年から現職。=丸山博撮影


     ■人物略歴

    さくらい・かん

     1954年長野県生まれ。昭和鉄道高校、日大芸術学部写真学科卒。出版社勤務後、フリーの写真家に。93カ国の鉄道を取材し、鉄道関係の著書は多数。日本写真家協会会員、東京交通短期大講師。


     ■人物略歴

    はしやま・れいじろう

     1940年静岡県生まれ。慶応大卒。日本開発銀行調査部長を経て政府審議会委員や明星大教授を歴任。千葉商科大大学院客員教授。専門は公共プロジェクト論。著書に「必要か、リニア新幹線」など。

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