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著者インタビュー 相場英雄 『不発弾』

当たり障りのない言葉を疑い弱い人間の罪をリアルに描く

◆『不発弾』相場英雄・著(新潮社/税別1600円)

 2年前、某大企業の利益嵩(かさ)上げが新聞各紙に載った。見出しはどれも「不適切会計」。社長も「当社の不適切会計を詫(わ)びる」と、テレビカメラの前で頭を下げた。だが相場英雄さんは思った。「1500億円も嘘(うそ)をついていたのだから、不適切会計ではなくて粉飾決算じゃないのか?」。不自然なほどの物柔らかな形容には、何らかの政治圧力が働いていることがある。世間を欺こうという目眩(くら)ましだ。

 相場さん自身、記者時代のカンが働いて「何かある」と新聞を掴(つか)んだ。同じように、ある事件に疑問を抱いた管理官が金融界の闇を暴こうとするところからこの物語は始まる。あたかも事実を追うノンフィクションのような始まりだ。

「おそらく政治家と裏で繋(つな)がっていたのだろうなんて臆測でものを書いたら、新聞社なら社長の首が飛びます(笑)。でもこれは小説。自分の任期中だけは粉飾がバレないようにしようと怪しげな金融商品に手を出す弱さは、人間なら誰でも持っているもの。弱い人間が、図らずも犯していく罪を書いて本当らしく見せていくことが、小説ではできるんです」

 人の心を描くというと純文学を想起してしまうが、相場さんはそれをエンターテインメントとして書く。書き手が仕込んだあっと驚く仕掛けに、「こんな奴(やつ)いないだろ」「でもいたら面白いよね」と、読み手の中でキャラクターがイキイキと躍るのがエンターテインメントの骨頂だ。本書でも、場立ちから成り上がり激動の金融業界を生き抜く古賀遼と、彼を追う真面目な管理官との丁々発止が、日本の「裏金融史」を浮き彫りにする。

「バブルが何だかわからない人にも、夢中で読ませる方法がある。この技術は漫画原作時代に学びました。読者を引き込む“つかみ”がないと、目の前で『こんなんじゃ絵ぇ描けねえよ』と、シナリオをビリビリ破られるんです。鍛えられました」

 漫画原作の仕事は、記者時代に知り合った週刊誌仲間から紹介されたのだとか。もともと映画好きで、説明的な小説がイヤだった相場さんは「見える物語」を続々ヒットさせていく。やがて「小説の賞に応募してみたら」と勧められてデビュー。順風満帆に見えるが、そこまで駆り立てたのは、背中に矢が飛んでくるような恐怖だった。

「実家は町工場で、会社だけでなく、仕事自体が消える恐怖を身をもって味わいながら育ちました。専門学校を出た後キーパンチャーとして通信社に入ったのですが、1990年代の初め、記者がワープロで原稿を直送しているのを見て、いつか自分の仕事もなくなるんだという恐怖を感じました。打ち込みという仕事柄、言葉にだけは敏感だったので必死で文脈の裏に隠されたものを見極めようとし、それが『不適切会計』という言葉一つから小説を紡いでいく今に繋がっています。デビューは12年前ですが、本作でやっと記者人生の落とし前をつけられた気がしますね」

 言葉一つからじりじりと真実に迫る相場流ミステリー。「バブルで踊った」という言葉の裏に潜む、壮大なドラマを体験されたい。

(構成・柴崎あづさ)

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相場英雄(あいば・ ひでお)

 小説家、経済ジャーナリスト。1967年、新潟県生まれ。時事通信社に入社後キーパンチャーから記者に転身し、2005年に『デフォルト-債務不履行』でダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。主な著作に『震える牛』『ガラパゴス』など

<サンデー毎日 2017年4月30日増大号より>

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