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Promises 2020への約束:羽根田卓也×清水希容 マイナー競技の挑戦

対談に臨む空手の清水希容選手(左)とカヌーの羽根田卓也選手=東京都千代田区で2017年4月12日、長谷川直亮撮影

Promises 2020への約束

羽根田卓也×清水希容 マイナー競技の挑戦

 昨年のリオデジャネイロ五輪カヌー・スラローム男子カナディアンシングルで日本カヌー史上初の銅メダルを獲得した羽根田卓也(29)と、2020年東京五輪追加種目の空手で世界選手権の女子形を2連覇中の清水希容(23)が、競技の枠を超えて思いを語り合う「Promises 2020への約束」で対談した。拠点が羽根田はスロバキアで、清水は国内と互いに違う道を歩むが、同じミキハウス所属で競技面では身体バランスが重要など意外な共通点も少なくない。注目度急上昇の2人が競技の魅力、3年後の東京五輪への思いなどを語り合った。【構成・新井隆一、松本晃】

    形の練習に6時間

     ――まずは自己紹介からお願いします。

     羽根田 初めまして、じゃないんですけど。

     清水 そうですよね(笑い)。

     羽根田 ミキハウスで一緒の所属で、僕は2013年から所属しています。ロンドン五輪が終わった時にリオデジャネイロ五輪に向けて、カヌー・スラローム競技でメダル獲得の目標を達成するためにやってきました。羽根田卓也です。

     清水 同じミキハウスで昨年入社させていただいて、2年目になるんですけど、今は東京五輪に向けて空手競技を頑張っているところです。清水希容です。よろしくお願いします。

     羽根田 よろしくお願いします。

     ――羽根田さんは高校卒業後、単身でスロバキアに渡って練習しています。他の選手と比べて意識が高いと思いますが。

     羽根田 僕の場合はそれしか選択肢がなかった。高校の時から世界で活躍したい、日本のレベルじゃ満足できないという気持ちでやっていて、世界で活躍するためには日本でやっていく選択肢がなかった。日本でやるなら辞めた方がいいと思っていたし、それぐらいの環境の差があった。自分としては当然の選択だった。自分の選択に対して、家族をはじめ周りが応援してくれたのが本当に幸せなことだった。特別なことをしたわけでなく、自分のしたいことに対して必然的にそうなった。

     清水 スロバキアに行って、自分が思っていた世界と違うことはありましたか?

     羽根田 高校生の時から夏休みを利用してスロバキアに行ったことがあったし、ヨーロッパにも何回も行ったことがあった。戸惑いはなかったです。世界で言えば、空手が全然盛んじゃない国から一人で男の子がやってきて、日本でやっていくシチュエーションに僕の場合はなっていると思う。改めて、カヌー競技の強豪国に行って、これじゃあ日本でやっても勝てないというのを痛感しました。

     ――清水さんは鏡の前で6時間ぐらい形をしていると聞きましたが。

     清水 1日平均6時間ぐらいやっています。

     羽根田 (驚いた表情で)6時間?

     清水 そうなんです。空手は形の個数がたくさんあって、試合によってやる形を変えないといけない。

     羽根田 (形は)アーナン?

     清水 アーナンとかスーパーリンペイとか。私は七つを持ち形として、試合でできるようにしていて、女子の形は多くて(一大会で)7回試合があるけど、全部変えないといけない。

     羽根田 同じ形は駄目なんだ。

     清水 そうなんですよ。なので、練習時間が足りなくて。1日七つやるのが大変なんですけど、一つの形でも何時間でもできるので、本当に時間がたってしまう。

     羽根田 1日で7回戦やるの?

     清水 海外の大会は多くて6試合やって、決勝になる。

     羽根田 それは対戦制?

     清水 対戦で、トーナメントが海外の場合は前日に決まる。それで、この国にはこれを当てる、この選手にはこの形の方がいいなと戦略を立てて。

     羽根田 選手に対して形があるんだ。

     清水 そうなんですよ。だから、特徴も全然違うので、この選手にはこの形を当てた方がいいなと考えて当てないと、間違った選択で当ててしまうと負けてしまう。

     羽根田 それはなぜ?

     清水 力強さ(が特徴)の選手に力強さで勝負をしにいくと、力負けしてしまう。形で特徴を変えて、自分の良さを出せる形を当てて引き出す感じです。試合の雰囲気とか今回はこういう雰囲気だなとか考えてやったりします。

     羽根田 自分の思っていたのと全然違う。自分の得意の形があって、それだけに集中してやっていれば成績が出ると思っていたけど。

     清水 全然違いますね。で、自分が一番得意な形はもちろんあるんですけど、それはだいたい決勝に残している。それ以外の形でもちゃんと勝てるようにしないといけない。それがなかなか難しい。

     羽根田 それで6時間?

     清水 6時間とか、もう少しやったりします。ずっと通しでやっているわけでなく、自主練習で4時間やって、道場で2、3時間練習してみたいな感じですね。

     羽根田 具体的にどんな練習をしていますか?

     清水 形を6時間、7時間する時は、本当に空手の練習だけです。トレーニングはまた別で、形の練習は基本的な動作の練習をしてから形に移って、部分修正をしたりして。あとは通し稽古(げいこ)。実際に全部やって、流れを見て、どういうふうな緩急をつけたらいいかとか。力の強弱とかを考えて、自分でビデオを見て修正を繰り返します。

     羽根田 昨年12月に日本武道館に初めて応援に行って、組手より形の方が面白かったです。

     清水 ありがとうございます。そう言っていただけると。

     羽根田 格好良くて。

     清水 基本動作から形になり、形の変形が組手なんです。元々は空手は形から始まって、そこから実戦の組手に行っている。(形から)実戦的になり、ああいうフットワークをして、ポイントを取ってと。

     羽根田 形の選手は組手をしないんですか?

     清水 本当は両立してやっていくけど、極めていくと、やはりどちらかに専念している選手が多くなります。

     羽根田 空手以外のトレーニングは何をするんですか?

     清水 ウエートトレーニングとかをしています。

     羽根田 やっぱり筋肉が必要なんですね。

     清水 でも、筋肉を大きくつけると逆に重たくなったり、動きが悪くなるので、形に伴ったトレーニングとかを考えてやります。筋肉を大きくするためのトレーニングはしないです。形をやっていても筋肉はついてくる。形の打ち方の意識が変わっただけで、筋肉の付き方も変わったりするので。自分の形の中でも不得意なところが出てきて、それを補強するためにトレーニングします。

     羽根田 6時間は鏡の前で居られないな。

     清水 (爆笑)。でも、よく言われます。形選手は本当にみんな黙々と自分たちで練習するので、組手の選手からも形の選手は黙々と練習をすると。

     羽根田 組手の方が変化がありそう。

     清水 そうなんです。組手は短時間で密度の高い練習をする。形は時間も長くなるが、指導をいただいて落とし込むのに時間がかかってしまう。

     羽根田 職人というか、突き詰めてやっていくみたいな?

     清水 そうですね。一つの技でも、やり方を変えたら全然違う。同じ技だけど、試行錯誤してやっていく感じです。同じ形をずっとやっているので、端から見たら何でずっととなるけど、やり方が自分たちの中では全然違う。

     羽根田 一つ聞きたいことがあったんですけど、いろんな所で形を披露されているじゃないですか? (今年のプロ野球・巨人の開幕戦の)マウンドとか。あれについてはどう思う?

     清水 マウンドでやったのは初めてで。時間も決まっていたので、だいぶはしょって、バーッという感じになったけど。あれだけの人数の方に見ていただくのはすごくうれしかった。一番(見てもらいたいの)は試合の時の自分です。戦闘モードに入って、ちゃんと試合をして、やってきた技術を出しているところを見てもらうのが一番です。

     羽根田 やはり背に腹は代えられないというか、いろんな人に見てもらいたいけど、と。

     清水 ただ、演武するだけは嫌なので。やるからにはちゃんとやりたい意識はあります。試合でも演武でも形をするときには中途半端にはやりたくない。

    羽根田卓也=東京都千代田区で2017年4月12日、長谷川直亮撮影
    清水希容=東京都千代田区で2017年4月12日、長谷川直亮撮影

    フィギュアスケートに学ぶ

     ――羽根田さんもその体はかなりストイックにトレーニングしないとできないと思いますが。

     清水 どんなトレーニングをしていますか? 以前、ポールの上に乗ってこいでいるのは見ましたが。

     羽根田 あれは、あまりしない。(テレビの)スタジオでどうしてもカヌーに似たことをやってくれと言われるから、あれぐらいしかできない。でも、体自体はカヌーをこげばこれぐらいの体にはなる。そんなストイックに筋トレをやっているのではないけど。

     清水 競技に伴ったトレーニングの仕方ですか?

     羽根田 オフシーズンはカヌーを全然こいだりしないので、ほとんど毎日筋トレはしている。陸上トレーニングばかりで、走ったり、ウエートトレーニングしたり、サッカー、スカッシュ、クロスカントリーとかいろいろ。

     清水 すごいいろいろ。

     羽根田 空手の選手は1年通して空手しかしないのですか?

     清水 空手しかしてないです。オフシーズンがなかなかなくて。

     羽根田 オフシーズンは冬?

     清水 秋が大きな大会になるんですけど、春が(ナショナルチームの)選考とか予選になるので、オフがないままずっとみたいな感じで。休みがあまりないです。

     羽根田 時期によってトレーニングの仕方は変えないの?

     清水 1月から3月はトレーニングができるようにはしてますが、東京五輪もあって、来年からはその時期に国際大会が入る。そうなると、あまりできなくなる。

     羽根田 僕たちは夏と冬では全然トレーニングの仕方が違って、8月、9月に一番大きな世界選手権があって、そこが1年の中の目標になる。そこに向けてピークを持っていくため、冬は練習の仕方を変えて、世界選手権に近づくにつれてカヌーもたくさんこぐようにしたり、実戦形式のトレーニングを取り入れたりする。そういうピーキングはないのかなと。

     清水 私はそういうところが、ちょっとまだできていない。

     羽根田 演技の競技だから、(シーズンによって)練習の仕方は全然違うと思うけど。

     清水 本当は強弱をつけたくて。ずっとエンジン掛けっぱなしでやってきたので、強弱つけることで大会の演武も変わるかなと。私も違う競技をしたいと思うけど、なかなかそこまで踏み込めてなくて。

     羽根田 ニュースでフィギュアスケートを参考にしているのは見たけど。

     清水 フィギュアスケート、体操はすごく見ています。全体的な流れもだし、技の動かし方も共通点がたくさんあるので。見せ方が一番勉強になる。フィギュアスケートは実際に見に行ったこともあって、映像と生で見るのは全然違う。空手も映像より生で見る方が、伝わるものが全然違う。

     羽根田 うん、違った。武道館で見た時は大気が震えていた。

     清水 (爆笑)。だからこそ、自分たちも他の競技を実際に見て、感じるものが違う。そういうことも増やせていけたらいいと思っている。

     ――羽根田さんのオンシーズンの1日の練習は?

     羽根田 本当にカヌーに乗るボリュームが多くて、午前に1時間から1時間半、午後に1時間から1時間半を毎日繰り返す。時間にしたら正直大したことはないけど、カヌーは負荷が高いので。ひとこぎが結構、力がいるし、あまり長い時間やっていられない。何時間もできる選手がいたら、すごい選手になるかもしれない。1日6時間こぐ選手はきっといないですね。

     清水 カヌー競技の負荷は、空手ならずっと形の通し練習をしている感じだと思う。形は6時間練習しても、密度としては部分練習があったり止まることが多く、通してやるのは何本かなので、負荷的には(少ない)。試合前は通し練習ばかりして負荷がすごく掛かるけど、時間が長いからといって負荷は日によって違う。

     羽根田 競技によって負荷が違うので、一概に練習時間が長いからというわけではない。

     ――カヌーで一番しんどい練習は?

     羽根田 カヌーよりも冬にやるクロスカントリースキーの方がしんどい。カヌーは競技時間が90秒から100秒ぐらい。90秒から100秒は手がパンパンになったり、(疲労の指標となる)乳酸が結構たまりやすい時間。レースシーズンは乳酸をためて、それに耐えられる練習をたくさんする。それが一番きつい。吐き気をもよおす練習が多い。

     清水 しんどそう。

    マイナー競技の苦労

     ――メジャー競技と違って、競技を続けるうえでの苦労はありますか? 羽根田さんは子供時代、カヌーができる川まで行くのにお金が掛かるため、車で寝たりしたと聞きましたが。

     羽根田 僕が大変というより親が大変ですよね。子供にやらせる、続けさせる時に、子供は車で寝るのも、カレーを作るのも、キャンプするのも全然苦じゃない。それを楽しんだ。けど、カヌーを始めたいと子供が言ったら、練習場にも親が舟を車に積んで送り迎えをしないといけない。カヌーもパドルもヘルメットも買わないといけない。バットとグラブとボールを買って、月謝払って少年野球に行ってきなさいという競技ではない。だから、親がよくここまでやらせてくれたなと感じます。

     清水 私たちは自分の体が武器になる。胴着があれば戦える競技。海外でも胴着さえあれば何とかなる。カヌーは運ぶだけでもすごく大変じゃないですか?

    昨年のリオ五輪男子カナディアンシングルで銅メダルを獲得した羽根田卓也=三浦博之撮影
    全日本空手選手権女子形で優勝した清水希容=猪飼健史撮影

     羽根田 飛行機に乗る時は本当にうらやましい。カヌーを飛行場まで運んでチェックインするのがどれだけいつも面倒くさいか。

     清水 大変ですよね。それも全部自分で手配して送るんですか?

     羽根田 カヌーは大きすぎるから、送ることすらできない。何とか車に乗せて、空港まで車で行き、その車をそこに置いておくか、誰かに送り迎えを頼むしかない。そりゃ、みんなやらないよなという感じですよね。

     清水 それでも続けられる環境には、親の力がある。親の力は本当に大きいなと私も思う。やっぱり家族が支えてくれないとできない競技。最初は私も習い事でさせてもらって、本当は高校でやめる予定だった。けど、大学でやりたいと言ってやって、社会人になってもやりたいと言ってやっているので、そういった支えがないと続けられない。そういうのは、共通して言えるのではないかなと思う。

     羽根田 僕の夢というか理想は、子供が競技に関わらず何かを始めたい、カヌーやりたい、空手やりたいと言い始めた時に、親が困らなくてもいいような国、環境が整ったら本当にいいなと思う。

     清水 そうですね。

     羽根田 例えば、スロバキアだったらカヌーをやりたいと子供が言い出したら、月謝を払って預けられる環境が実際にある。施設があって、クラブチームがあって、教えてくれる人がいる。道具も貸し出してくれるし、強くなればどこかに所属して給料も出る。子供がカヌー選手になりたいと言ったら、よしやってこいと親が胸を張って送り出せるような環境が整っている。日本だったら、現状では僕でも子供がカヌー選手になりたいと言ったら、ちょっと待ってと言いたくなる。カヌーみたいなマイナー競技、僕らみたいな状況の競技はたくさんあるので、そういう状況がなくなることはきっとないと思うけど、少しでも子供がスポーツを始めやすいようになったらなと常々思う。

     清水 空手は世界のどの国もやっていると言えるぐらい普及はしている。でも、続けていくとなると、国際大会に出るのはやっぱり大変。支援を受けられる部分はあるが、社会人になって続けるのは難しい。社会人になったら働きながらで、練習時間も削られて、でもトップに立ちたいとやっている。そういう環境自体が難しいというのが現状かなと、特に社会人になって思う。社会人の選手はみんな、それでもやっているのがすごい。自分の意志で立っていくしかない中でやっている。

     羽根田 トップ選手になればなるほど、お金が減っていく現状は何とか変わってほしいと思いますね。逆だろう、と。

     清水 そうですね。遠征も増えて、いろんな所に行かないといけないので。

     羽根田 それが一番分かりやすいメジャーとマイナーの差。メジャー競技はトップになればなるほど恵まれていて、マイナー競技はなればなるほどお金が減っていって、いろいろなところにお願いしないといけない。

     清水 行動が本当に簡単にできなくなってしまうんで。行きたいと思っても行けるものでもない。できないことの方が多かったりするけど。

     羽根田 クラブチームの小学校から大学の枠組みでやっている間は楽で楽しいけど、日本代表になって空手を職業にするとなった時に大変になる?

     清水 はい。土台がないので。やはり生活できないと競技も続けれないので、現状はやはりそういうことはあるかなと思ったりはしますね。

     羽根田 やはりそういう現状があると、親も始めさせにくいですよね。

     清水 本当に大学まではいいんですけど、そこからが大変というか、そこからがもっと上を目指してやっていける時間になってくるので。そこがなかなか現状では難しいなって思ったりします。

     羽根田 そういう意味では。

    (2人でミキハウスの広報担当者を見て)

     清水 ありがたいです(笑)

    空手の「三戦立ち」を参考に 

    ――羽根田さんはカヌーで波があってボディーバランス、清水さんも形で体がぶれたりしてはいけないですが、その辺は共通項かなと思います。トレーニングで意識していることはありますか?

     清水 それ、すごく聞きたいです。あれだけ波の上でこいでいてもぶれずに、なんであんなに体幹が強いのかなと。

     羽根田 空手で三戦(さんちん)立ちってあります?

     清水 それ、何か聞きました(爆笑)。三戦立ちを参考にしてるって。

    2人の共通のトレーニングである「三戦立ち」を図解した週刊少年チャンピオン(秋田書店)の人気漫画「グラップラー刃牙」(C)板垣恵介

     羽根田 空手には三戦立ちという立ち方があって、元々は不安定な船の上でバランスを崩さずとも戦えるような立ち方、三戦立ちという空手の技術があるって、(マンガの)「グラップラー刃牙(ばき)」で読んだんですけど。

     清水 (爆笑)

     羽根田 それをいつも、今日も自宅から電車で来る間、ずっとやってました。

     清水 電車の中で! 私も高校とか大学のころ、その立ち方を意識して電車に乗ってました、ふふふ。

     羽根田 たぶん、いろんな人がきっとやっているんじゃないかな、満員電車の中で。

     清水 どうやったらぶれない体を作れるかやっています。高校の時は特にやってました。

     羽根田 電車の中で本当、携帯片手にやたらバランスのいいOLさんとかいない?

     清水 (爆笑)

     羽根田 よく立っていられるなみたいな。そのヒールで。負けた、みたいな。アスリート負けたみたいな。

     清水 本当にバランスいいですよね。すごいです。三戦立ちも見た目は正直簡単そうに見えたりとかするんですけど、空手の中でも結構、その立ち方楽じゃないという立ち方なんですけど。一番難しいと言ってもいいんです。

     羽根田 ちょっと教えて。

    (ここから実技指導に)

     清水 誰かに習ったんですか? 羽根田 (首を振りながら)自分的にこうかなみたいな。

    (実技指導を続けながら)

     清水 すごい、三戦立ちを知っているところがびっくりしました。まず親指とかかとのラインを合わせないといけなくて。基本的には前に出て親指とかかとを合わせて。基本は肩幅で、難しいのがお尻を締めて足はちょっと膝を外側にするんですけど。かかとは内に締めるという。おなかが上に上がりすぎないで。

     羽根田 なんか地面をかむ感じだ。

     清水 そうなんです。で、下に重心を落とす感じなんですけど。これがちゃんとした立ち方ができていたら、体に力が分散するので、痛くない。

     羽根田 たたいてみて。

    (清水が羽根田の肩をたたく)

     羽根田 あっ、まだ痛いわ。三戦立ちできてない。

     清水 足だけやろうと思っても駄目で、ちゃんとお尻とか足とかが締まっていたら。でも、立つのも力んで立つんじゃなくて、ちゃんと委ねて体の位置も前とか後ろにぶれるんではなくて、できるだけ真ん中に落として立つという感じなんですけど。実際に空手の選手だったら、ばんばんとたたかれて、痛くなかったらいいんですけど、痛かったらまだやってみたいな。

     羽根田 痛いでしょ。たたかれたら。

     清水 ばんばんたたかれます。

     羽根田 ちょっと自宅の最寄り駅までやってみよう。

     清水 三戦とかも体の感覚で意識して(試合を)やっているんですか?

     羽根田 正座して座っているんで。常に心掛けているのは腰を入れるというか、おなかを締める。こうしていると、水もしっかりキャッチできるし、バランスも崩しにくくて安定するのはあります。どんなスポーツやる時も、骨盤を立てておなかを締めなきゃいけないと。スポーツに関わらず、そういう体の構造なんだと最近思い始めた。

     清水 自分たちも姿勢が崩れたら全部崩れちゃうので。姿勢と重心の位置が空手はすごく大事になってくる。

     羽根田 立っているだけなら、なんとなくできそうかなとイメージはつくんですけど。飛んだりして、くるって回ってぴたっと止まらないといけない時に、そこをこうなったら減点なわけで。ぴたっと止まるから減点にならないわけで、絶対に俺だったらこう(バランスを崩した感じに)なっちゃうと実際見て思いました。

     清水 そういう時も技によって重心の位置を変えたりとか、(重心を)乗せる足の裏ってすごい大事で。本当に足の裏でも(重心を乗せるのが)かかとよりなのか、つま先よりなのか、真ん中にのせるか、外に乗せるのか、内に乗せるのかって、動きによって全部変えているので。やはりそういうのも、ちょっとでも狂ったらバランスが崩れたりします。

     羽根田 体重が重たい人の方が有利とかないんですか?

     清水 たぶん、それはないと思います。重かったら逆に動けなくて、キレが出せなかったりするので、人それぞれのあった体重と動かし方ってあるので。軽すぎても技が抜けちゃうので、程よいバランスで整っているのが一番いいかもしれないです。

     羽根田 何か一つ形を覚えたいな。

     清水 すごい簡単なのありますよ。空手を始めた子たちが必ずやる最初の形。平安というんですけど、短めの形で基本形があります。

     羽根田 じゃ、ちょっとお願いします。

     清水 (爆笑)

    (平安二段を実技指導する)

     羽根田 心が整いそう。

     清水 でも、みんな最初にやり始めて、私もそうだったんですけど、形(かたち)とかできてくるとそれが楽しくなって、形ができれば。

     羽根田 はまったみたいな?

     清水 そうなんです。きれいにはまったみたいな。

     ――羽根田さんも何か教えられることありますか?

     羽根田 実際に船を浮かべてもらえば。ここではなかなかないかもしれない。

     清水 利き手の方がやはり強いんですか?

     羽根田 太さは全然違いますね。カヌーにも2種類あって、左右対象の種目と僕のカナディアンという片方こぎだと右と左で握力も違うし。握力は20キロくらい違うと思う

     清水 そんなに!

     ――左右のどちらが強いんですか?

     羽根田 右の方が強い。逆に肩は左の方が強かったりとか。へそが右にずれたりとかしてますね。左右非対称の動きを毎日やっているんで。そのずれを直すために、ウエートトレーニングを取り入れていて。なるべく左右対称の動きを取り入れて、他のスポーツをやったりして、ケガの予防にもつながるので。

     ――羽根田さんはメダルを取って、空手も2020年東京五輪の正式競技になって注目度が増している。今の状況をどう思いますか?

     羽根田 空手の場合は、この前の世界選手権も四つの金メダル。

     清水 そうですね、金メダル個人は四つです。

     羽根田 国技という認識があって、東京五輪で採用されて、たぶんみんな金メダル取ってて当たり前と。言いたくないんですけど。それは分かっていると思うんで。もう言っちゃいますけど。みんな勝って当たり前と思われるし、言われると思うんで。そういうことは気にしなくていいと思います。

     清水 でも、(羽根田さんも)そういうこと、すごく言われるようになったんじゃないですか?

     羽根田 リオ五輪の後は、やはり次は金メダル、次は金メダルって言われるんで。やはりスポーツってそういうのが付き物だから言わないでくださいって言うわけにもいかないから。当然のことだと思って受け止めてますけど。4月に富山で日本選手権があって、自分の競技人生の中で初めて注目される中で、期待される中で臨んだレースだったんですよ。今までも(2012年五輪の)ロンドン、リオと臨んできて、結局、注目や期待していたのは僕の関係者だけ。家族とか関係者だけだったんで。日本選手権は規模は小さいですけど、僕の知らない人たちが注目する中で臨んだ大会は、考えてみれば自分の競技人生の中で初めてだった。違った緊張感があって、正直、今まで国内の大会はあまり緊張感がなくて。気合いも入らなかったんですけど。レベルが低いからそうなんですけど。初めて日本で試合の前に緊張で寝れねーという感覚があったから新鮮だったし、東京五輪はもっと緊張するんだと改めて思ったところがあった。

    空手のポーズをとる清水(左)とカヌーの羽根田=長谷川直亮撮影

    東京五輪はすごいことに

     ――五輪のイメージはありますか?

     清水 やはり五輪は分からないんで、どんな緊張感というか、世界大会とかもあるじゃないですか。いろんな舞台を経験している中で、五輪の舞台ってどんな感じなのかなというのはすごくずっと思っていて。

     羽根田 僕が初めて五輪を経験したのは21歳の(08年)北京五輪の時で。その時は自分の実力も五輪に出て成績を残せるというレベルじゃなくて、出て万々歳というか、出ることが一番の目標で。出ただけで案の定、終わっちゃったんだけど。やはり初めての五輪はなんかすごかったです(笑い)。脅かすわけじゃないんだけど、やはり五輪を目標にやってきて、活躍する舞台を夢見てやってきたから、自分がいざその真ん中にいると思うと。例えば、選手村に入って至る所に五輪のマークがあるんですよね。その時はすごく五輪のマークになんかとらわれていたというか、それくらい自分の中で五輪のマークが大きくなってしまって、その魔力に完全にやられていたんですよね、北京の時は。ロンドンは出ることはもうノルマで、メダルを狙えるか狙えないか、メダルに限りなく近い順位は残さないといけないという自分の決めごともあったし、周りもそういう目があったんで、そこまで北京ほどは五輪マークにとらわれることはなくって、リオは完全に五輪のマークを見て何とも思わなかったし、出ることが当たり前で、メダルを取るという意識でやっていたから、今まででそういう中では一番成績が求められた大会ではあったけど、一番自分の中でリラックスできたというか、いつも通り臨めた大会でした。東京はまた違うプレッシャーが……。自国開催というのと、前回メダルという注目される成績があるので、未知数でもあり、楽しみでもありという感じです。空手は初めての五輪できっと空手の世界選手権とは全く違う雰囲気で。自国開催だから。何か脅かしてばっかりな気がする(笑)。先輩ぶるわけじゃないけど、それは知っておいてほしいなと。

     清水 何も知らずに行くのは……。

     羽根田 準備はしておいた方がきっといいと思います。

     清水 今までは世界選手権が一番大きな大会だったんで、出たことない時は本当にいろいろな人から話を聞きました。どんな感じなんですか?みたいに聞いて、自分の中ですごく世界の舞台を大きくして行ったら、逆に落ち着けたというか。自分が大きくしていた分、落ち着いてできる感じがあったので、逆にそれが1回目の世界大会で良かったのかなという感じなので。

     羽根田 心の準備ができていないことって驚きやすいし、平常心を乱すものだから。そういう準備は……。

     清水 必要ですよね。

     羽根田 特に東京は相当な準備しといても損はないと思う。僕もすごいことになるんだろうなという想像は毎日しているし。

     清水 自国開催と自分たちは日本発祥というので、かなり周りも期待するので。武道というか、柔道もそうだと思うんですけど、負けられない流れがあるので、そこは絶対に期待を裏切らないようにしていきたい。でも、簡単じゃないんだろうなというのはすごく思います。

     ――東京五輪の正式競技に決定後、空手の注目度が増していることについてはどうですか?

     清水 普及していても、空手のことを知らない方の方が正直多かったので。本当の空手の良さであったり、まず形と組手があるってことを、みなさん知らなかったと思いますし。一番変わったのは、周りに空手をやっているというのを言ったら、怖いというイメージを持たれていたというのがあって、あとは瓦を何枚割れるのみたいな。そういう次元だったんですけど、そういうのはなくなって、形をやっているんですと言ったら「あの形ね」みたいな感じで話ができるようになって。そういうところはすごく変わってきたと思います。やはり何より変わったのは注目のされ方はだいぶ変わりました。

     羽根田 空手界の綾瀬はるかですからね。

     清水 (照れ笑いしながら)似てますか?

     羽根田 話題を作っていただくのはありがたいことですよ。

     清水 話題を作ってもらえているのはありがたいですね。でも、これからは「清水希容」として知ってもらえるように頑張ります。

     ――カヌーも4月の日本選手権でチケットが完売。生活の変化はありますか?

     羽根田 一番分かりやすいのは、気づいてもらえるようになったということですね。我々カヌー界にとっては考えられなかったというか、夢でしたからね、カヌー選手が有名になるってことが。そのためには五輪でメダルしかないと分かっていた。リオのメダルもきっといろいろな人にとって、びっくりしたことだと思うので、その変化はうれしいですね。

     ――モチベーションアップにもつながっていますか?

     羽根田 そうですね。よかったなと。

     ――富山では多くのファンに囲まれていました。

     羽根田 最初はびっくりしましたよ。JOC(日本オリンピック委員会)のメダリストのイベントに出たら、いろいろな人がプレゼント持ってきてくれて。まさか富山の日本選手権まであれだけの人が来てくれるなんて。五輪直後とか五輪の前は、まさかこんなことになるなんて思っていなかった。それはうれしかったですね。

     ――東京五輪に向けてどう過ごして、どう迎えたいですか?

     羽根田 清水さんもそうだと思うんですけど、東京に向けて練習時間を特別増やしたりだとか、練習の仕方を特別変えたりってことはきっとしない。今までしてきたように毎日の積み重ねが一番の近道だってずっと考えています。東京五輪だけは特別なものになるので、心の準備だけは怠らないように頑張っていけば、きっと(メダルは)いけると信じています。

     清水 みなさんが優勝してくれるだろうという期待を持ってくださっている以上は答えをしっかり出せるようにしたいと思っています。私自身も目指すからには中途半端にしたくない。優勝という気持ちはあるんですけど、簡単ではないというのも本当に分かっています。一つ一つの積み重ねと、目の前のことを本当にどれだけ頑張って積み重ねていくかが大事だと思います。その積み重ねが東京五輪のメダルにつながっていきますし、私自身も、どれだけ人の心にとどめられる形を打てるかというのが大事かなと思います。いかに一番ピークに持っていけるかを常に考えて過ごしていきたい。

     ――対談を終えて、お互いの印象はどうでしたか?

     羽根田 すごく、いい子。こんな娘が育ったら両親は幸せだろうなと、いつも思っています。

     清水 最初、私自身が人見知りというのもあるんですけど、どう話にいったらいいのかなと思っていたんですけど。すごくいろいろ聞いてくれて、実際に空手のことを知ってくれたりとか、大会を見に来てくれて積極的というか行動的で、見習いたいなと思いました。実際にいろいろなことを経験されて話もできて、刺激になるなってすごく思っています。これから一緒に五輪を目指して頑張っていきたいなと思います。


     はねだ・たくや 愛知県出身。カヌー経験のある父の影響で、9歳で競技を始め、高校卒業後、スロバキアに拠点を移した。2011年世界選手権で日本勢初の決勝進出。五輪には3大会連続出場。08年北京五輪14位、12年ロンドン五輪7位、昨夏のリオデジャネイロ五輪では、日本勢初の銅メダルを獲得した。175センチ。

     しみず・きよう 大阪府出身。兄の影響で小学3年で空手を始め、東大阪大敬愛高3年時に全国高校総体優勝。13年の全日本選手権を最年少の20歳で制し、4連覇中。14年と16年の世界選手権も2連覇を果たした。得意の形はスピードと美しさが映える「チャタンヤラ・クーシャンクー(北谷屋良公相君)」。160センチ。