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著者インタビュー 林望 『役に立たない読書』

すぐ役に立つようなことはすぐ役に立たなくなる

◆『役に立たない読書』林望・著(インターナショナル新書/税別720円)

 読書時間がゼロの大学生が半数とか、「読書してどんな意味があるか?」という若者の声が新聞に載るなど、劣勢にある「読書」は、そのうち死語になるかもしれない。そんな中、『役に立たない読書』という反語的タイトルで、初めてという読書論を書かれた林望さんに話をうかがってみた。

「実用書に書かれたような、すぐ役に立つようなことは、すぐ役に立たなくなるんです。それは『読書』とは呼べない。明治時代に西洋から啓蒙(けいもう)主義が輸入されて、デカルトやショーペンハウエルなどの哲学思想書が読まれましたが、正直、みんな解(わか)っていたかどうか。これらは流行で、みんな忘れ去られてしまう。私は楽しければ、それでいいと思う。この本では、その『楽しさ』について伝えたかった」

 しかし、今では「楽しさ」を知る以前に、スマホ漬けで時間もお金も搾取され、本を手に取ること自体、機会が減っている。

「どこが読書の入り口になるか。本は読んでみないと価値がわかりません。失敗することだってある。しかし、その失敗だって大切で、積み重ねなんです。かつては、小さな本屋がどの町にもあって、本屋を覗(のぞ)いて立ち読みしたり、出会いの場所でもありました。図書館で借りればいい、と言いますが、本は身銭を切って自分のものにしないと、身につかない。これは体験的にそう思っています」

 『役に立たない読書』では、ベストセラー、芥川賞・直木賞作品は読まない。大切な本は同じものを何冊も買って、あちこちに配架せよ。古典文学で読書の醍醐味(だいごみ)を知るべしなど、具体的なアドバイスも満載である。

 古書店へ通う日々のことも書かれている。神保町の老舗古書店で、懐かしい師の文字が書き入れられた遺愛の一冊を入手、というサプライズもあった。

「早稲田の古書店で三好達治の詩集『故郷の花』(昭和21年)の初版本を買ったこともありました。和紙で装訂された美しい本でした。私はそうして詩と出会った。日本で電子書籍が普及しないのは、本自体が、紙や使われる活字、詩集なら余白と、工芸品に近い作りがされていて、本に対して欧米人とは比較にならない愛着があるからだと思います。詩を電子書籍で読んだって、何の面白みもないでしょう(笑)」

 本書でも、本の大きさ・重さや、字の大きさ、あるいは用紙や装訂というような物理的なことが、読書という営為にとっては相当に大切な案件と書かれている。読む行為として、手で触れて確かめることに重きを置く読書論はかつてなかった。

「読書は娯楽です。読みたい本だけを読む。私はそうしてきました。読書をして心を遊ばせることで、人間の幅ができて、世の中、楽しくなるんです」

 また作品によっては、自分で朗読してみて、耳から聞いた方が理解が深まるという教えも、有益であった。

 とにかく林さんの話を聞いていると、こんないいこと、やらないともったいないと思えてくるのだった。そのことを気難しくなく、ニコニコしてさも楽しそうに語る。これも読書の功徳であろうか。

(構成・竹坂岸夫)

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林望(はやし・のぞむ)

 1949年、東京都生まれ。ケンブリッジ大客員教授、東京藝術大助教授などを歴任。『イギリスはおいしい』で日本エッセイスト・クラブ賞、『謹訳 源氏物語』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。ほか、著書多数

<サンデー毎日 2017年5月28日号より>

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