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犬は人を変える--「車いす犬ラッキー 捨てられた命と生きる」刊行

著者のノンフィクション作家・小林照幸さん寄稿

「車いす犬ラッキー 捨てられた命と生きる」(毎日新聞出版刊)
車いすを装着した犬のラッキー
車いすを装着した犬のラッキー
車いすを装着した犬のラッキーと飼い主の島田須尚さん

「捨て犬のラッキーを支えているつもりだったのに、支えられていたのは自分でした。安楽死なんてさせなくて本当によかった」

     飼い主の島田須尚さん(67)は、車いすを装着した愛犬「ラッキー」が浜辺で走り回る姿を見つめながら、そう言った。島田さんとラッキーは、サンゴ礁の海と長寿と闘牛で知られる鹿児島県は奄美群島の徳之島で暮らしている。

     ラッキーは、2012年11月、毒蛇のハブも潜む亜熱帯の森から救い出された。まだ目の開かない生後間もない状態、母親や6匹のきょうだいは既に息絶えた”天涯孤独”の身だった。「私たちの所に来たことが幸運となれば」と、島田さんの奥さんがラッキーと名づける。

     ラッキーは島田さんにとって2匹目の犬。ラッキーを迎えたとき、1匹目の飼い犬の飼育歴は12年となっていた。保健所で殺処分寸前だった捨て犬を島田さんが引き取ったものだ。

    「自分は電器屋、飲食店経営の仕事一筋で、動物を養うような男ではなかった。それが50歳を越えて初めて犬を飼い、人間的にも丸くなり、成長した気がします」

     ラッキーが1歳を迎えようとしていた13年11月、交通事故に遭い、下半身不随に。当時の徳之島には動物病院どころか、犬猫を診療できる獣医は皆無。牛専門の獣医に診せるも、「背骨が折れていて、自然治癒するとは思えない。雑種の捨て犬だし、保健所で安楽死させてはどうか」と言われた。

     事故から4日目、島田さんはラッキーを沖縄行きの定期船に載せた。沖縄にいる息子夫婦を頼り、専門医の診療を託す。手術は2度にわたり「成功」するも、下半身は元通りには回復せず、獣医は車いすの準備を進言した。40日後、徳之島に帰郷。島田さんの心配をよそに、オーダーメードの車いすを装着するや、ラッキーは元気よく走った。

     漁港や公園で、喜々として前輪駆動車のように力強く走り回る車いすのラッキーと、寄り添い、見守る島田さんの姿は徳之島の人々に定着していった。

     島田さんは16年2月、胃がんで胃の3分の2を切除する手術を受けた。

     1カ月の入院中、大阪から帰省した長女によって毎日の見舞いに連れて来られるラッキーの姿に「今度は自分が頑張る番だ」と励まされていたという。

    「介護が必要な犬だけに、世話をする時間も健常な犬の倍は要しているでしょう。ラッキーは私にとって〝人生最後の犬〟になるはず。私はこの先10年、いや15年、がんばらないといけない」

     初代の愛犬を15年間、飼育してみとった島田さんはいま、「ラッキーも天寿をまっとうさせてあげたい」と自らに言い聞かせている。

     島田さんとラッキーのあいだには、長寿の島・徳之島の共生の伝統「ユイ」(結い)が息づいている――。(動画・写真・文 小林照幸)

    「車いす犬ラッキー 捨てられた命と生きる」(小林照幸著・毎日新聞出版刊)

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