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特集ワイド

北欧ライフ、浸透中 シンプルで上質で、かわいくて

スウェーデンの小物などを扱う「SWEDEN GRACE(スウェーデン グレイス)」を営む川上麻衣子さん

 ムーミン、イッタラ、マリメッコ--。北欧から海を越えてやって来たものが最近、幅広く人気を集めている。雑貨やインテリアだけでなく、ライフスタイルへの関心も高い。なぜ今、欧米の大国ではない、北方の国々が日本で受け入れられるのだろう。【宇田川恵】

「夏に森で摘んで、冷凍しておいたものなんですよ」。昨冬、取材でノルウェーを訪ねた際、知人宅に招かれた時の居心地の良さは忘れられない。知人が出してくれた白い皿の上には、濃い紫色のブルーベリーがのっていた。花をデザインしたテーブルクロスと一緒に、ベリーはテーブルを鮮やかに彩る。家の中のたくさんのランプがそんな食卓を柔らかく包み込む。おしゃれで手作り感あふれるもてなしは深く心に響いた。

 先日、取材で訪れた女優、川上麻衣子さんの東京都内の自宅にも、同じような温かい空間があった。川上さんはスウェーデン生まれ。両親が使っていたという同国の木製テーブルを大切にしており、自身がデザインした涼やかなグラスで冷たい飲み物を出してくれた。「ぜいたくをするのではなく、シンプルに過ごす。スウェーデン暮らしの影響は受けていますね」と笑う。

豆腐やそうめんなどとも相性がいいフィンランドのブランド「イッタラ」の食器

 北欧とは、北極海に臨むノルウェーやデンマーク、スウェーデン、フィンランドの4カ国を指すことが多い。日本から約8000キロも離れた遠い国。そんな国々に憧れる人が増え、雑貨や家具を扱う店があちこちに現れている。北欧を紹介する本や雑誌は数え切れず、北欧旅行も人気だ。旅行最大手のJTBによれば、今年はチャーター便を使った7~8月の北欧ツアーが5月段階で既に満席だという。

 情報サイト「北欧BOOK」の代表で、著書「3日でまわる北欧」シリーズなどで知られる森百合子さんは「北欧が一般の人にも身近になったのはここ5~6年ほどではないでしょうか」と話す。スウェーデン家具大手イケアの進出で北欧家具が身近になり、フィンランドが舞台の映画「かもめ食堂」も北欧への関心を高めた。一方、フィンランドの架空の生き物「ムーミン」やポップな雑貨で知られるブランド「マリメッコ」が「かわいい」と女性たちにじわじわ人気となり、北欧発祥の物やスタイルがここ数年、日常生活に深く入り込んできている。

「和の感覚」にも響きあい

 北欧が日本人をひきつける特別な理由はあるのだろうか。デンマークで暮らしていたライターで、「北欧デザイン旅案内」などの著書がある萩原健太郎さんは「長く使い続けられるデザインというのがまず第一の魅力です」と語る。北欧の自然環境は過酷だ。冬は長く、寒く、暗い。太陽がほとんど昇らない期間もあり、私が訪れたノルウェー北部の街、トロムソでは約2カ月間、太陽の光が一切見えないと聞いた。

フィンランドを代表する陶器メーカー「アラビア」から出ているムーミンデザインのマグカップ=東京都中央区で宇田川恵撮影

 「そんな環境では、どうしても家族や友人と一緒に家の中で過ごす時間が長くなり、当然のように家の中を快適にしようと考えます」と萩原さん。北欧に住むほとんどの人がインテリアを日常の話題にし、温かい部屋作りにこだわるのはこのためだ。一方、北欧諸国は社会保障費を賄うため税金が高額で、物価が高いこともあって、家具などは頻繁に買い替えられない。「だからデザイナーや職人は機能的でシンプルで、長く愛されるものを作ろうとする」。祖父母から引き継いだ古い家具を使う家庭は珍しくないという。

 食器類も同じだ。フランスの高級クリスタルブランド「バカラ」のような存在とは異なり、おしゃれなわりには頑丈で壊れにくく、日常使いできるのが特徴。日本人にも通じる「ものを大切にする」という意識が共感を呼ぶ。

 銀座の老舗百貨店、松屋の常務執行役員、古屋毅彦さんを訪ねた。松屋は他の百貨店に先駆け、1955年から北欧製品を取り扱っている。古屋さんは創業家出身で、祖父や父の代からのさまざまな話を聞いているが、「60年以上前に北欧に目をつけたのは、世界中で商品を探す中、北欧には日本人に響くものがある、と気付いたからだと思います」。

 古屋さんはこう強調する。「北欧のものって和のものとすごく共存できるんですよ。華麗なロココ調やアールデコ調には合わないのに、不思議とお寺とは合っちゃう」。例えば、フィンランドのインテリアブランド「イッタラ」の皿に納豆をいれてもしっくりくるそうだ。和と親和性があるのは、日本と同じ木と水に囲まれた生活があるためだと見ている。「北欧製品の多くは木との相性が良い。自然との距離の近さが日本と似ているんですね」

 時間があればスウェーデンに足が向いてしまうという川上さんにも聞いてみた。川上さんは昨秋、東京都台東区に同国の小物などを扱うショップ「SWEDEN GRACE(スウェーデン グレイス)」をオープンさせた。商品の買い付けで近く、同国に向かうと言いながら、テレビ番組の仕事で、タレントの志村けんさんとかつて同国を旅した際の話を聞かせてくれた。

 志村さんの同行者が、志村さんから預かっていたカバンをタクシーに置き忘れてしまったという。カバンには大金のほか、パスポートも入っていた。出国は3日後。見つからなければ大変なことになる。でも3日目の朝、カバンはちゃんと戻ってきた。「スウェーデン人の人柄は日本人に近いんです。わりと人見知りで、初めはとっつきにくかったりしますが、打ち解ければ友達として長く付き合えるんですよ」と川上さん。米国人やラテン系諸国の人とは明らかに異なり、物静かで落ち着いた性質は日本人との相性もよさそうだ。

ダイコンの花など自然のものをテーマとしたデザインも多いフィンランドのブランド「マリメッコ」の布地=東京都中央区の松屋銀座で

個人が輝く社会のヒント

 日本と共通点が多い北欧。だからこそ親近感を覚え、少し触れるともっと知りたくなる。

 森さんは「単にかわいいものが欲しいというのではなく、生き方のお手本として日本に定着していくのでは」と話す。仕事に振り回されず、早く帰宅して家族とゆっくり過ごす。男女とも社会的に平等で、女性だけが子育てに悩まされることもない。日本人が取り組む「働き方改革」と女性が輝く社会をとっくに実現している。それが北欧スタイルだ。「日本の若い世代は最近、お金ではなく、家族や友人を大切にしたいというふうに価値観は変わってきていると思う。北欧のあり方が一つのモデルになるかもしれません」

 高級ブランドを買いあさったバブル期は遠く過ぎ去った。好景気を経験していない若者たちの生活はつつましやかだと言われる。そんな世相をとらえてか、古屋さんもこう語る。「みんなが同じ豪華なものを持とうというライフスタイルはなくなってきている。重要なのは自分自身の生活を充実させることであり、高価でなくても、こだわりのあるマグカップで毎朝、コーヒーを飲めることが楽しい。そんな北欧の暮らしはこれまで以上に、日本人の生活の中に入っていくように感じます」

 一方、川上さんは「アジアの人たちの魅力って、すごくせわしい中でも頑張れること。日本人が北欧の生活をそのまま取り入れるのはどうかな、という思いもあります」と神妙な面持ちで話す。良いものを受け入れることは大切だが、独自の生き方を探すことこそ重要ではないかという鋭い指摘だ。ただ、こうも付け加える。「北欧には上手に暮らしを楽しむヒントがたくさんあります。そこはぜひ見習って楽しんでほしいですね」

 自身の生き方について深く考えてはどうか。北欧が問いかけるメッセージかもしれない。

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