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余録

至尊(天皇)といえども…

 「至尊(しそん)(天皇)といえども人類なれば、その欲(ほっ)せざる時には何時にてもその位より去るを得べし」。こう主張したのは皇室典範を起草した井上毅(いのうえこわし)だった。1887年、東京・高輪の伊藤博文(いとうひろぶみ)邸での会議の席である▲典範草案は天皇が重患の時には譲位を認めたのに対し、伊藤は「天皇の終身大位に当たるは勿論(もちろん)なり」と譲位を否定した。井上の先の言葉はそれへの反論だが、伊藤は天皇の個人意思に皇位を委ねるべきでないと譲位規定を削除する▲こうして国民はもちろん天皇の目も届かぬ元勲(げんくん)たちの会議で決められた皇室典範は近代の天皇の退位を認めなかった。そして今、実に200年ぶりとなる天皇の退位を実現するための特例法を成立させたのは主権在民下の国会だった▲元勲らの議論のいう「人類」たる天皇と安定を要する国家制度の皇位との矛盾を宿した近代天皇制である。象徴天皇のあり方を身をもって示してきた天皇陛下が、「おことば」ににじませたのは現代民主国家におけるこの問題だった▲「国民の理解と共感」がキーワードとなった以後の議論である。退位は皇室典範改正でなされるべきだとの筋論は最後まで残ったが、国会は「将来の先例になりうる」との政府答弁をふまえて特例法を“国民の総意”へとまとめあげた▲主権者たる国民一人一人が象徴天皇制のあるべき姿を陛下の歩みを振り返りながら考えたこの10カ月だ。付帯決議のいう皇位の安定的継承にむけた今後の取り組みも、むろん元勲なしでやっていける。

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