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著者インタビュー 杉江松恋 『ある日うっかりPTA』

まったく考え方の違う人とケンカせずにやっていくには?

◆『ある日うっかりPTA』杉江松恋・著(角川書店/税別1300円)

 PTA会長って、どんな人がなるのだろう。地域の有力者? 上に立つのが好きな人?

 いやいや、ある日「うっかり」フリーライターがなってしまうこともあるのです、という愉快なリポートが本書だ。

「電話で打診された時、『えっ、私でいいんですか?』とお聞きしました。しかし、ライターというのは習い性として、仕事を断らないのと同じように、まず、『やれるか?』と自問するんです。思えばこの時点で9割はやる気になってました(笑)」

 公立小学校では、手を挙げる人など皆無という現状がまずあり、勤め人と違ってフリーランスは時間が自由になるのでは?という推測から白羽の矢が立った格好だが、PTAの実質については何も知らなかったという。

「PTAというカタマリがあるのではなく、主に各部、各委員会が活動するんです。新聞を発行したり、学級会を開いたり、卒業式をどうするか対策を練ったり。それに伴い、お金を集めるとか、人を振り分けるとか、とりまとめを執行部がやることになるんですね。会長ってまとめ役なんだと理解できたのは、就任して半年くらい経(た)ってからでした」

 読むほどに、PTAの不思議が浮かび上がってくる。会計は年度で完結せず、繰越金があったりすること。ヨコのつながりである小学校PTA連合会なる組織もあること。校庭を地域に開放するにあたり、管理をPTAがやるか否かという事例も出てくる。そして杉江会長の改革として、周年行事の見直しがあった。

「周年行事って一日で終わっちゃう割にすごいお金を使うんです。その予算を、不足している暖房器具の購入に充てるとか、今、この学校にいる子供たちのために使わなきゃ嘘(うそ)でしょう? という疑問がずっとありました。幸い、校長も賛成に回り、変えることができました」

 杉江さんの基本姿勢は「がんばらない、をがんばろう」。医師の鎌田實さんの言葉だ。無理せず、自分を甘やかしてもいいから少しずつやっていこうという考えである。

「私がPTAの仕事で一番面白かったことって、考え方の違う人同士がどこまで合意形成できるか、という点だったんです。普段はライター仲間や編集者など、ベースの部分で共有できる付き合いが多いので、これはとても新鮮な経験でした。だから、とにかくケンカをしないでやっていきましょう、と」

 本書の最後尾近く、PTA会長としての最後の卒業式の祝辞が感動的だ。2011年、あの東日本大震災が起きた直後の言葉。

「入学式、運動会、卒業式と、PTA会長が大勢の前で挨拶(あいさつ)する機会は年に3回あります。その中で卒業式が唯一、大人代表として語りかけることのできる時。小学6年生といえばある程度、自己というものについて考えられるレベルなので、そういう相手として想定し、毎年原稿を用意して臨んでいました」

 そこで述べられる「三つのお願い」は、すべての大人もまた共有したい言葉だと感じる。願わくば、そこだけ先にチェックするようなことをせず、冒頭から読んでいって、そこまで到達してから受け取ってください。

(構成・北條一浩)

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杉江松恋(すぎえ・まつこい)

 1968年、東京都生まれ。ライター、書評家、文芸評論家、映画のノベライズなど幅広いジャンルを横断するが、専門はミステリー。著書に『路地裏の迷宮踏査』『読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100』などがある

<サンデー毎日 2017年6月25日号より>

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