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幸せの学び

<その173> 受け継がれる達人の味=城島徹

真剣な表情でネルドリップコーヒーをいれる木下さん

 布製のフィルターでいれるネルドリップコーヒーの達人たちが昨年結成した一般社団法人「日本ネルドリップ珈琲普及協会」の専門店が東京・荻窪に生まれた。自分の店を将来持とうという若者が期間限定の店主として香り豊かなコーヒーをいれる姿がある。

     かつて東京・東京・吉祥寺に「もか」という自家焙煎(ばいせん)コーヒーの草分けの店があった。今は亡き店主の標交紀(しめぎ・ゆきとし)さんがネルドリップでいれたモカブレンドは絶品と言われた。コーヒー史にも詳しく、焙煎道具やポットなどを世界中で収集した。

     そんな標さんを師と仰いだのが森光宗男さん。1972年から5年間、「もか」で修業した後、故郷に戻って福岡に専門店「珈琲美美(びみ)」を開いた。ネルドリップの達人として全国に名を知られたが、昨年末、68歳で急逝した。自分のアイデアで開発されたコーヒー抽出器「NELCCO(ねるっこ)」の製作発表会で出張した韓国・ソウルの空港で倒れたのだ。

     エチオピアやイエメンへ何度も旅し、コーヒーの歴史や文化を探求し、著書「モカに始まり」にまとめた森光さんの死はコーヒー界の大きな損失となったが、その味を受け継ぐ若者がいた。昨春まで3年間、美美で修業した東京出身の木下隆也さん(35)だ。

     縁は異なもの。実は木下さんは20代のころ、「もか」で購入した生豆でコーヒーの「のどの奥に香り立つ味」に衝撃を受け、大坊勝次さんの「大坊珈琲店」(表参道)、関口一郎さんの「カフェ・ド・ランブル」(銀座)などネルドリップの名店巡りを重ねた。

     標さんが亡くなった後、木下さんは森光さんに「いずれ自分の店を持ちたい」と手紙で伝えた。「君がよければ福岡に来ればいいよ」。森光さんからそう言われ、「美美」で働くことになった。「私たちはコーヒーのしもべだ」という言葉を残した森光さんも、標さんと同じく昔気質の職人で、手回し焙煎をする背中で「究極の味」を語ろうとする人だった。

     「自分の店を出す前にここで試してみないか?」。今年春、東京で店探しをしていた木下さんに森光さんの仲間たちが声を掛けた。ネルドリップの魅力を広めようと森光さんらが設立した協会の店を「実験の場」として実践できるチャンスを得たのだ。

     白ワイシャツ姿でコーヒーをいれる木下さんを見守るように店の壁にはコーヒーの物語を描いた版画が飾られている。東京に戻る際、森光さんが「自分の店を出すときに使ったらいい」とプレゼントしてくれたものだ。チェーン店とは違う「おいしいコーヒー」へのこだわり。その情熱は世代を超えて受け継がれていくことだろう。【城島徹】

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