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女は死なない

第9回 玉の輿に乗るために=室井佑月

 若い女の子から「玉の輿に乗りたい」という相談を受けたりする。

     それが、幸せだとは到底、思えないんだけど。てか、そういうことって滅多にないんだよな。

    「昔ヒットした、プリティ・ウーマンという映画、知ってる? 売春婦にものすごい金持ちがプロポーズするのよ。ああいうストーリーが映画になってウケるってことは、現実では玉の輿なんてほとんどないんだわな。ちょくちょくあることなら、わざわざ映画にするわきゃないじゃん」

     若い女友達はひるまない。

    「ハァ? そんな映画知りませんよ。なんで売春婦が出てくるんですか? わたしは平凡なOLで、平凡すぎる自分の人生を変えたいんですよ。お金持ちと結婚し、生活を変えたい」

    「ちなみに、あんたが考える玉の輿とはどの程度?」

    「まず、専業主婦ですね。そんでもって、億ションに住んで、買い物は伊勢丹デパートの地下か成城石井か紀伊国屋(高級スーパー)へいくのかな? 花屋にいって、一本いくらかを気にしないで花を買う。それを玄関と、ダイニングテーブルに美しく飾るのが日々の仕事、みたいな」

    「おお、それは金持ちだ。それだと年収4千万から5千万以上ないと辛いかも」

    「えっ、そんなに!」

    「そりゃそうさ。年収1千万くらいの旦那じゃ、その生活はちょっと無理。子どもが生まれたら教育資金もかかるしさ。希望どおりにしたいなら、そのランクの男をまず探さなきゃね」

    「どこにいるんですか、そんな男。会社のお偉いさんだって、それほど年収あるかどうか……」

     そこで話は一旦終わりとなった。

     じつは、あたしは金持ちの男とバンバン会える方法を知っている。高級クラブのホステスになることだ。席について据え置きの酒を飲むだけで、一人5万円くらい取る店の。

     その昔、あたしはそういう店で働いていた。金持ちがたくさん来た。

     経費ではなく自腹で飲んでいるお客といえば、父親の代から通っているという社長、総合病院を経営しているという医者、 CMに出てくるような有名な寺の坊主。たまに、定期的にやってくる、という感じだ。

     企業を立ち上げ大当たりした成り金も来ていたが、そういう人が長くクラブに通いつづけることは稀だ。派手に遊んで、1年もしないうちに落ちていく。

     結婚ということを考えるなら、安定的に金持ちな前者の男を狙うべきだろう。女子アナが成り金と結婚し、大借金を背負ったなんて話も聞くし。

     しかし、前者の男と結婚するのはとても難しい。

     ホステスの仕事は、ただ隣に座って酒を注ぐだけじゃなく、その時、その場で、お客が望む女になることだ。そして、お客と疑似恋愛をする。

     長いことホステスをつづけていれば、擬似が本物になる場合もあった。

     だが、最終的に結婚となれば、金持ちが選ぶのはホステスのあたしではなかった。恋愛が盛り上がったところで結婚なんて言葉を出そうものなら、相手の男からかなりびっくりされる。

    「結婚なんて、家同士がするもんでしょ」といわれた。

    「べつに、誰と結婚したって、僕たちの関係はつづければいい」といわれた。

     お金持ちはお金持ちと結婚するのだと知った。金持ちほど、金が減るのを嫌がり、金を増やしたいと思うからだろうか。

     後日、酒を飲んでいたので、玉の輿志望の前出の友達に、自分の過去の体験を踏まえ、その話をしてみた。

     それでも彼女は、「お金持ちと結婚したい」といった。「誰か良い人いたら、紹介してください」と。

     そこまでいうなら、頑張ってみたら。「了解」とあたしは返事した。金持ちの独身男で売れ残っている知り合いを、頭の中でピックアップした。

    「ただし……」

     と彼女にはもう一つの真実を付け加えておいたが。

     相手に匹敵するほどの強い実家を持っていないから、2人の間でなにかあった場合、寄ってたかって、おまえのせいにされるのを覚悟しろ。理不尽だがそうなる。夫はパートナーではなく、神だと思い込むぐらいの覚悟で臨め。

     当たり前のように、24時間の奉仕を求められるかも。それも、わがまま議員の優秀な秘書にでもなったつもりで、こちらから頼み込みファンから付き人にでもなったつもりで、いいや、考えることを諦め奴隷になったつもりでやり過ごせ。

     ちなみに、巷ではそれほど心を尽くし働いたら、ブラック企業でないかぎり、高給がもらえる。「ありがとう」といってもらえる。

     自分の成功を目指したほうが楽しい。そのほうが、人生、お得だとあたしは思う。

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

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