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余録

105歳の医師、日野原重明さんは…

 105歳の医師、日野原重明(ひのはらしげあき)さんは過去に歴史的事件の現場に何度も居合わせた。その一つ、乗客として遭遇したよど号ハイジャック事件では機内で抜刀した犯人を見た時、すぐに自分の脈をとったという▲さすがに脈は速かったが、「つくづく私は医者」と思ったとか。振り返れば、戦時中は改名を強いられた聖路加(せいるか)国際病院で初めて直面した惨禍(さんか)が東京大空襲だった。病院には荷物のようにトラックに積まれた重傷者が次々に運ばれた▲だが1000人もの患者は多くが屋内にも入れず、ろくに手当てができない。薬はなく、患部の分泌物を吸収するため新聞を燃やした粉を用いるありさまだった。その半世紀後、同院院長として遭遇したのは地下鉄サリン事件である▲「患者はすべて受け入れる」。日野原さんが一般診療を中止し、そう決断した脳裏には大空襲の記憶があった。新築の病院には院長の発案で廊下などに酸素吸入設備が設けられ、緊急事態に多数の患者を収容できるようになっていた▲その日野原さんが当事者として加わった最大の歴史的事件は日本の長寿社会化だろう。人間ドックの創設や「生活習慣病」の概念の提唱で予防医学をこの社会にしっかりと根づかせた。その一身をもって示した医療の文化革命である▲日野原さんは初の患者だった少女が死を悟って別れを告げた時、救命措置に振り回されて安らかにみとれなかったことを終生悔いていた。患者のための医療とは何か--生涯をかけた問いがこの世に残された。

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