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<その176> 神宿る海の正倉院=城島徹

写真展会場の藤原新也さん=石田昌隆さん撮影

 ユネスコの世界文化遺産に登録された沖ノ島の写真展「沖ノ島 神宿る海の正倉院」が東京の日本橋高島屋で8月1日まで開かれている。玄界灘に浮かぶ周囲4キロの御神体の島で藤原新也さんが撮った古代祭祀(さいし)跡の巨石や幅12メートルのパノラマ作品「禁足の森」、出土した純金製指輪など数々の国宝の写真から古代人の息遣いが伝わる。

     「かりにこの島が世界遺産になろうと、それは人が立ち入ることのできない世界でも希(まれ)な世界遺産である。この島の情景は写真でしか伝えることができない。人々は写真でしか見ることができない。だから私はそれを伝えるために、祈りを込め、シャッターを押した」

     上陸が厳しく制限されている信仰の島で撮影した思いを、藤原さんは今春刊行の写真集「沖ノ島 神坐(いま)す海の正倉院」(小学館)でこう記している。

     「今回は藤原新也という個性を殺して記録に徹した」と自身は語るが、場の気配を感受し、それをレンズでえぐり出す力業は変わらない。1980年代初頭の「PLAYBOY日本版」の連載ドキュメンタリー「全東洋街道」の写真と文章にも通ずる。

     アジア西端のトルコから、シリア、イラン、チベット文化圏や東南アジアをたどって高野山へ--。モスクの尖塔(せんとう)が浮かぶボスポラス海峡のくぐもった色調の写真、「女は発酵したミルクのような匂いをいつも発散していた」といったリアルな言葉に覚醒された私たちはその旅を追体験しようとイスタンブール、カルカッタへと駆りたてられたものだ。

     この連載終了後に藤原さんと対談した作家の小田実さんは「あなたのあれ(『全東洋街道』)を読むと、くたびれがズーッと覆っている。それはひとつの魅力だよな。元気のいい旅というのは幾らでもあるが、あなたのは初めからくたびれている」とうなった。

     すると藤原さんは「ぼくはいま30代以下の人たちに感じるのは、汚物、異物を排除してるということです」と応じ、物質主義に傾斜する理念なき若年世代への憂慮を口にしていた。そして今、警鐘を込めたメッセージが沖ノ島から時空を超えて発せられたように思う。

     「全東洋街道」に通ずる世界観を写真展で感じた私に藤原さんは「ここ(沖ノ島)も同じ街道にある」とうなずいた。「あらゆる情報が白日のもとにさらされるこの21世紀の科学技術の発達した世にあって、情報が遮断され、触れてはならない自然が玄界灘の一角に残されていることの意味とは何か。船の航跡を眺めながら、そこに込められた古代人のメッセージに聞き耳を立てている自分がいた」。彼は沖ノ島でこう感じたという。【城島徹】

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