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余録

「これが、負けか」。稀勢の里に…

 「これが、負けか」。稀勢(きせ)の里(さと)に寄り切られ、派手に桟敷(さじき)まで転がされた白鵬(はくほう)はフーッと息を吐きながらつぶやいた。2010年11月15日、九州場所2日目、白鵬の連勝記録が「63」で止まった一番だった▲双葉山(ふたばやま)の69連勝の記録を目の前にして及ばなかったが、当時の白鵬はその翌年にかけて達成した7連覇の真っ最中である。「負け」の感覚すらも忘れさせた心技体の絶好調だったが、その時に大相撲は未曽有(みぞう)の危機のさなかにあった▲「【は】白鵬角界救い投げ」は、その年の小欄の年末回顧いろはカルタである。同年から翌年、野球賭博と八百長事件で本場所中止や中継放送中止に追い込まれた大相撲だった。存続の崖っぷちで一人横綱の土俵を守った白鵬である▲そんな相撲界を救った勝ち星もある1048勝だった。白鵬が元大関・魁皇(かいおう)の記録を抜いて歴代最多勝を更新した。うち954の幕内での勝ち星は2位の魁皇のそれを75勝も上回る。大相撲の歴史に輝く名力士たちをも圧する記録だ▲同時期にモンゴルから来日した7人のなかでも体が小さかったため帰国直前まで入門が決まらなかったエピソードは有名である。最初の序ノ口では3勝4敗と負け越したが、「あの3勝が今に生きている」と振り返る16年後となった▲大相撲のピンチの時も相撲の神様はちゃんと土俵にいることを示した白鵬である。けがに苦しむ近年だが、いざとなれば先場所のような全勝優勝もしてみせる。その目にはさらに高い峰が見えているのだろう。

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