メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

女は死なない 第10回 スケベを超えて異性が好きか=室井佑月

 アメリカのトランプ大統領が、フランスのマクロン大統領の奥さんに対し、「あなたはスタイルが良い」といったことが、欧米メディアで「セクハラだ」と話題になった。

     えーっ! 欧米ではそのくらいで叱られるの? それってもはや世界的常識なの?

     だって、以前はもっとすごいこという国のトップもいたじゃんか。イタリアの元首相、ベルルスコーニさんとか。

    ベルルスコーニさんは、フランスのサルコジ元大統領に向かって、

    「あなたの妻はわたしがあげた」

     っていったんだ。サルコジ元大統領の夫人がイタリア系だったから。

     女性は物じゃないってーの。すごいこというな。

     でも、そのときも、あたしはゲラゲラ笑ってしまった。女好きのベルルスコーニさんのキャラが際立っていて、この人がいかにもいいそうなジョークだと思った。

     ま、トランプ大統領がつい口を滑らせたのもわかる。マクロン大統領の奥さんのブリジット夫人は、たしかにスタイルが良いもの。ミニスカートがとても似合う。

     なにしろ、高校生だったマクロンさんが熱烈に恋した、24歳年上の国語教師。両親の反対にもめげず、マクロンさんが猛烈アタックし、子持ちで再婚したんだよ。

     あたしが男だったら、口笛をピューッと鳴らしたいところかも。

     あ、話がそれてしまった。女性に対し、どこからがセクハラ発言となって、どこからが褒め言葉なのかというのは、すっごく微妙だということ。

     自分がいて、相手がいて、それぞれの感情があって。100人の女がいて、100人の男がいたら、1万通りの考えが生まれるってことである。

     なので、今から話すことは、あたしの至極、個人的な一つの考え方だと思って聞いてください。

     あたしは男の「女が好き!」という気持ちに付け入ってホステス業をし、生活を営んでいた。付け入ってという言葉は悪いけど、男のそういう気持ちがなければ、正直、その仕事はないと思う。

     ただし、男が金を払って遊びに来るところだから、そこの部分で、相手が強かったりする。

     そうすると、どういうことになるか?

    「あんたはわざわざ、お金を払ってあたしに会いに来るんだもんね。いいわよ、いただくお金のぶんだけ楽しくさせるね。あたし、あんたのまわりの女と違う、最上級の女、プロですから」

     という上から目線の女の感情と、

    「おまえは所詮、女を売っている(時間のことです)人間だろ。なに気取ってんだよ。俺様をさっさと喜ばせろ。楽しくさせろ。いくら払ってると思ってるんだ」

     という上から目線の男の感情とぶつかるわけ。

     女だということが価値になる自称良い女と、良い女もお金で好きにできると思っている男は、なかなか噛(か)み合わない。

     しかしこれが、バッチリ合致することもあるんだよな。

     この男は本当に女が好き。性の対象であるとか征服したいとか、そういうチンケな思いを越えて、ただただ女が好きだとわかったとき。

     それがわかったとき、ホステスは自分は女のプロだという意地も働いて、

    「今までどういう女と出会ってきたの? あたしがもっと特別の楽しい夢を見させてあげる」

     となるんである。

     でもって、女好きと自負する男も、

    「やってみれ、やってみれ」

     となるんである。

     なんといったらいいかな? そこに案外、エロエロなことは少なくて、たとえるなら学園祭で、難しい舞台を一緒にやってみたが、楽しかったみたいな感じだ。

     大昔、ホステスをやっていたとき、あたしはしょっちゅうそのお客さんに携帯から電話し、「すっごいことがあったの。あれ、電波が……」といってブチ切りしていた(当時は電波のつながりが悪かったんである)。

     べつに、そんな毎日のように変わったことなんてあるわきゃない。けど、そのお客さんは、「なにがあったんだ」と店に来た。今考えると、そのお客さんは本当の女好きだから、騙(だま)されたとわかっても、しゃあないなとあたしを許した。

     その逆で、そのお客さんが病院で入院する羽目になったとき、それはたわいもない病気であったが、そのことを知らないあたしはこういわれた。

    「最後におまえの裸が見たい」と。

     あたしは彼の入院している個室で、すぐに素っ裸になった。そのとき、看護師さんたちが入ってきて……。

     彼は退院してから、あたしの勤める店で、その話をするのが大好きだった。あたしも心底、男好きだからか、そのくらいのいたずらは許した。やるよな、といった感じで。

     その後、彼は寿命で死んだ。

     あたし以外の誰かがやられたら、「セクハラ!」というんだろうか。あたしは嫌じゃなかった。むしろ、何年たとうが、彼に会いたい。

    室井佑月

    1970年、青森県生まれ。雑誌モデル、銀座・高級クラブでのホステスなどを経て、1997年に「小説新潮」主催「読者による『性の小説』」に入選し、作家デビュー。小説家、随筆家、タレントとして多岐にわたり活動している。2000年に第一子となる男児を出産。2016年には、一人息子の中学受験と子育てについて愛と葛藤の8年間を赤裸々に綴ったエッセー『息子ってヤツは』(毎日新聞出版)を上梓。主な著書に『熱帯植物園』(新潮社)、『血い花』(集英社)、『子作り爆裂伝』(飛鳥新社)、『ママの神様』(講談社)などがある。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. ORICON NEWS 声優・鶴ひろみさん死去 事務所が正式発表 運転中に大動脈剥離
    2. 小6女児 自宅2階から飛び降り自殺か 埼玉・鶴ケ島
    3. 京都市バス 運転手、転倒の客救護せず「毎回こけますね」
    4. 日馬富士暴行 任意聴取で認める 診断医師は重傷否定
    5. アンパンマン ドキンちゃん役、鶴ひろみさんが病死か

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです

    [PR]