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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー 柳家さん喬 『柳家さん喬 大人の落語』

噺家が前に出てはいけない 自分を落語に乗せるんです

◆『音声DVDで聴ける! 柳家さん喬 大人の落語』柳家さん喬・著(講談社/税別1800円)

 この人が寄席でトリを取ると知ると、お客さんは安心する。軽やかな語り口、人物描写の正確さ、背景に漂う江戸の匂いなど、古典落語を堪能させてくれるからだ。そんな名手が、持ちネタの聞かせどころをテーマ別に語る『柳家さん喬 大人の落語』。しかもDVD(音のみ)付き。

「3席収録したDVDなら、それだけで最低1500円はする。今回の本は1800円だから、じゃあ、本は300円なのかと(笑)。でも、本の内容が面白くて、DVDは聞いてないと言ってくれる人もいました」

 本書では、20の名作について、夫婦、廓(くるわ)の男女、女の強さと男のせつなさ、一途(いちず)な純愛など、さん喬師の独自の視点で解きほぐしている。

 道具は扇子と手拭いだけ。座布団に座ったきりの一人舞台。そんな不自由な状況下で、同じ噺(はなし)でも、解釈の違いや演じ方によって別の噺に聞こえる。落語が、何度聞いても面白く、感動するのはそのためか。

「噺家には、お客様と同じ絵を描く楽しさがあります。くわしく描写しなくても、同じ景色を見るわけです。そういう時、お客様は『いい噺を聞いた』と感じるのです」

 雪山の家を舞台にした「鰍沢(かじかざわ)」をさん喬師が高座にかけた時、「まだ雪は降ってるようですね」と言った瞬間、客席にいた人が思わず後ろを振り返ったというエピソードが紹介されている。まさに名人。

「私は東京・墨田区本所の生まれで、実家は食堂、通り一つ隔てて木賃宿という環境で育ちました。店に“オカマのマサちゃん”という人が出入りしていて、『お釜』を直す職人だと思ってた(笑)。銭湯には全身入れ墨を入れた人がいて、小さい子が転びそうになったのを、さっと抱いて助けたことがあったんです。その時、入れ墨がすごくきれいに見えた。そうした社会の底辺、人生の縮図を見た体験が、落語をする上で生きていると思います」

 師匠の5代目柳家小さん(2002年死去)との思い出も、本書の読みどころ。失敗しても正直に話せば怒らなかった。ただ「嘘(うそ)だけはつくな」と教えられた。大きな人だった。

「年齢によって好きな噺も変わってきて、最近になって、師匠の噺がやりたくなってきた。究極は『笠碁』(碁敵の男が登場する滑稽(こっけい)噺)ですね。晩年に聞いた師匠の『笠碁』が、なぜか悲しかった。小さんの気持ちが降りてきたからでしょう」

 小さんが作り上げた落語の土台を、次の世代に伝えるのが、自分の仕事だと言う。

 噺家として“演じる”とはどういうことですかと聞くと、きっぱりとした答えが返ってきた。

「役者は演じる自分がいるけれど、噺家は自分が前に出てはいけない。自分を落語に乗せるんです。演じる“媒体”の使い方が違うんですね」

 芸も年齢も円熟期に達した。誰もが知っている有名人ではなくても、「落語家で誰が好き?」

(構成・竹坂岸夫)

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柳家さん喬(やなぎや・さんきょう)

 1948年、東京都生まれ。67年高校卒業後、のちの人間国宝・柳家小さんに弟子入り。前座名「小稲」から「さん喬」となり、81年に真打ち昇進。今年芸歴50周年を迎えた。芸術選奨文部科学大臣賞など受賞多数。2017年、紫綬褒章受章

<サンデー毎日 2017年8月20-27日夏季合併号より>

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