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社説

きょう終戦の日 目指すべき追悼の姿とは

 今年も8月15日がめぐってきた。

     政府が終戦の日に全国戦没者追悼式を開くようになったのは1963年からだ。日中戦争以降の戦没者310万人を悼み、不戦を誓う国家行事だが、会場の日本武道館はあくまで1日だけの設営である。

     戦没者のうち50万人は、国内での空襲や原爆で命を落とした市井の人びとだ。戦争は遠い南洋から国内の隅々までを巻き込んだのに、これらすべての戦争犠牲者を横断する恒久的な追悼施設が日本にはない。

     それはなぜだろうか。

     2008年2月、滝実衆院議員は空襲被害者向けの国立慰霊碑の建立を求めて質問主意書を出した。

     福田内閣は、兵庫県姫路市にある「太平洋戦全国戦災都市空爆死没者慰霊塔」の平和祈念式に政府代表も参列していることを理由に、建立の考えはないと回答している。

    一貫しない政府の姿勢

     姫路の慰霊塔は、空襲の被災自治体が共同で56年に建立した。軍人・軍属に比べ「無辜(むこ)の市民」には「国家的に何らの顧慮も払われていない」ことへの抗議でもあった。

     確かに姫路には総務省政務官らが派遣されている。ただし、毎年の参列は03年からであり、政府の姿勢が一貫しているとは言い難い。

     東京大空襲(45年3月)で推定10万人が亡くなった下町地域には、小さな慰霊施設が数多く点在する。

     その一つ、江東区森下の「八百霊(やおたま)地蔵尊」は終戦の翌年にできた。800人近い犠牲者が名称の由来だ。

     家族生き別れで遺骨もない人が多かった。そこで2年前、過去帳を基に全死没者の氏名を刻んだ御影(みかげ)石の墓碑が祠(ほこら)の横にすえられた。

     墓碑建立に取り組んだ築山実さん(88)は「多くの遺族にとって地蔵尊はお墓代わり」と話す。

     このように、国内の非戦闘員に対する慰霊・追悼は、自治体や地域の人びとの自発性に負ってきたのが実情だろう。そこに確固とした国家意思を見いだすことはできない。

     背景には、戦没者の死の意味に対する理解の分裂がある。国家に尊い命をささげたと考えるか、国家の過ちの犠牲になったと考えるかだ。

     前者の代表は靖国神社だ。遺族にとって夫や息子の死が無駄ではなかったことを確認しなければ心の傷は癒やされない。靖国こそ慰霊の中心施設だという心情は理解できる。

     しかし、靖国神社の最も重要な機能は国家に殉じた人の顕彰にある。それは必然的に国家に功績があった死者かどうかの選別を伴う。

     合祀(ごうし)者の中には、補給を度外視した作戦で餓死した人や、捕虜を恥とする「戦陣訓」を守って自決した人が数多く含まれる。顕彰によっても国家の罪は免れない。

     戦後の一時期、靖国神社が平和主義志向を強めたこともあった。しかし、松平永芳宮司時代の78年にA級戦犯を合祀して以降、内外の批判を受け付けない体質が強まり、中心的な追悼施設になる道を自ら遠ざけてしまったように見える。

    差異乗り越える努力を

     戦争受忍論と呼ばれる考え方も追悼施設の議論に水を差してきた。

     戦争という非常事態に伴う犠牲は、国民が等しく受忍しなければならないとして、空襲被害に対する国家責任を否定する論理だ。

     今年4月に亡くなったフォーク歌手、加川良さんは代表曲「教訓1」で「御国(おくに)は俺達死んだとて/ずっと後まで残りますヨネ/失礼しましたで終るだけ」とそれを皮肉った。

     アジアから見れば日本は加害者である。同じ敗戦国のドイツは統一後の93年に中央追悼施設を内外すべての戦争犠牲者向けに改装した。

     追悼式の首相式辞で「アジア」に初めて触れたのは93年の細川護熙首相だ。以来アジアへの加害責任が踏襲されてきたが、安倍晋三首相は13年から一貫して言及を避けている。

     国家は国民の共同体として存在する。国家意思は変わっても国民への責任は負い続ける。その国家が進めた戦争による犠牲者の追悼をめぐって、戦後日本は異なる流れをまとめられずに今日まできた。

     国立の恒久施設のない現状では、この溝が埋められない。政府は歴史的な経緯や差異を乗り越える努力をすべきである。それでこそ「不戦の誓い」は強さを増す。

     72年続く平和がすべての戦争犠牲者を礎にしていることは言うまでもない。立場や事情を問わずに等しく追悼できる環境を整えることが、死者への責任の果たし方だろう。

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