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長寿リスク社会

検証・介護報酬改定/上 生活援助「乱用」に異論

1人暮らしの飯田安夫さん(左)に朝食を食べ切るように促すヘルパーの小林聖子さん。「生活援助サービスは利用者の気持ちをサポートし安心を与える」と小林さんは話す=静岡県三島市で

 <くらしナビ ライフスタイル>

     介護保険制度で介護事業者に支払われる「介護報酬」の改定議論が厚生労働省の審議会で進んでいる。波紋を呼んだのが財務省が示した介護サービス削減案だ。財務省は訪問介護の中の家事など「生活援助」の利用に上限を設定、デイサービス(通所介護)でリハビリが行われない例などで報酬を減らすと提案。健康保険組合連合会などが賛意を示す一方、介護家族や介護者側から疑問の声も出ている。議論を現場から検証した。

     ●意欲引き出す

     「ご飯、しっかり食べて。牛乳も飲んで」。静岡県三島市のアパート。ヘルパーの小林聖子さん(49)が促す。1人暮らしの飯田安夫さん(77)は「うるせえなあ」と笑いながら卵かけご飯を完食、牛乳も飲み干した。「愛のムチだわね」と小林さんも笑う。飯田さんは肺気腫で昨年入院。退院後、生きる意欲が湧かず、食事は残し、薬も飲まず、起き上がれず失禁も始まった。

     ヘルパーが食事の準備や食べるのを促す「生活援助」を始めると、飯田さんは徐々に意欲を取り戻し食べられるようになった。現在、要介護1と認定され週5日程度、朝夕に生活援助を受ける。

     小林さんは朝9時に訪れるとエアコンが利いているかチェック。「夏は熱中症との闘いです」。冷凍していたご飯を温めて卵をかけて朝食に。薬を目の前で飲んでもらう。急いで買い物に行った後、昼食をテーブルに準備。着替えやベッドの様子、ごみの内容など生活ぶりや、携帯電話の充電も確認した。

     小林さんが所長を務める訪問介護事業所「ラ・サンテふよう」は、入院後、施設に短期滞在して食欲が低下、車椅子で「このまま死ぬかも」と話していた女性(89)を自宅に戻し、生活援助中心に食事で元気にさせ、自力で歩けるまで回復させた。「生活援助がなければ施設入所していた。ヘルパーが生活をマネジメントし、安心を与え意欲を持たせる生活援助は在宅生活の基盤だ」と話す。

     ●財務省は削減主張

     だが財務省は生活援助削減を主張し続けている。介護報酬は厚労省の社会保障審議会介護給付費分科会で議論されているが、財務省が作った資料が論議を呼んだ。「生活援助のみ」を昨年9月に90~101回利用した16自治体の21例が並んでいる。「月31回以上の利用者が6626人にのぼる」と「必要以上の提供」だと乱用を強調。1日の「報酬の上限設定」を提案した。財務省は「便利だから使うということではない」と削減案の意図を説明する。

     厚労省の昨年の調査では、「生活援助中心型」のサービスを受ける人が要介護1で53・4%、要介護2では43・2%いる。財務省は要介護1、2の生活援助を介護保険制度の本体から外し、自治体が主導する介護保険制度内の別の仕組みに移行するよう主張してきた。今回の上限設定案はその地ならしだ。分科会では本多伸行・健康保険組合連合会理事が「過剰なサービス提供」への懸念を表明、上限設定や地域移行を全面的に支持。鈴木邦彦・日本医師会常任理事も生活援助の「回数を減らす」よう主張した。

     ●認知症利用の実態

     ところが毎日新聞が16自治体に問い合わせ、人物の特性が判明した80~91歳の10例を見ると、8例が独居の認知症で、1例は早朝から夜まで働く息子と暮らす物忘れの激しい80代の女性だった。最大の101回だった北海道標茶(しべちゃ)町の女性(80)は山間部に住み、軽度の認知症で、元々の疾患のため自発行動が弱く、食事や衣服の着脱に促しが必要だ。町の特別養護老人ホームは100人待ち。町は「回数だけ問題にされるのは心外。やむをえない事例」と話す。

     他にも岩手県八幡平市などで作る盛岡北部行政事務組合管轄の認知症の男性(89)は、2人暮らしだった認知症の妻が入所し、介護していた息子の嫁も入院。精神的に不安定で向精神薬の服薬確認や3度の食事の準備で1日3回、月90回利用した。組合は「特別な事情がある」と話す。厚労省振興課は多くの例が「在宅介護の限界事例だ」と話す。

     分科会メンバーの一人、「認知症の人と家族の会」の田部井康夫副代表理事は「財務省の印象操作だ。厳しい環境に置かれた認知症の人が使っている。逆に言うと生活援助で認知症の人が在宅で暮らせる良い例ではないか」と話す。

     京都ヘルパー連絡会(浦野喜代美事務局長)は昨年、京都府内の現場ヘルパーにアンケート調査を実施。要介護1、2の212例のうち、生活援助が外され、代替手段を私費で十分まかなえない場合、「身体状況や精神状況が悪くなる」と予想される例が約8割だった。病気の長女と暮らす80代の女性の自宅は、生活援助が入る前は使用済みオムツや弁当箱が不潔に散乱していた。生活援助がなくなれば逆戻りし「精神面の悪化が進む」とヘルパーは記す。浦野事務局長は「生活援助で10年以上状態を維持する人もいる。生活援助は利用者を安心させ、生きる意欲を引き出すことを理解すべきだ」と話す。【斎藤義彦】

     ●限度額は超えず

     財務省が示した例で個人が特定できた14例のうち11例の費用は「区分支給限度基準額」(限度額)以下だった。介護保険制度には元々、「利用に歯止めが利きにくい」(厚労省)ため、要介護度ごとに在宅サービス費用の限度額がある。これを超えた利用は自己負担だ。限度額は2000年の制度発足以来、消費税引き上げに伴い1度、上げられただけで、ほぼ据え置かれている。1人当たりの平均利用額は限度額の約32~65%。超過利用する人は全体の0.2~5%しかおらず乱用とは言い難い。神戸市などの3例は超過分を自己負担する。神戸市は「適切なケアプランに基づいている。本人が限度額を超え自己負担で使うのは自由」と話す。

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