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長寿リスク社会

検証・介護報酬改定/下 仕事と両立の発想欠落

 ●進まぬ時間延長

    デイサービス「人生の里」で、朝食サービスの食卓に向かう利用者を手助けする兼本まゆみ主任(左)=福島県いわき市で

     「みんなで食べるとおいしいねえ」。玄葉チエ子さん(75)はご飯、みそ汁、目玉焼きの朝ご飯を平らげた。福島県いわき市のデイサービス「人生(いきがい)の里」(定員35人)。昨年4月から始めた朝食サービスで7人がテーブルを囲む。映画「ティファニーで朝食を」よろしく「デイサービスで朝食を」がその名前だ。本来は午前9時半スタートだが9時からに前倒しして30分間を朝食に充てる。兼本まゆみ主任は、朝食を食べず、薬も飲んだかわからない利用者がぐったりしているのを目にして早めの朝食提供を提案した。

     玄葉さんは、直前の食事や薬の服用も忘れる。親族が自宅で見る水曜、日曜以外の週5日、デイサービスが朝食と服薬管理を担う。兼本主任は「本人、家族、職員も安心できる」と話す。介護保険制度の適用外だが1回180円と低価格に抑え、現在いる職員でやりくりし対応する。

     朝食サービスのもう一つの狙いは「仕事と介護の両立」だ。玄葉さんの長男安広さん(57)は毎朝5時に仕事に向かう。以前は朝食を作り置きして出たが、母が冷蔵庫にある物をどんどん食べてしまうため心配だった。「朝食サービスで私が精神的に助かっている」と話す。「人生の里」では夕食提供なども検討中だ。

     ただ、「人生の里」のように利用者・介護者本位でデイサービス延長に取り組む例は少数だ。厚生労働省は2015年度の報酬改定で14時間までの延長を認め、高い加算を設定したが、昨年の委託調査によると約4割の施設がサービス時間は7時間~7時間半。午前9時半開始、午後4時終了が一般的だ。時間が長いほど「仕事と介護が両立しやすい」と回答した家族が多かったが、10時間以上の加算4種類を算定している事業者は各4%以下だ。

     ●「保育園より短い」

     「デイサービスの預かり時間は保育園より短い」「一般的提供時間(8時間)で介護と仕事の両立が可能か疑問」。政府の「働き方改革」「1億総活躍社会」を巡る議論で出されたデイサービスを批判した二つの資料だ。介護報酬を議論した今年6月の社会保障審議会介護給付費分科会でこの資料に委員から反発が出た。鈴木邦彦・日本医師会常任理事は、人手不足が深刻で保育所に夜勤がないため「同列には論じられない」と話す。

     昨年の「働き方改革実現会議」に資料の一つを出した白河桃子・相模女子大客員教授は「これまでは嫁やパートの女性が介護を担ってきたが、今後は男性が担う確率が高い。働き盛りの男性が介護する発想が抜け落ちている。感覚が昔のまま」とあきれる。

     昨年の「1億総活躍社会に関する意見交換会」の資料は、介護に直面する中高年が働き続ける障害をなくし、税や保険料の担い手であり続けてもらい社会保障財源を確保する提案だ。しかし分科会委員の本多伸行・健康保険組合連合会理事は「(急増する支出に)間に合わない」とこの案を事実上否定。「支出にブレーキをかけるべきだ」とサービス削減先行を主張する。

     本多委員は「自立支援を実施」せず「機能回復を図る適切なサービス提供」のない「漫然」なデイサービスの「減算」を提案した。「単なる預かりは問題」と話す。委員の東憲太郎・全国老人保健施設協会会長も「心身の機能を維持できていなければペナルティーを科すべきだ」と述べた。

     ●軽度者にしわ寄せ

     財務省は例えば機能訓練加算がない事業所の「減算措置」を唱える。デイサービスは介護保険の総費用の約17%を占める。財務省はその約半分を占める要介護1、2のデイサービスを介護保険制度の本体から外し、自治体が主導する介護保険制度内の別の仕組みに移すよう主張する。「減算」はその露払いだ。

     日本医師会の鈴木常任理事も、家族の休息を目的とした預かりだけなら報酬評価を抑えると主張。「このままだと軽い人のサービスを切り詰めないといけない。本当は消費税も社会保険料も上げたらいい。その余地はある」と話す。

     千葉県柏市の民家に笑いがはじける。「あいゆうデイサービス東山」(定員8人)は認知症専門の小規模施設だ。昼食の調理や洗濯物をたたむなど、利用者がそれぞれ小さな役割を果たす。週1回、理学療法士の指導も受けるが加算は取れず財務省の主張通りなら減算対象だ。

     目のほとんど見えない男性はキノコの下準備はできなかったが、青菜の処理はできた。問題行動があり他の施設を断られた人も人間らしく扱われると落ち着く。「みんな『自立支援』を勘違いしている。要介護度を下げるのは一面的。その人らしい生活を継続することこそ自立支援だ」と内田千惠子施設長は話す。

     介護保険に詳しい伊藤周平・鹿児島大法文学部教授は「通常は現状維持が精いっぱいで、状態が改善したかどうかの基準もあいまい。減算は介護サービス抑制を正当化する手段になる」と批判する。【斎藤義彦】

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