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風知草

人知らずして慍らず=山田孝男

 小泉訪朝から15年。小泉純一郎元首相(75)が密使でまた訪朝という観測がある。ご当人に確かめると一笑に付された。

     それにつけても、天下の形勢をどう見るか。感想を求めると、トランプ米大統領(71)に「論語」を伝えたい--という熱血・小泉節が飛び出した。

          ◇

     「日本の道徳観念の基本は『論語』なんだよ。<人知らずして慍(いきどお)らず。また君子ならずや>。他人が自分を理解してくれなくても憤らない、怒らない。これが君子(徳を備えた理想の人格者)なんだよ」

     「『論語』の神髄は<忠恕(ちゅうじょ)>だよ。<忠>はまごころ、<恕>は思いやり。(首相在任中)中国へ行った時も、何か書いてくれっていうから(忠恕と)書いたよ。江沢民(国家主席=当時)の前で。批判されても怒らず、批判は批判として受け入れる。これ、日本的な、中国の古典の神髄なんだよ」

     ちなみに<人知らずして慍らず>は「論語」全編の冒頭、<子曰(しいわ)く、学びて時にこれを習う><朋(とも)あり遠方より来たる>に続くくだり。<慍らず>は「いからず」などとも読む。

     日本ならぬアメリカは別かもしれないが、「トランプは論語の精神から懸け離れてるよ。しょっちゅう相手を批判してるだろ。<人知らずして慍らず>が全然わかってないって言ってやりたいんだよ」

          ◇

     2002年9月17日、小泉首相は平壌で金正日(キムジョンイル)総書記(故人。金正恩(ジョンウン)朝鮮労働党委員長の父)と会談、日本人拉致被害者5人が帰国した。

     一方、今夏、安倍晋三首相が森喜朗、小泉、麻生太郎の歴代首相と会食。さては「密使の相談か」という観測(週刊新潮、週刊朝日など)が出た。

     現・元4首相は8月15日夜、山梨県鳴沢(なるさわ)村にある笹川陽平日本財団会長の別荘に集合。並んで爆笑の「4ショット」を笹川がブログで公開。写真は25日の毎日新聞にも載った。

     --密使の打診が?

     「ないよ」

     --笑った理由は?

     「忘れたよ」

     --爆笑ですが。

     「あんな大笑いで写真に写ったの初めてだよ。でも思い出せない。年だね。スシ食って、派閥全盛時代の昔話だった」

     --北朝鮮の話題は?

     「ない、ない」

     --でも報道が。

     「ウソ。みんなウソ。相手がオヤジさん(故・金正日総書記)だったらそういう話も出るかもしれないけど、(金正恩委員長は)知らないもん」

     小泉は首相在任中の04年5月、再び訪朝して拉致被害者の家族を帰国させたが、日朝交渉は事実上、途絶えた。

     11年12月、金正日死去で金正恩が権力掌握。北朝鮮の核・ミサイル開発と挑発はやまず、日本は日米同盟強化、ミサイル防衛予算増額で今日に至る。

          ◇

     「論語」は紀元前500年前後に生きた孔子と高弟の対話録である。成立は後漢時代(1~3世紀)。朝鮮半島を通じ、5世紀ごろ日本に伝わった。

     大航海時代を経て18世紀西欧の啓蒙思想に波及。1937年にできた米最高裁の、屋根の下の壁には預言者モーゼ、ギリシャのソロンとともに、孔子の立像が彫り込んである。

     <人知らずして慍らず>は日本ローカルの旧思想ではなく、21世紀の国際対話を促す金言に違いない。(敬称略)=毎週月曜日に掲載

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