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著者インタビュー 安野光雅 『本が好き』

美人と対等になるためにたくさん本を読んだ

◆『本が好き』安野光雅(山川出版社/税別1800円)

 安野光雅さんといえば、美しい水彩画や絵本などの画業とともに、さまざまな書籍を装丁し、多くの著書がある。一言で言えば「本」の人。そんな安野さんが、この本で人生と本の関わり方を振り返る。

「子どもの頃からとにかく本が好きでした。それは津和野という田舎の生まれ、ということもある。町に本屋がない。だから母親が買ってくれた『少年倶楽部』を、隅々までなめるように読んだ。1冊の本が宝物だったんです」

 本好きの少年が成長ののち上京。東京・神田には書店、古書店が櫛比(しっぴ)し、憧れの出版社も集まっていた。東京は「本の街」だと思った。

「東京に来て思ったのは、本屋が多いことと、女の人がみんな美人。僕のような田舎者は、美人と対等になるため、たくさん本を読んだってところがあった(笑)。貧しくてねえ、古い背広を裏返しに着ていましたよ。それでも本は買いました。昭和20年代はみんな活字に飢えていてね。三鷹で教師をしていた時分、筑摩の『現代日本文学全集』が毎月1冊発売されていて、ノルマと課して読んでたけど、そのうち追いつかなくなった」

 本書では、若き日にがむしゃらに読んだ『ファーブル昆虫記』をはじめ、デカルト、大佛次郎、小泉八雲、芥川龍之介、イザベラ・バード、谷川俊太郎と多彩かつ重厚な「本が好き」体験が、生き生きと綴(つづ)られている。時を経て、自らも本作りに関わるようになる。

「玉川学園に美術教師として赴任したのに、出版部へ回されて印刷の現場を見た。まだ活字を拾って組んでいる時代です。『天皇陛下』が四文字まとめてあったのは、絶対間違っちゃいけないからです。よくできているよね。のちに本を作るようになって、この現場の体験が役立った」

 昭和40年代、児童向け文学全集の刊行が盛んで、よくデザインを任された。挿絵も手がけた。今に至る“装丁・デザイン・画の安野光雅”の誕生だ。

「講談社の児童書担当で、『講談社の絵本』なんかを作った曽我四郎という編集者から呼ばれて行ったら、『“イ”を頼みたい』と言う。何のことかと思ったら、絵の依頼なんだ。彼、東北人で“絵”が“イ”になっちゃう(笑)。加藤謙一は『少年倶楽部』の名編集長。話したら夢中になって、大の男が本の話で少年になるんだから」

 そんな「少年」も今や91歳となった。90歳を超えて新刊書が出るのがすごい。活力、健康の秘訣(ひけつ)をお聞きした。

「年齢はまったく意識してない。健康のために歩くとか、薬を飲むとかもしませんね。なるようにしかならないと思っているから。迷信ですが、昔から絵描きは長生きすると言われているし(笑)」

 この本の「あとがき」に印象的なエピソードがある。中国・鎮江の「パール・バック記念館」を訪れた時のこと。そこで静かに読書する中国人女性を見かけた。

「いやあ、それが美しいんですよ。女優の美しさとはまた違う。その時、思ったね。本を読めば女性はみな美人になる」

 次作タイトルがこれで決まった。『本を読めば美人になる』だ。

(構成・竹坂岸夫)

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安野光雅(あんの・みつまさ)

 1926年、島根県生まれ。88年、紫綬褒章受章。絵本『ふしぎなえ』『旅の絵本』『ABCの本』や、画集、エッセー集などの著作も多い。現在、津和野に「安野光雅美術館」、京丹後市に安藤忠雄設計の「森の中の家 安野光雅館」がある

<サンデー毎日 2017年9月24日号より>

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