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余録

「あんたが本当の土星人なら…

 「あんたが本当の土星人なら、恋人を裏切ったりするものですか。この天体の五つの衛星もあんたよりはまだ落ち着きがあるし、輪にしてもあんたほど変わりやすくはないわ」。土星人の女は恋人をののしった▲18世紀の啓蒙(けいもう)思想家、ボルテールの寓話(ぐうわ)「ミクロメガス」の土星人である。巨大なシリウス星人とともに地球を訪れ、彼らから見れば砂粒より小さい地球人と哲学問答をする。土星の衛星がまだ五つしか見つかっていない時代だった▲今では60個を超える衛星が見つかっている土星である。うち七つの発見は20年前に米欧共同で打ち上げた無人探査機カッシーニによるものだった。その探査機が13年間にわたった観測を終え、あす土星の大気圏に突入して燃え尽きる▲この探査で地球に送ってきた土星の表面、輪のしま模様、そして衛星などの画像は45万枚以上にのぼる。その間には着陸機ホイヘンスを最大の衛星タイタンに送り込み、液体メタンの海や、雲、雨といった現象もあることを観測した▲研究者を驚かせたのは、衛星エンセラダスから噴出する蒸気の観測だ。厚い氷の下は大きな海で、生命が生まれる環境のある可能性を突き止めたのだ。任務完了後の大気圏突入はこの2衛星への墜落による汚染を防ぐために選ばれた▲カッシーニは最後の瞬間までデータを送り続ける。機械に感情移入するのは日本人の特徴といわれるが、そうとも限らない。20年間の労をねぎらい、永遠の別れを悲しむ声が世界中からわき上がっている。

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